『ねことじいちゃん』のやさしい世界に込められた、漫画家・ねこまきさんのこだわり

大吉じいちゃんと猫のタマがおくる、のどかな島での暮らしを描いた漫画『ねことじいちゃん』。やさしいけれどどこか切ない物語は、どのように描かれているのでしょうか。
作者のねこまきさんに、猫との出会いや、漫画で表現したい風景などをお聞きしました。

図:ねこまきさん似顔絵
写真:一緒にインタビューに参加してくれた、みかん(左)とマロン(右)

図:『ねことじいちゃん』1巻の表紙(『ねことじいちゃん』ⒸNekomaki/ms-work/KADOKAWA)

「うちの猫を紹介したい」が猫漫画のきっかけ

ご夫婦で活動されているねこまきさんですが、それぞれの猫との出会いを教えてください!

私と猫の出会いは、私の母が実家の縁側で可愛がっていた通い猫です。私がその猫に会ったのは幼い頃なので、とても巨大な黒猫だった印象があります。母の影響で私も「猫と縁側」というモチーフが好きになり、『ねことじいちゃん』の随所に出てきます。

図:縁側での猫との交流は、作中でよく描かれる(『ねことじいちゃん』ⒸNekomaki/ms-work/KADOKAWA)

私には兄弟がいなかったので、小学生のころから高校生まで、ご飯のときも寝るときも猫と一緒に暮らしていました。「猫と育った」という感じですね。中学生のころ、ナナという名前のシャム猫ミックスに、頭の上でお産をされたこともあります。中学校から疲れきって帰ってきたあと、布団にもぐって寝ていたら、ナナも布団に入ってきて私の頭の上でお産をしたのです。起きたら、私の布団で子猫が生まれていました。ナナは家に迎えたときに右前肢を怪我していたので、大慌てで動物病院に駆け込んで手当てしてもらった覚えもあります。それから一緒に過ごした時間が長かったので、私のそばが安心できる場所だったのかもしれないですね。

結婚してからは2人で猫を飼いはじめて、猫が家族の中心になりました。やがて「猫の毎日の仕草をみんなに伝えたい、うちの猫を紹介したい」と思うようになり、猫の日常をイラストにしたものをブログに載せはじめました。そのブログがきっかけで出版社さんからお声がけいただき猫漫画を描くようになり、2015年に出版されたのが『ねことじいちゃん』の第1巻です。

さまざまなモデルがいる『ねことじいちゃん』の世界

大吉じいちゃんの生活を描くうえで、参考にしたものはありますか。

いろいろなものを参考にしていますが、1番参考にしているのは、自分の父と母の若いころの話です。母には聞きそびれたことが多いのですが、父には昔のことをたくさん聞かせてもらいました。

また、すけつねさんという方のブログ「高貴高齢者の叫び」も参考にしています。戦前に生まれてからの体験が書かれたブログです。その文章に、自分の父親とかぶる親しみやすさがあったので、「漫画に書かせてほしい」とご連絡して書かせてもらっていました。すけつねさんが2018年にお亡くなりになったあとは、すけつねさんの奥様に毎年お願いして、そのどこか懐かしいストーリーを漫画に反映させています。

以前一緒に暮らしていたお姑さん(夫の母)が、詳細な思い出話を懐かしそうにいろいろと教えてくださったので、その話も入れています。作中に出てくる料理などは、お姑さんが作っているのを私が横から見て覚えたものです。

図:大吉じいちゃんの料理はお姑さんの料理を参考にしている(『ねことじいちゃん』ⒸNekomaki/ms-work/KADOKAWA)

漫画に出てくる料理は私の母の料理よりも、私のおばあちゃんの料理に近いですね。自分が子どもの頃に食べた料理というイメージです。母の料理はもう少しだけ適当なものでしたから。

とてもおいしい料理でしたよ。

図:大吉じいちゃんの料理は作品の魅力のひとつ(『ねことじいちゃん』ⒸNekomaki/ms-work/KADOKAWA)

物語の舞台の島については、モデルはあるのでしょうか。

描きはじめた当初は具体的な設定が無かったのですが、後から愛知県の離島という設定にしました。

ちなみに妻の出身は愛知県の岡崎市、徳川家康公生誕の地です。

だから、大吉じいちゃんも名古屋弁を喋っているんですね。しかしあの島自体は、私の母親の実家がある山口県柳井市伊保庄をモデルにしています。幼少期に訪ねたときの山間から海が見える風景が忘れられず、「いつか漫画にしよう」と思っていました。本当に漫画にできてよかったです。

タマのモデルとなった猫ちゃんはいますか?

結婚してから飼いはじめた、「にゃんこ先生」という名前の茶猫がモデルです。タマの仕草は、にゃんこ先生の仕草を描いたものです。飼い主のしつこいスキンシップに対して、教育的指導として容赦ない「鉄爪制裁」を下すこともありつつ、甘え上手の孤高のにゃんこでした。

写真:1代目の猫、にゃんこ先生

図:にゃんこ先生の仕草をモデルに描かれたシーン(『ねことじいちゃん』ⒸNekomaki/ms-work/KADOKAWA)

にゃんこ先生の次に迎えた猫が「どんぐり」です。ベランダで抱き上げると必死でしがみついてくるほどに高いところが苦手な、心優しい巨猫でした。その次の3代目「にゃん太」は、甘え上手で小さな暴れん坊です。ふとんに何度おしっこをされても、可愛くてしかたありませんでした。それぞれ、作品に影響を与えてくれています。

写真:2代目の猫、どんぐり

写真:3代目の猫、にゃん太

水彩で描かれた柔らかな雰囲気の絵が特徴的ですが、漫画を描く時のこだわりを教えていただけますか?

優しくて明るい雰囲気を伝えたいので、鉛筆の柔らかな線やきれいな色使いにはこだわっています。また鉛筆と水彩は、小学校の写生大会などで使われる、多くの人にとって身近で懐かしい画材なので、その質感で懐かしさを伝えられると良いなと思っています。

コマ割りについては、自分が描いていてわかりやすいように、右から左、上から下の順番で簡単に読めるようにしています。背景についても、ストーリーが展開している場所がわかりやすいようにしています。過去を回想するシーンは色使いなどをがらりと変えて、現代のシーンと区別しやすいようにしています。

また、私は絵があまりうまくないので、厳密な形よりも雰囲気を伝えることを優先しています。親しみやすく誰でも描けそうで、読者の方に真似してもらえる絵が理想です。いろいろな方からお手紙をいただくのですが、じいちゃんや猫の絵を描いていただくことが多くてうれしいです。

猫は「そこにいるだけで癒される」存在

ねこまきさんにとっての「猫の魅力」を教えてください!

猫の魅力は「そこにいるだけで可愛くて、癒される」ことです。猫がいるだけで家が平和になります。猫がいなかったら、もっと喧嘩が多かっただろうなと思います。ちなみに今は、みかんとマロンの2匹を飼っています。

マロンは8歳の男の子で、食いしん坊でマイペースな巨猫です。ほぼ真っ黒ですが、耳の後ろだけ白い毛がちょろちょろと出ています。爪切りやお顔拭きなどをされると「シャーッ」と吹きますが、絶対に人を噛まない子です。クールな印象ですが、お客さんが大好きだったり運動音痴だったりという一面もあります。

写真:4代目の猫、マロン

みかんは6歳の男の子です。人懐こい性格をしていて、高いところと遊ぶことが大好きです。破壊神でもあり、ローンが20年残っている我が家の扉は、みかんにボロボロにされました。それすらも許せる可愛さです。

写真:5代目の猫、みかん

2匹とも夫に懐いているので、私には冷たいのですが、それでもかまわないくらい可愛いです。2匹とも人がいるところに来るので、ご飯を食べているとリビングに、仕事していると仕事部屋に、常に2人と2匹があつまります。よっぽどの要求があるとき以外は仕事の邪魔をしてこないのですが、ときには片手で絵筆を守りながら絵を描いたり、水洗のバケツに蓋をしたりと工夫することもあります。

これから描いていきたいものについて教えてください。

このまま、大吉じいちゃんとタマが平穏な日常を暮らしていく漫画を書きたいです。いろいろな思い出を抱えたキャラクターたちですが、平和な今を過ごしてほしいです。人生100年時代ですから、大吉じいちゃんも100歳を目指して、タマも猫又になって尻尾が割れるまで……。これからも大吉じいちゃんやタマ、そして猫をたくさん描いていくので、読んでいただけたら嬉しいです。

ありがとうございました。これからの大吉じいちゃんとタマの物語が楽しみです!

ねこまき
漫画家、イラストレーター。主な著書に、『まめねこ』シリーズ(さくら舎)、『トラとミケ』シリーズ(小学館)、『ねことじいちゃん』(KADOKAWA)、『新版 しっぽのお医者さん』(日刊現代)、『ケンちゃんと猫。 ときどきアヒル』(幻冬舎)、『ちびネコどんぐり』(ホーム社)など多数。