フォトエッセイ:海外の牧場をめぐる風景【第1回】イギリス・コッツウォルドファームパークにようこそ

さまざまな家畜が誕生した地、イギリス

サフォーク、ジャージー、マンクスロフタン、バークシャー、ヨークシャー、ヘレフォード、ギャロウェイ、アバディーンアンガス、ライトサセックス……これらはすべて、イギリス原産の家畜の品種名です。おもにイギリスの地名が名の由来となっています。

私たち人類は、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコなどの多くの家畜を利用しています。そのなかでもイギリス原産の家畜は非常に多く、世界中で飼育されています。ボーダー・コリーやビーグルなどのイヌもイギリス原産ですね。

これらのイギリス原産の家畜(そして、それ以外の家畜)を見るなら、コッツウォルドファームパークは最高の場所です。イングランド中央部・コッツウォルズ地方の、チェルトナムという町にあります。

コッツウォルドファームパークで家畜の歴史をたどる

「ヒツジのいる丘」を意味するコッツウォルズは、素晴らしい風景が広がるイングランドの典型的な田園地帯です。バイブリー、チッピング・カムデン、ブロードウェイ、ボートン・オン・ザ・ウォーターなどの街や村が知られ、日本人観光客にも人気があります。

そのコッツウォルズ地方のほぼ中心に位置するコッツウォルドファームパークは、私たちがもつ「観光牧場」のイメージには収まりきらない施設かもしれません。 牧場のオーナーは、BBC(英国放送協会)の名物番組「Countryfile」でも活躍したアダム・ヘンソン氏で、イギリスでは知らない人がいないほどの有名人です。

この牧場では、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、ニワトリ、アヒルなどの家畜が詳しい解説とともに展示されており、家畜がどのように作られたか、家畜と人々の関係がどのように変化してきたのかについて、生きている家畜を見ながら歴史をたどれます。

実はイギリスやEUには、動物園や観光牧場は「楽しい施設」であるのみでなく、「動物に関する教育の場」であるべきだという考え方があるのです。これは、イギリスやEUの動物園にまつわる法によっても定められています。

Rare Breeds Survival Trustという、希少な家畜を保護する団体ともつながりが深い牧場です。イギリスで長い時間をかけて作られた希少な家畜を利用しながら維持していくことに力をいれています。

子どもたちが遊べる遊具もあるほか、レストランやコテージなども併設されていて、休日になると多くの親子連れでにぎわっています。

この連載では、イギリスの牧場を紹介していきます。その中でも、コッツウォルドファームパークについては数回に渡ってご紹介します。今回の写真は2017年および2019年に撮影したものですが、2024年7月にスコットランドへ行く途中でコッツウォルドファームパークを訪れる予定なので、新しい写真もお楽しみに!

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。