フォトエッセイ 猫とのほほん日和【第1回】
猫の写真を撮影する日々のはじまり

猫の写真で人のきもちを動かしたい

僕が写真を始めた頃、メインの被写体はもっぱら人でした。動物好きなので、もちろん猫も撮影していましたが、「撮ってはいた」という程度でした。ところが、転機は思いがけず訪れます。

当時は福祉施設で働いていて、そこで開いた展示会に猫の写真をたまたま掲示しました。すると、ダウン症の女の子が「見て、見て!」とでもいうように、お母さんをその写真の前に引っ張っていったのです。2人で嬉しそうに猫の写真を眺めてくれている様子を見て、「いろいろな人のきもちを動かせるのはこれだ」と感じました。

両親が香川県の小豆島育ちだったため、小さい頃から小豆島と大阪をよく行き来していました。それもあって、「猫の写真を撮ろう」と決めたときには、瀬戸内海の猫島がまず頭に浮かびました。「島で猫の写真を撮る」と決めたら、いてもたってもいられず、好物のどら焼きと缶コーヒーをリュックに詰め込んで、ある金曜日の夜に高松行きの夜行バスに乗り込んだのでした。

高松でフェリーに乗り換え、島に着いて船を降りると、ちょうどお昼休み中の工事関係のおじさんたちのまわりに猫が10匹ほど群がっていました。横からその様子をのぞいていると、なんとなく様子がわかってきました。猫たちは、おじさんたちが食べているお弁当を狙って、甘えたり、おねだりしたりしているのでした。僕はそれをぼっーと見ていたのですが、少したつとおじさんたちは作業に戻り、猫たちは今度は僕の方に向かってきました。

たくさんの猫に囲まれる

たくさんの猫たちが僕をめがけてやってくるのは初めての経験でした。すごい勢いで駆けてくる猫がいるかと思えば、ゆっくり歩いてくる猫もいます。気がつけば、足元にすりすり、にゃ~っと大きな鳴き声。いつの間にか僕の膝の上に乗ってくる猫までいます。かわいくて、猫ともっと一緒にいたいと思うようになりました。

島に来ると、特に早朝の時間帯は人も少なくて、猫たちとの時間を独り占めする贅沢を味わうことができます。それに、島では青空や海風、鳥の鳴き声、猫の声の全部が調和しているように感じられます。それ以来、仕事の合間に時間をみつけては、島に通って猫の写真を撮影する日々が始まりました。

この連載では、僕がこれまでに出会ってきた猫たちとの思い出話などを、猫写真家らしく気まぐれに語っていきます。どうぞお付き合いください。

【文・写真】
山本正義(やまもと・まさよし)
大阪在住の猫写真家。猫が立ち上がる瞬間をとらえた「立ち猫」写真でブレーク。ちょっぴり力の抜けた「脱力猫」、凄い勢いの「猫来る」、気の抜けた感じの「舌猫(ぺろにゃん)」、猫が集団で行進する「ずんずんずん」など、愛らしい猫たちをとらえた写真とユニークなワードセンスがSNSなどで注目を集めている。写真展、メディア出演、講演などで各地を飛び回る日々。写真集に『立ち猫』(ナツメ社)。また、『立ち猫カレンダー』(緑書房)も好評を博している。
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