ウサギの家庭医学【第1回】ウサギの病気の基礎知識

「急にご飯を食べなくなった」「動かない」「おしっこが真っ赤」など、前日まで元気にしていた子でも急に症状が出てしまうことがあります。もちろんそれらはウサギに限ったことではなく、他の動物でも起こりうることです。しかし、ウサギに特徴的な病気もありますし、ウサギを飼育するなら知っておいたほうがよい知識もたくさんあります。

この連載は「ウサギの家庭医学」と題し、一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)「ウサギマスター認定者(ウサギマスター検定1級)」の獣医師で分担しながら、飼い主さんにも知っておいてほしいウサギの病気を解説していきます。

今回(第1回)は、ウサギの体や病気について総論的にふれ、次回からは各論として「皮膚疾患・体表腫瘤」「歯牙疾患」「循環器疾患」「呼吸器疾患」「消化器疾患」「泌尿器疾患」「生殖器疾患・繁殖疾患」「筋・骨格疾患」「神経疾患」「眼疾患」について全14回にわたって解説していく予定です。

身体の外見的な特徴

ウサギはウサギ目ウサギ科に属する動物で、長い耳や全身ふわふわの柔かい毛で覆われているという特徴をもちます。ペットとして飼育されているウサギ(カイウサギ)は、アナウサギ属のヨーロッパアナウサギを家畜化し、品種改良したものです。日本でも一般的に野生で認められるニホンノウサギはノウサギ属に属する動物で、ヨーロッパアナウサギとは別の種類です。そのため染色体数も異なり、お互いが交配して子どもをつくることはできません。つまり、以下の本文中で使用する「ウサギ」という言葉は、すべて「アナウサギ」を意味します。

特徴的な長い耳は、音を効率よく集めて、小さい音も聞き逃さないようにしています。耳には血管が豊富にみられ、これらの血管から熱を放散して、体の熱を逃しているといわれています(文献1)。一方でウサギは汗腺が発達しておらず、汗をかくことができないため、暑さに非常に弱く、熱中症にはくれぐれも注意しなければなりません。

ふわふわの被毛は、細くてコシがなく、もつれやすいため、ウサギは毛繕いに多くの時間を費やします。毛繕いは皮膚の衛生を保つために大切な行動ですが、その際に被毛の一部を飲み込んでしまうため、胃のうっ滞(運動の停滞)や毛球症(飲み込んだ毛が消化管内で毛玉となって溜まることで症状を起こす病気)の要因になることもあります。また、何らかの原因、例えば前歯の不正咬合で毛繕いの頻度が低下したり、肥満や関節炎などで全身に口が届かなくなったりすると、容易に毛球が形成されてしまいます。

被捕食者のウサギは、捕食者から逃走するために跳躍走(ジャンプしながら走ること)を行います。それには身体が軽いほうが好都合ですので、骨が軽量化されています。体重に対する骨質量は猫で約12〜13%ですが、ウサギは7〜8%しかありません(文献2)。これはウサギが骨折を起こしやすい理由になっています。

消化器

ウサギは草食動物であり、口の中から始まる消化器の構造は、われわれ人や犬・猫とは特に異なる部分がたくさんあります。

■歯牙

まず、歯は犬歯を欠き、前歯(切歯)と奥歯(臼歯)に分かれています。これらの歯は常生歯と呼ばれ、歯根が開いており(開放性歯根)、常に歯が成長し続けます(文献3)。また、上顎の切歯は大きい2本の歯の裏側に小さい歯が重なって生えており、ウサギが重歯目と呼ばれていた由縁になっています。

野生のウサギでは、草以外にも、木から樹皮を剥ぎ取ったり、木の根を噛んだりといった行動を日常的に行っています。これらの食物を臼歯で消化可能な大きさまですりつぶすために時間をかけて咀嚼しますが、その回数は1分間に120回以上といわれています(文献4)。そのため、歯を使わない食事(野菜やソフトタイプのペレット)などを多く与えることで歯が伸びてしまい、不正咬合の原因の1つになります。

不正咬合の原因は上記の他にも、先天性や事故、老化、骨粗しょう症などでも認められます。先天性の不正咬合はネザーランドドワーフなどの品種に代表的で、短頭種と呼ばれる、頭が小さくて鼻先が短い種類に好発します。短頭種は頭蓋骨の形状が野生のウサギと異なり、上顎や下顎にも影響がみられることがあります。下顎過長症や下顎突出症と呼ばれる下顎が前方に突出する病態が有名で、噛み合わせが悪くなって、下の前歯が前方に突出して伸びてしまいます(写真1)。また、ゲージをがじがじと噛んだり、高所からの落下により、前歯が異常な方向に変位したり折れたりすると、その後、噛み合わせが悪くなり、不正咬合が起こります。

写真1:下顎前歯(切歯)の突出による不正咬合

不正咬合の結果、奥歯が伸びると、歯のエナメル質が棘(とげ)のように尖ってしまい、うまく口を動かすことが困難になります。「食べたそうにするけれど、食べることができない」といった症状がみられ、よだれも多くなります。結果として、よだれのせいで口の周りや顎下が濡れてしまい、脱毛や皮膚炎の原因になります(写真2)。

写真2:よだれで下顎や肉垂に起こった皮膚炎(ウェットデューラップ)

■消化器

消化管は食道、胃、小腸、大腸からなり、大腸の一部である盲腸が発達しています。胃は深い袋状の形をしており、胃の入口(噴門)と出口(幽門)が細く、入口の筋肉(噴門括約筋)も発達しているため、食事を吐くことができない構造になっています。ウサギのこれらの特徴は、毛繕いした毛が胃の中で貯まる胃のうっ滞、毛球症になりやすいことにつながります。

胃のうっ滞とは、食べた餌が胃の中で停滞して腸に流れにくくなる状態のことで(写真3)、その結果、食欲不振や腹痛、元気消失などの症状がみられます。現状、ウサギの死亡原因のトップにあげられます。飲み込んだ被毛が胃内で固まった毛球や異物が詰まってしまう場合や、胃の蠕動(ぜんどう)そのものが何らかの原因によって低下してしまうことにより、うっ滞が起こります。パンやバナナなどの粘稠度の高い餌も蠕動低下の原因になります。

写真3:急性胃拡張を起こしたウサギのレントゲン写真(横臥像)。拡張した胃(黄色丸)の内部にガスの貯留を認める

緊急性が高い病態なので、「食べない」「動かない」などの症状がみられたら、病態把握のためすぐに動物病院の受診をおすすめします。

盲腸では盲腸便と呼ばれる、通常のコロコロと乾いた便とは異なるブドウの房状に連なった柔らかい便を排泄します。盲腸便にはビタミンと良質なタンパク質が含まれており、ウサギはこれらを直接肛門から食べ、再び消化吸収します。不正咬合や関節炎が見られるウサギでは、盲腸便の摂取が困難になってしまいます。

泌尿器・生殖器

■泌尿器

泌尿器の構造は犬・猫などと相違なく、一対の腎臓、尿管、膀胱、尿道と続きます。

ウサギの尿は黄~茶褐色などの有色です。餌の成分や代謝の変化によって尿の色は変化し、これは健康なウサギでも認められます。色の元はポルフィリンやビリルビンの誘導体などの色素といわれています(文献5)。また、ウサギは余剰なカルシウムのうち、47%を尿中に排出します(他の哺乳類では2%以下)(文献6)。そのため尿中に多量のカルシウムが含まれ、尿が白く濁ります。

これらのカルシウム塩結晶は膀胱内に堆積して、泥状になります(スラッジと呼ばれます)。スラッジは尿路組織に刺激を与えて、感染の原因になったり、尿路結石の核となります。尿路結石は感染を起こしやすくするだけでなく、尿路の閉塞を起こす可能性があるため注意が必要です(写真4)。

写真4:おしっこが出にくいとのことで来院したウサギのレントゲン写真。尿道内に結石があり(黄色丸)、排尿が困難になっている

■生殖器

雌の卵巣子宮疾患は、ウサギの疾患の中でも発生数が多く認められます。

雌の生殖器は一対の卵巣、卵管、子宮、そして1つの膣から構成されています。ウサギは犬・猫のように定期的に発情が訪れる動物ではなく、12〜14日間の発情期が繰り返し起こり、発情していない期間が極端に短いため、ほぼ常に発情している状態となります。発情している期間が長いと子宮の細胞が変化しやすくなり、病気が増えると考えられています。一部の報告では、子宮の内膜が正常な範囲を超えて肥厚する子宮内膜過形成といわれる病態は、子宮のがんの前段階と考えられています(文献7、8)。

実際、子宮腫瘍(写真5)の発生は多く、また加齢とともに増加します。2〜3歳齢での発生率は4%ほどですが、5〜6歳齢では約80%に達するという報告があります(文献9)。

写真5:子宮に発生した腫瘍

初期は無症状ですが、ホルモンバランスが崩れてイライラと落ち着かなくなったり、人の手足やおもちゃにしがみついて腰を振るような性行動がみられることもあります。典型的な症状は、陰部からの出血ですが、真っ赤な血液が出ることもあれば、血液のかたまりのようなオリモノ状の分泌物が尿と一緒に排泄されることもあり、血尿と間違われることがあります。

子宮腺癌は転移率が非常に高く、転移が始まっていると、多くの場合、子宮を摘出しても手遅れとなってしまいます。そのため、子宮の病気にさせないために、規則正しい生活によってホルモンバランスが崩れないようにしてあげることが大切です。また餌の栄養バランスも考えてあげるようにします。早期に予防的避妊手術をするという方法もあります。

・一般社団法人日本コンパニオンラビット協会(JCRA)とは
ウサギの福祉向上を目指し、健康管理や獣医療などについての正確な情報の発信と普及啓発を進めるため、獣医師や研究者などが集まり2020年に設立。代表理事は霍野晋吉[博士(獣医学)]が務める。「1.ウサギのことをもっと知ってもらう」「2.ウサギをウサギらしく飼ってもらう」「3.ウサギに幸せに長生きしてもらう」「4.ウサギも人も笑顔になってもらう」の4つの理念のもと、さまざまな活動を展開している。獣医師などの専門家だけではなく、一般の飼育者も入会可能。
https://jcrabbit.org/

【執筆】
埇田聖也(そねだ・せいや)
獣医師。2018年に山口大学共同獣医学部獣医学科を卒業。同年4月より、奈良県奈良市のあや動物病院 (https://aya-ah.com/) に勤務。犬・猫に加え、ウサギや小型哺乳類、鳥類などのエキゾチックアニマルの診察も積極的に行っている。2022年にJCRAウサギマスター検定1級取得。

【監修】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
1.Donnelly TM. Disease problems of small rodents. In: Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery. Hillyer EV, Quesenberry KE, eds. 1st ed. 1997: pp.307-327. Saunders.
2.Vella D, Donnelly TM. Basic anatomy, physiology, and husbandry of rabbits. In: Ferrets, Rabbits, and Rodents: Clinical Medicine and Surgery. 3rd ed. Quesenberry KE, Carpenter JW, eds. 2011: pp.157-173. Saunders.
3.奥田綾子,Crossley DA.げっ歯類とウサギの臨床歯科学.1999.ファームプレス.
4.Cortopassi D, Muhl ZF. Videofluorographic analysis of tongue movement in the rabbit (Oryctolagus cuniculus). J Morphol. 1990;204(2):139-146.
5.Norris SA, Pettifor JM, Gray DA, Buffenstein R. Calcium metabolism and bone mass in female rabbits during skeletal maturation: effects of dietary calcium intake. Bone. 2001;29(1):62-69.
6.霍野晋吉. 第9章 泌尿器疾患. In: ウサギの医学. 2018: pp.290-316. 緑書房.
7.Elsinghorst TA, Timmermans HJ, Hendriks HG. Comparative pathology of endometrial carcinoma. Vet Q. 1984;6(4):200-208.
8.Ingalls TH, Adams WM, Lurie MB, et al. Natural history of adenocarcinoma of the uterus ㏌ the Phipps Rabbit Colony. J Natl Cancer Inst. 1964;33:799-806.
9.Barthold SW, Griffey SM, Percy DH. Neoplasm. In: Pathology of Laboratory Rodents and Rabbits. 4th ed. Stephen W, eds. 2016: pp.320-322. Wiley-Blackwell.