ゴマ粒大のハチ探し:木に潜むふしぎな巣

ハチにはいろいろな種類がいます。たとえば、よく見たり聞いたりするミツバチやスズメバチなどにも、ニホンミツバチやセイヨウミツバチ、オオスズメバチやコガタスズメバチといったように、いくつかの種類がいます。さらにハチ全体ではもっとたくさんの種類がいて、少なくとも世界で150,000種、日本で6,500種にのぼります

多種多様なハチがそれぞれに個性的な暮らしを送っており、身近にもたくさんのおもしろいハチが暮らしています。これらのハチの世界を、すこし覗いてみませんか?

写真:花の上で毛づくろいするジガバチ

ハチってどこで見つかるの?

花はハチたちのレストラン

ハチを探すなら、まずは草や木に咲いた花をじっくりと観察するのがおすすめです。ハチの多くは花のミツや花粉をエネルギー源にしていて、食事のために定期的に花を訪れます。野山に咲くいろいろな花を観察していると、毛むくじゃらのマルハナバチ、ミツバチより小さなコハナバチ、長い体のツチバチ、腰が細長いジガバチなど、さまざまなハチを見つけることができます。ちょっと怖いかもしれませんが、食べ物に夢中になっているハチが人をおそってくることは、ふつうはありません。そっと観察してみると、ハチのさまざまな仕草が見られます。

*ハチが人を刺すのは、身を守るためです。驚かせたり、手でつかもうとしたりせずに観察してみましょう。

ハチの巣を探す楽しさ

ハチのことをもっと知りたいなら、ハチの巣を探してみるのもおもしろいかもしれません。ハチの多くは、幼虫のために巣をつくり、食べ物を集めます。集める巣の素材や食べ物はハチごとに決まっています。たとえば、スズメバチやアシナガバチは、木の繊維を集めて巣をつくり、幼虫のためにイモムシなどのほかの昆虫を捕まえます。泥を使って巣をつくり、捕まえたイモムシを巣の中に蓄えるドロバチや、葉っぱを集めてゆりかごをつくり、花粉を集めてつくった団子を包むハキリバチなどもいます。

写真:フタモンアシナガバチの巣

スズメバチやアシナガバチなどの集団でつくる巣では、働きバチが巣を守っているので、観察するときには近づきすぎないように注意が必要です。

ドロバチやハキリバチのように1匹で巣づくりをするハチなら、観察しているだけで刺される心配はありません。ただし、そのようなハチが作る巣は、植物や地面の穴を利用しているので、見つけるのは簡単ではありません。もしじっくり巣づくりを観察したいなら、さまざまな太さの竹筒を束ねてつるしておくという方法もあります。うまくいけば、さまざまなハチが筒の中に巣をつくる様子を観察することができます。

「虫こぶ」は、ちいさなハチがつくった巣

写真:ミズナラの葉につくられた虫こぶ

さまざまなハチの巣があるなかでも、とびきり変わったものが「虫こぶ」です。虫こぶは、ハチなどの昆虫によって植物の枝や葉、花や実などにつくられます。その形状は、丸いものや平たいもの、トゲが生えたものや毛むくじゃらなもの、スポンジのようにやわらかいものや木のようにかたいものなど、さまざまです。しかもおもしろいことに、木や泥を集めてつくるような巣と違って、虫こぶはハチがどこかから材料を集めてつくるものではありません。ハチが植物の中に卵を産みつけると、その部分の形が変わって、虫こぶとなるのです。虫こぶは巣なので、もちろん中にはハチの幼虫が入っています。ハチの虫こぶには出入口がないのですが、幼虫は虫こぶの内側を食べて暮らしているので食べ物の心配はありません。そのままこぶの中で蛹になり、成虫になったあとに、穴をあけて外に出てきます。

写真:コナラ上のタマバチ(ハコネナラタマバチ)

タマバチは虫こぶをつくるハチの中でも最も種類が多いハチです。日本だけでも、じつはミツバチやスズメバチよりもずっと多い、80種ほどのタマバチの仲間が生息しています。そのほとんどがゴマ粒ほどの大きさで、しかも成虫は1年のほんのわずかな期間しか姿を見せないので、よほど注意して探さないとなかなか出会うことがありません。ただし、タマバチは決してめずらしいハチではありません。公園などに植えられているドングリの木や、河川敷などに咲くノイバラを探してみると、タマバチがつくる虫こぶをたくさん見つけることができます。

「身近な公園や河川敷にハチの巣がたくさんある」と聞くと、いくら小さなハチといってもちょっと怖いかもしれません。でも、怖がる必要はありません。タマバチは寄生バチとよばれる、毒針をもたないハチの仲間です。多くの寄生バチはほかの昆虫やクモに卵を産みつけ、ふ化した幼虫がその寄生相手を食べて成長するという暮らしを送っています。タマバチはその寄生相手が植物というわけです。

写真:ノイバラ上のタマバチ(バラハタマバチ)

ゴマ粒大のハチを探すのは大変ですが、虫こぶは簡単に見つけられます。しかも虫こぶの形はタマバチの種類ごとに決まっているので、つくったタマバチの名前を虫こぶから調べることもできます。また、ふつうハチの巣にはそれ自体の名前はありませんが、虫こぶには専用の名前があるのもおもしろいところです。基本的に、虫こぶがつくられる植物の名前、虫こぶがつくられる植物の部位、虫こぶの形などの特徴、最後に虫こぶを意味するフシという言葉を組み合わせて、虫こぶの名前がつくられます

では、タマバチがつくる虫こぶにはどのようなものがあるのでしょう。タマバチの虫こぶはどれも個性的でおもしろいものばかりですが、身近でも見られる、とっておきの5つをご紹介します。

身近な虫こぶ名作選

1.バラにつくられた金平糖?

写真:バラハタマフシ

まず紹介する「バラハタマフシ」は、ノイバラなどの葉や茎につくられる虫こぶです。つくるのはバラハタマバチ(ニホンノイバラタマバチとよばれることもあります)というタマバチです。この虫こぶは5月から7月にかけて、バラの葉の裏をのぞくように探すと見つかることがあります。丸い形に小さなとげがぽつぽつとついている形はまるで金平糖のようです。虫こぶの中には、タマバチの幼虫が入った幼虫室とよばれる部屋が1つ入っています。

2.外からは見えない不思議な構造

写真:クヌギハマルタマフシ

次に紹介する「クヌギハマルタマフシ」は、クヌギの葉にみられる虫こぶです。つくるのはクヌギハマルタマバチです。こんなにきれいな玉の形をハチがつくるというだけでもすごいのですが、驚きなのはその中身です。半分に割ってみると、空洞の中心に幼虫室があり、その部屋に向かっていくつもの細い柱が伸びているという不思議な構造をしています。7月ごろに見られるので、ぜひ見つけたら少しだけ割って観察してみてください。

3.まるでクヌギのドングリ

写真:クヌギエダイガフシ

「クヌギエダイガフシ」は、クヌギの枝にクヌギエダイガタマバチがつくる虫こぶです。虫こぶの外側はクリのイガのようなトゲ状の毛で覆われているので、クヌギのドングリにもよく似ています。ちょうどクヌギのドングリが大きくなる夏から秋にかけてできるので、知らないとドングリだと思ってしまうかもしれません。虫こぶの中は空洞になっていて、1つの幼虫室が底の部分にはりついています。タマバチが出たあとも虫こぶは木の枝に残るため、空洞となったこぶの中をアリなどの昆虫が隠れ家として使っていることもあります。

4.こんなに大きな虫こぶも?

写真:ナラメリンゴフシ

「ナラメリンゴフシ」は春に芽吹いたコナラなどの若い新芽につくられる、ナラメリンゴタマバチの虫こぶです。その名前の通り、リンゴのような形をした虫こぶで、5センチメートルをこえるものが見つかることもあるなど、日本で見られるタマバチの虫こぶでは一番大きくなることがあるものです。

先に紹介した3つの虫こぶは、1つの虫こぶの中に1つの幼虫室しかありませんでしたが、この虫こぶの場合は、数十もの幼虫室が1つの虫こぶの中に入っています。

5.アリに守ってもらう虫こぶ

写真:ナラエダムレタマフシ

最後に紹介するのは「ナラエダムレタマフシ」という、コナラなどの枝に夏から秋にかけてみられる虫こぶです。この虫こぶをつくるのはハコネナラタマバチです。不思議なことにこの虫こぶの周りにはいつもアリがいます。じつは虫こぶの表面に甘い汁がにじみ出ているため、アリが集まっているのです。周りに常にアリがいることで、虫こぶの中のタマバチの幼虫はアリに守られながら成長できます。

タマバチの成虫も見てみたい!

タマバチの成虫を見たかったら、十分に育った虫こぶを採集して、乾燥しないようにケースで保管しておけば、うまくいくとタマバチの成虫が穴をあけて顔を出します

ただし、虫こぶの中からタマバチが出てくるまでにかかる期間は、数日のものもあれば数週間のもの、1年以上のものもあります。根気よく待つことが大切です。

写真:虫こぶの中で羽化したタマバチ

もしタマバチに興味がわいてきたら、ぜひ野外で成虫を探すことにチャレンジしてみてください。虫こぶをつくるタマバチの不思議な生態をより深く感じることができます。

タマバチの多くは虫こぶから出てきた後、1週間ほど活動すると、すぐに姿を消します。秋から冬にかけての寒い季節に成虫が活動する種もいますが、比較的多くの種を見ることができるのは3~6月の芽吹きの季節です。運が良ければ、芽や葉に産卵するタマバチの姿を見つけることができます。産卵した場所を観察し続けると、まるで魔法のように虫こぶができていく過程を見ることができるかもしれません。

ハチといえばミツバチやアシナガバチ、スズメバチに注目があつまりがちですが、タマバチのようなゴマ粒大の小さなハチをはじめ、さまざまなハチが私たちの身近で暮らしています。人を刺すことだけがハチの特徴ではありません。こわがらずにハチを観察してみると、ハチのおもしろさが見えてくるかもしれませんよ。

【執筆者】
井手竜也(いで・たつや)
1986年長崎県生まれ。国立科学博物館 動物研究部 陸生無脊椎動物研究グループ 研究員。博士(理学)。専門はタマバチ科の生態や分類など。著書に『昆虫学者の目のツケドコロ』(ベレ出版)など。2024年開催の国立科学博物館特別展「昆虫MANIAC」では監修を務める。