緑書房ではこのたび『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 小型サンショウウオ』(写真:関慎太郎、著:田上正隆ほか)を発刊しました。そこで、本書をまとめた関慎太郎さんと田上正隆さんに、本書の魅力とポイントをお聞きしました!
この一冊で小型サンショウウオ博士に!
みなさんは、「オオサンショウウオではないサンショウウオ」たちをご存じですか? オオサンショウウオにくらべてはるかに小さな、「小型サンショウウオ」が日本には50種以上生息しています。両生類だけど、カエルとちがって飛び跳ねず、長い尾と胴長短足の姿、飛び出た目がキュートな顔つきをしています。
ふだん生活していると、どの種類もまず見かけることがありません。身近にいながらわかっていないことも多いです。産卵期になると繁殖場に集まりますが、それ以外の時期はどこで何をしているのか詳しくわかっていません。また、人知れず暮らしているため、開発などにより生息地を追われても気がつかないことが多いのです。
しかし、小型サンショウウオの研究はすこぶる進化していて、最近では私が撮影を始めたころの2倍くらいの種類が発見されています。その多くは、同じ種類だと思われていた種が、じつは別種だったことが判明したというものです。どれも似通った種ですが、日本の多様な環境が育んだ、まさに進化の生き証人と言えます。
本書を通して、そんな彼らを少しでも気にかけてもらえればと思います。そして、いきものを守ることへ関心が向き、小型サンショウウオの多様性が示す、日本の自然のすばらしさを体感していただければうれしい限りです。
少し、本書について紹介します。メイン著者である田上正隆さんの専門は、水族館での小型サンショウウオ類の飼育と繁殖です。趣味で野外での生態観察も行われています。そこで、野外での発見、水族館での飼育を通して得られた知見などをもとに本書をまとめていただきました。日本に生息する50種の図鑑をはじめ、一年間の暮らしぶりや体のつくり、産卵や卵・幼生・幼体の様子などなど、小型サンショウウオについての知識がつまっています。
そのほか、研究の最前線やフィールドからの新たな知見を、さまざまな研究者に執筆いただきました。また、小型サンショウウオの多くの種は絶滅危惧種に指定されており、法律で捕獲などが禁止されています。フィールドで観察や採集をする時の注意点も示していますので、本書を読んでしっかり予習してほしいと思います。さらに、飼育がむずかしい小型サンショウウオを一般家庭で飼うとなると、どれくらいの覚悟が必要かという飼育事例や、驚きの日本の伝統食文化、小型サンショウウオに出会える施設、研究している大学も知ることができます。
さまざまな観点から小型サンショウウオに注目しており、とっても充実した内容になっています。この一冊で、小型サンショウウオ博士になれるかもしれません!
さあ、小型サンショウウオワールドへ飛び込みましょう!
(関 慎太郎)
「サンショウウオの本を作るので、書いて。よろしく」
本書で企画・写真を担当されている関慎太郎さんから、ある日突然、送られてきたそっけないメッセージです。
私は岐阜県にある「世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ」という水族館に勤めていて、現在は小型サンショウウオを含む両生類、そして爬虫類や淡水魚類、水生昆虫類などを担当しています。当館では長良川のコーナーにおいて岐阜県に生息する5種の小型サンショウウオを展示しており、それ以外にも、バックヤードには研究者の方々と共同研究している種などもいて、現在は10種ほど飼育しています。小型サンショウウオの飼育経験はそれなりにあるものの、水族館のいち飼育員が本を執筆するというのは「荷が重いなぁ……」というのが正直な気持ちでした。いや、今でもそのように思っています。
実はこの水族館に勤めるまで、野外で小型サンショウウオを見たことがありませんでした。しかし、2007年からヤマトサンショウウオの保全活動に関わったことがきっかけで、小型サンショウウオの魅力にどっぷりとはまってしまいました。小型サンショウウオや両生類について勉強するために参加した集まりなどを通して、多くの方々と知り合うことができました。関さんもそうですし、研究紹介やコラムを書いてくださった研究者の皆さんもそうです。2007年当時、18~19種とされていた日本の小型サンショウウオは、研究の進展とともに現在約50種まで増えています。分類や生態などまだまだわからないことがたくさんあって、興味がつきません。
本書内でもふれていますが、小型サンショウウオの多くは数が減っていて、危機的な状況におかれています。私もそうでしたが、目にする機会も少なく、知っている方が少ない生物ですので、存在に気づかないうちに生息地がなくなってしまっていることも多くあることでしょう。読者の皆さんに小型サンショウウオの魅力を知っていただき、この小さな生物が暮らす環境を守る活動に手を貸してもらえるきっかけになればと思い、荷が重いことは承知のうえ執筆しました。ぜひ、手に取っていただければ幸いです。
(田上正隆)
【写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。 『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ!イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。最新刊『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 小型サンショウウオ』(緑書房)が2023年9月29日に発売。
【著者】
田上正隆(たがみ・まさかた)
世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふ 展示飼育部展示飼育チーム魚類班班長。1978年大阪府出身。東海大学海洋学部水産学科卒業。2004年に株式会社江ノ島マリンコーポレーションに入社し、世界淡水魚園水族館アクア・トト ぎふに勤務している。魚類・両生類・爬虫類・水生昆虫類の飼育展示を担当。流水産卵性の小型サンショウウオの飼育下繁殖方法の確立を目指し、試行錯誤を重ねる毎日を送っている。著書に『岐阜県の動物―哺乳類・爬虫類・両生類・十脚類』(編著・両生類担当、岐阜新聞社)。
世界淡水魚園水族館 アクア・トト ぎふ https://aquatotto.com/
【本書概要】
・書名:日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 小型サンショウウオ
・写真:関 慎太郎
・著者:田上正隆ほか
・発行:緑書房
・体裁:A5判 152頁
・定価:2,200円 (本体2,000円)
・発売日:2023年9月29日
・ISBN978-4-89531-892-1
■お問い合わせ先
株式会社 緑書房 販売部
〒103-0004 東京都中央区東日本橋3-4-14
TEL:03-6833-0560
https://www.midorishobo.co.jp/