子どもと一緒に「イモムシ探検」に出かけよう!

魅力がいっぱいの生きもの、イモムシ・ケムシ

暖かくなり、生きものたちが動き出す初夏。子どもと一緒に自然観察に出かけたいという方も多いのではないでしょうか。チョウやガの幼虫であるイモムシ・ケムシは、実は、子どもたちと一緒に自然観察する対象として、とても魅力的な存在です

その魅力のひとつは、家の庭や公園、道ばたなど、身の周りの自然でも簡単に見つかることにあります。また、動きが遅くて観察しやすいのも大切なポイントです。翅がないので飛んで逃げませんし、予想外の素早い動きに驚かされることもありません。小さな子どもでも、自分のペースでゆっくり観察することができるのです。

そして、忘れてならないのは、イモムシ・ケムシは、意外とカワイイということです。まるでネコのような顔をしたイモムシ、いっぱい食べてむちむちボディになったイモムシ、手触りのよいモフモフの毛におおわれたケムシなどなど。子どもたちと一緒にイモムシを観察していると、きっと「カワイイ!」という声がいっぱい飛び交うことでしょう。

ここでは、魅力的なイモムシ・ケムシを見つけ出し、その不思議な姿や行動をじっくり観察することを「イモムシ探検」と呼ぶことにしましょう。それではさっそく、イモムシ探検に出発しましょう!

写真:ヒメジャノメの幼虫(左上)、リンゴドクガの幼虫(右上、毒はない)、キイロスズメの幼虫(下)

身近な自然でアイドルイモムシを探そう 

イモムシ探検の入門編として、住宅地の周辺でも見つかる3大アイドルイモムシをご紹介します

オレンジのツノをニョキッとのばすイモムシ

ミカンの葉を食べて育つアゲハ(ナミアゲハ)の幼虫は、最もなじみ深いイモムシといえます。小さなうちは鳥の糞に似た姿なのに、最後の脱皮をして終齢幼虫になると、突然、緑色に変わる変身名人。危険を感じた時にニョキッとオレンジ色の肉角(臭角)を伸ばすのも不思議です。しかし、肉角が見たいからといって無理に体をつまんだりするとイモムシが弱ってしまいます。お尻のあたりを筆先などでそっと撫でてみるとすんなり出してくれることがあるので試してみてください。

写真:肉角を伸ばすアゲハの幼虫

やわらかなトゲで身を包んだイモムシ

パンジーやビオラなど、花壇のスミレ科の植物に、赤黒くてトゲトゲのあるイモムシがついているのを見かけたことはありませんか? その正体は、タテハチョウの仲間のツマグロヒョウモンの幼虫です。ツマグロヒョウモンの幼虫は、毒々しい色をしていますが毒はなく、痛そうなトゲも見かけ倒しで、実際に触ってみるとフニャフニャです。一見、グロテスクですが、危険でないことがわかると、その美しさに改めて気づかされます。赤と黒に塗り分けられたトゲがカッコいいし、葉を脚でささえてもぐもぐと食べる様子もキュートです。

写真:ビオラの葉を食べるツマグロヒョウモンの幼虫

突起がキュートなガの幼虫

壁や塀にからまって伸びるツタや、空き地などによく生えているヤブカラシでは、スズメガの仲間のセスジスズメの幼虫が見つかります。「えっ、チョウでなくて、ガの幼虫!?」と思わないでください。ガの幼虫や成虫には、チョウに勝るとも劣らない魅力をもった種がたくさんいるのですから。セスジスズメの幼虫は、黒っぽい体に黄色~赤色の丸い紋が並んでいて、まるで夜行列車のよう。お尻には先っちょが白くなった長い突起(尾角)があり、歩く時に、この突起を前後にピコピコ動かすのがチャーミングです。

写真:突起を動かしながら歩くセスジスズメの幼虫

いざ、イモムシの楽園へ!

イモムシ・ケムシに少しでも興味がわいてきたら、ぜひ、近場の野山で本格的なイモムシ探検をしてみましょう。野山を何となく歩いていてもそれなりに見つかりますが、ちょっとしたコツを知っていると、よりたくさんの出会いに恵まれます。

いつ・どこで探せばいいの?

季節としては、春から初夏にかけてが最もよくて、秋も適しています。私たちにとって過ごしやすい時期と、イモムシ探検のシーズンが重なっているのは嬉しいことです。

場所は、郊外の自然公園がいいでしょう。あまり人工的でなくて、もとからあった自然環境を生かしながら、遊歩道やトイレなどが整備された公園なら最高です。

どうやって探せばいいの?

探すときは、まずは樹木の種類に注目しましょう。クヌギやコナラ、サクラ、カエデ、エノキなどの広葉樹には、たくさんのイモムシ・ケムシが暮らしています。足もとの草やぶにも注目しましょう。ススキなどのイネ科の植物、つるを伸ばすブドウ科の植物など、植物のグループごとに、それぞれ異なったイモムシが見つかります。

なかなか見つからない場合には、虫たちが残している手がかり(フィールドサイン)を探してみましょう。食べあとがある葉の裏側や近くの枝には、葉を齧った犯人が潜んでいることがあります。とくに、齧りあとが変色していないような新しい食べあとの場合は期待が高まります。地面にたくさんのウンコ(糞)が落ちていたら、その上の枝には落とし主がこっそり隠れているはずです。

遊歩道沿いなどに設置された手すり(擬木柵など)も、観察ポイントとして見逃せません。天敵から逃れるために木の上から落ちてきたイモムシがたくさん集結していて驚かされることもあります。手すりの上にいる虫は目立つので、小さな子どもでも見つけやすいというメリットもあります。

写真:手すりの上に集まったイモムシたち

見つけたイモムシ・ケムシはじっくり観察を

うまくイモムシを見つけることができたら……さあ、お楽しみの始まりです!

まずは、「顔(頭部)」の様子を確かめてみましょう。耳のような突起があったり、眉のような紋があったりと、顔にはイモムシの可愛らしさが凝縮しています。顔の模様は種類によって違うので、写真やスケッチなどで記録しておくと名前を調べる手がかりになります。

次に注目したいのは「お尻(腹端)」です。お尻に目立つ色がついていたり紋があったりして、まるで顔のように見える種類もいます。スズメガの仲間の幼虫は、お尻にはえている突起(尾角)の色や形が種類を見分けるヒントになります。また、イモムシがちょっと踏ん張ったようなポーズになってお尻をもちあげたら、ウンコ(糞)をする前ぶれです。イモムシの種類によっては、体を後ろに曲げて、出したばかりのウンコを口にくわえて遠くに投げ飛ばす場合もあるので、目が離せません。

もしも、葉っぱを食べているイモムシを見つけたときは、刺激せずにそっと見守りましょう。もぐもぐと美味しそうに食べ進める様子は、いつまで見ていても飽きません。

安全にイモムシ探検するために

イモムシ探検は自然が相手なので、どうしても多少のリスクが伴います。安心してイモムシ・ケムシと触れあうために知っておきたいことをご紹介します。

要注意のイモムシ!

イモムシ・ケムシの中には毒毛や毒のあるトゲをもつものがいるので注意が必要です。とくに、皮膚が弱い方は気をつけましょう。毒をもつのはほんの一部の種類なので、むやみに怖がることはないのですが、安全かどうかがわからない場合には触らないのが無難です。毒のあるイモムシ・ケムシの図鑑が掲載されているサイトもあるので、参考にしてください。

また、近年では関東を中心に、アカボシゴマダラ(タテハチョウ科)という外来種が勢力を拡大しています。幼虫が可愛いので思わず連れて帰りたくなってしまうかもしれませんが、アカボシゴマダラは「特定外来生物」に指定されており、生きたまま移動させたり飼育したりすることは法律で禁止されています。日本の本来の自然を守るためにも間違って採集しないように注意しましょう。

写真:アカボシゴマダラの幼虫

安全に探検しよう!

暑い日には、熱中症などにも気を付けましょう。イモムシやケムシを観察していると、時を忘れてしまうこともしばしばです。水分不足にならないよう、こまめな水分補給を心がけましょう。

おわりに

イモムシ・ケムシは種類がとても多く、身の回りの自然にも、何百種という仲間が人知れずひっそりと暮らしています。そのそれぞれが、ちがった姿、ちがった暮らしをしているので、イモムシ探検のネタは尽きることがありません。探せば探すほど、新しい出会いが待っているのです。

もしかしたら、イモムシ・ケムシを好きになるかどうかで、人生の豊かさが大きく変わって来るのかもしれません。ぜひ、お子さんと一緒に「イモムシ探検」の扉を開いてみてください

【執筆者】
川邊 透(かわべ・とおる)
1958年大阪府大阪市生まれ。野山探検家、Webサイト「昆虫エクスプローラ」管理人、「芋活.com」共同管理人。身近な自然にひそむ昆虫を中心に、生きもの愛あふれる生態写真を撮り続け、さまざまなメディアで情報発信している。著書に『新版昆虫探検図鑑1600』(全国農村教育協会)、『生きかたイロイロ!昆虫変態図鑑』(共著、ポプラ社)などがある。