動物業界のお仕事:動物用受託検査の検査技師(富士フイルムVETシステムズ)

「いきもののわ」6月の特集では、いろいろな「動物業界のお仕事」を紹介していきます!

今回は、動物検体受託検査サービスの検査技師をしている西脇さんに、1日の業務や就職までの経緯、この仕事を目指す人へのアドバイスなどをお聞きしました!

写真:富士フイルムVETシステムズの西脇さん

病理診断のために必要な「病理標本」を作製することが、1日の仕事の中心です。その他に、診断書の校閲や報告、動物病院からの電話対応などもしています。

病理標本を作るためには「切り出し」「包埋(ほうまい)」「薄切」「染色」という工程を行います。

写真:「包埋」「薄切」「染色」それぞれの工程における検体

まず、動物病院から届くホルマリン検体をよく観察し、臓器の方向や構造、病変部の状態を理解して、診断に必要な部分を切り出します。

写真:検体を観察し、必要な部分を切り出す

切り出した後に、機械で1晩かけて、固定、脱水、脱脂、パラフィン浸透処理をします。その後にパラフィンと呼ばれる蝋に包埋し、ブロック状に固めます。

写真:包埋によりブロック状に検体を固める

このブロックを3μmの厚さに薄切してスライドガラスへ貼り付けます。これを染色することで、顕微鏡で観察できる病理標本が完成します。こうして完成した標本をもとに、病理診断医が診断します。

写真:ブロック状に固めた検体を薄切する

病理診断では、病変の細胞を顕微鏡で観察し、目では見られない悪性度や病変の広がりを詳しく調べて病気を診断します。治療方針に悩む動物病院の先生方や、どんな病気なのか不安になっている飼い主さん、なによりも病に苦しむ動物が、診断結果を頼りにしてくださることに、とてもやりがいを感じています。

診断をするのは病理診断医の役割ですが、自分が作製した標本をもとに診断が進められ、病変が解明されることや、その診断に基づいて動物病院で治療がされることなどに対して、自分が少しでも力になれていることを嬉しく感じています。検査のすべての工程に専門的な知識と繊細な技術が必要であり、習得に何年もの経験が必要なため、そのような検査を任せていただけることも嬉しいです。検体の向こうで結果を待っている方々や動物のことを想い、丁寧に検体をお預かりすることを心がけています。

飼っていた愛犬にまつわる経験がきっかけです。獣医学にかかわる大学へ通っていたときに、愛犬の体に複数の皮膚腫瘍ができはじめました。不安に駆られて研究室の先生へ相談すると、附属病院での検査を勧められました。勉強の一環として検査や手術に参加させてもらいながら無事に処置が終わり、術後の経過も良く元気そうに見えましたが、「腫瘍が悪性だったら?」「体に広がっていたら?」という不安が残っていました。しかし、後日受け取った病理診断書に「腫瘍は完全に切除できている」と記載されていたことで、心から安堵できました。このときに、検査結果というものの有難みを強く感じ、検査業務に興味を抱くようになりました。

幼少期から将来の夢は、動物園の飼育員、イルカショーのトレーナー、動物病院の獣医師など、生き物と直接触れ合う現場ばかりを想像していました。しかし、大学生のころに前述の経験をしたことで検査業務へ興味をもちました。研究室の教授に、検査項目の種類、検査を実施している会社、業務内容などについて助言してもらい、当社が当時募集していたアルバイトに応募しました。アルバイトでは、幸運なことに自分が興味を抱くきっかけとなった病理部の現場で、さまざまな経験ができました。このような経緯から、検査業務の仕事にどんどんと惹かれるようになり、大学を卒業するのと同時に社員として当社に就職しました。

当社には病理検査以外にも、内分泌検査、免疫学検査、血中薬物、生化学、尿検査、感染症、微生物など、たくさんの検査項目があります。検査に関する専門的な知識や技術は項目によって異なりますし、実際に経験しながら磨いていくことが可能ですが、どの検査項目においても共通して「動物の体を知ろうとする意欲」が大切です。

私自身も、2022年に国家資格として制定された愛玩動物看護師資格を、社会人になってから取得しました。今の仕事では直接的には必要のない資格ではありますが、動物への理解をさらに深める良い機会となりました。同じ病気であったとしても、同じ検体は存在しないため、病気の動物一頭一頭に寄り添った対応ができるように、常に学んでいく意欲や姿勢をもつことが大切だと考えています。

西脇里江(にしわき・りえ)
富士フイルムVETシステムズ株式会社 先進検査センター 第3ラボ