「いきもののわ」6月の特集では、いろいろな「動物業界のお仕事」を紹介していきます!
今回は、ファシリティドッグ*のトレーナーをしている池上さんに、1日の業務や就職までの経緯、この仕事を目指す人へのアドバイスなどをお聞きしました!
*ファシリティドッグ:ある特定の施設で活動するために、専門的なトレーニングを受けた犬。
1日の業務について教えてください!
朝はまず、ファシリティドッグのトレーニングを受けている犬(候補犬)のトイレやご飯の世話をしたあと、グルーミングや健康チェック、30分以上の散歩などをします。また、施設の掃除なども朝にしています。
朝のルーティンの後、トレーニングを開始します。人間社会の日常に順応できる社会性を身につける(社会化トレーニング)ために、いろいろな場所に連れて行き、さまざまな経験をさせます。そして、その経験が「良いもの」として積み重ねられるように、トレーナーとして工夫します。
同時に、病院で活動するために必要となるキュー(合図)を覚える練習もします。キューの練習は、育成拠点内で行うほか、病院で入院中の子どもたちに練習相手になってもらいながら行うこともあります。
昼は、トレーニングなどの記録やミーティングをします。その間、候補犬はお昼寝をしたり、遊んだりしています。昼休みをはさんで1日のトレーニングを終えた後は、その記録をつけます。夕方には散歩もします。
夜は、ご飯タイムのほか、自由時間や遊びの時間があります。その後、就寝の準備をして1日を終えます。
仕事のやりがいを教えてください!
シャイン・オン!キッズは、小児がんや重い病気のお子さんや、その家族のためのNPO団体として、ファシリティドッグを育成しています。ファシリティドッグは、病気とたたかう子どもたちに寄り添い、その心身をサポートします。ファシリティドッグの育成にかかわることで、1人でも多くの子どもに笑顔を届けられることがやりがいです。
また、ファシリティドッグの候補犬は病院内だけにいるわけではありません。退院したお子さん向けのイベントへの参加や、入院している方の家族が滞在する施設への訪問などを通して、老若男女問わず多くの人と出会い、交流を深めます。そのなかで出会った方々が笑顔を見せてくれたときや、「ありがとう」と声をかけてくださったときに、さらに「この仕事をしていて良かった」と思います。犬とかかわることで生まれる笑顔や言葉を嬉しく思う気持ちが、活動の励みになっているのです。また、候補犬と毎日一緒に生活をすることで、それぞれの犬の成長を見守れることも、この仕事の大きな魅力です。
どうしてこの職に就こうと思ったのですか?
私はアメリカにある非営利団体(NPO)で、介助犬*とファシリティドッグの育成や、犬と共に生活する人(クライアント)への研修などを経験しました。犬のトレーナーという仕事は、働く場所にかかわらず「助けが必要な誰かの役に立てる」というやりがいがあります。しかし私はアメリカでの経験を、自分が生まれ育った場所である日本のために活かしたいと考えていました。そして、シャイン・オン!キッズというNPOの「病気とたたかう子どもたちをサポートする」というミッションに心を動かされ、事業にかかわりたいと思うようになりました。
*介助犬:障害者の日常生活をサポートする犬。アメリカでは、精神的なサポートが必要な人の介助も担う。
アメリカは使役犬*業界の最先端であり、多くのファシリティドッグが活躍していますが、日本国内ではまだまだ数が少ないのが現状です。日本でもファシリティドッグをより多くの方に知っていただき、1頭でも多くのファシリティドッグが活躍することで、病院で笑顔が増え、入院中の子どもたちのクオリティ・オブ・ライフ(生活の質)が向上することを願っています。
*使役犬:盲導犬、介助犬、聴導犬などの補助犬の他、警察犬、災害救助犬など、人の生活を支える仕事をする犬。
就職までの経緯を教えてください!
介助犬のコンセプトを世界で初めてつくったボニー・バーギン博士が設立したバーギン大学に通いました。そこでは介助犬だけではなく、探知犬、保護犬、ドッグスポーツをする犬など、さまざまな形で人とかかわる犬たちや、そのトレーニングについて学びました。
卒業後は、アメリカのNPO団体でドッグトレーナーとして勤務し、現役軍人と退役軍人の生活をサポートする介助犬や、軍人が通う病院や施設でのサポートをするファシリティドッグを育成していました。その後、ファシリティドッグのトレーナーとしてシャイン・オン!キッズに就職しました。
この職を目指す学生さんに、アドバイスはありますか?
「ドッグトレーナー」と聞くと、犬とかかわることが中心で、人との交流はあまり無いように想像する人もいるかもしれません。しかし人とのコミュニケーションもとても重要であり、私自身も大切にしています。人と人(トレーナーと対象者)の関係性ができて初めて、犬と人(ファシリティドッグと対象者)との関係が深まります。つまり、トレーナーと子どもが良好なコミュニケーションを取ることが、犬と子どもの双方が楽しく充実した時間を過ごすために必要不可欠なのです。私はファシリティドッグのトレーナーとして、人にとっても犬にとってもより良く楽しい時間が病院に増えるように活動しています。
池上茉実(いけのうえ・まみ)
認定 特定非営利活動法人シャイン・オン・キッズ ドッグトレーナー
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