漫画家・松本ひで吉さんが犬と猫に教えてもらった個性と魅力

クールで憎めない「猫さま」と天真爛漫な「犬くん」が一緒に暮らす毎日を描いたエッセイ漫画、『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』。作者の松本ひで吉さんに、猫さまとの出会いや、犬と猫それぞれの魅力についてお聞きしました!

漫画家・松本ひで吉さん

猫との出会いを教えてください!

子どもの頃から猫が大好きで、歴代の犬たちとは一緒に暮らしていたのですが、最初の猫である「猫さま」を家に迎えたのは大人になってからでした。2009年ごろのある日、ペットショップで猫の値段を確認して「いつか飼いたいけれど、今は難しいな」と考えながら帰宅している途中に、裏路地から聞こえる猫の鳴き声に気づいたのです。路地裏に入って側溝に手を伸ばしたところ、鼻の黒いハチワレの子猫が出てきました。その子を動物病院に連れていったところ、生後2~3週間ぐらいの野良猫で、親とはぐれたのだろうとのことでした。それが「猫さま」との出会いです。手探りでおしっこやミルクの世話をしたのですが、無事に大きく育ってくれました。

写真:お迎えしたばかりの頃の猫さま

もともと両親はあまり猫が好きではなかったため、最初は飼うことに反対していましたが、甘えて膝に乗ってくる生き物を嫌うのは難しいようで、だんだんとほだされていきました。とくに父とはあっという間に仲良くなり、いつも一緒にいました。母は犬派なので確執が長かったのですが、猫さまは成長するにつれて配慮のあるしっとりとした性格になったので、そこから仲良くなりました。時間をかけて「愛玩動物」から「伴侶動物」に成熟したような、魅力的な子でしたね。

漫画ではオープンにしていなかったのですが、猫さまは猫エイズ(猫免疫不全ウイルス感染症)陽性だったので、生活のなかではストレスをかけないように気を使いました。そのかいもあってか長年元気に過ごしていたのですが、同居していた「犬くん」が亡くなった後にみるみる元気がなくなり、2023年に推定14歳で追いかけるように旅立ちました。犬くんがいなくなったのが、大きなストレスだったのかもしれません。

写真:仲良しな猫さま&犬くん

漫画を描きはじめたきっかけや、描くときの工夫を教えてください!

犬くんと猫さまは、それぞれ「犬あるある」「猫あるある」がそのまま当てはまるタイプでした。なので、その性格の違いや魅力を伝えたいと思い、まずは犬くんの漫画を描きはじめ、そのあとで猫さまについても描きはじめました。クールな猫さまをありのままに描いたものですから、犬びいきだと思われたこともあるんですよ。

こだわりの猫パンチ

漫画を描くときには、観察日記的な内容のほかにも、人と動物のつながりを考えてもらえる内容を盛り込めるように工夫しています。今まで公開してきたなかでも反響が大きかった漫画は、タクシーの運転手さんと相棒の猫のエピソードです。多くの読者はそれぞれの形で動物とのつながりをもっているので、他の人と動物とのつながりに共感を覚えるのかなと思っています。

絵のこだわりとしては、犬や猫の骨格を意識して描くようにしています。ちなみに、猫は太ももからお尻にかけてのライン、犬はお尻からかかとにかけての関節の描き方にこだわりがあります。手足の動作なども、実際の動きを取り入れるために、よく観察しています。猫パンチを描いたあとに動画と見比べてみたところ、前脚の伸ばしかたがそっくりで、「自分の動体視力ってすごい」と思ったこともありました。

お尻のラインもこだわりです

犬と猫の魅力を教えてください!

犬は、目が合うとニコニコと笑ってくれるところや、つねに一生懸命なところが魅力だと感じています。2023年に男の子「ぱるたん」を出産してからは、犬の表情に赤ちゃんと似ているものを感じるようになりました。実家には犬くんの前にも歴代3匹の犬がおり、一代前は天真爛漫な子、その前はとてもまじめな子、その前は絵に描いたような忠犬と、それぞれ個性があったのですが、どの子も「ニコニコ」と「一生懸命」は共通していました。ただし、SNSなどで他の魅力をもった犬を見かけることもあるので、これから私のもつ犬のイメージも変わっていくのかもしれません。

一方で私の思う猫の魅力は、一生懸命にならないところです。私が病気になったときにも、寝ると喜んでくれます。生産性に重きに置いている人間にとって、休むことを歓迎してくれる生き物の存在は素晴らしいですね。また、性格が徐々に熟成されていくところも魅力です。子猫時代の猫さまに「可愛いね」などと言っていたら、いつの間にか私よりもお兄さんになって面倒を見てくれていました。

朗らかな犬くんとクールな猫さま

長年、猫さましか猫を知らなかったのですが、夫の実家で暮らしていた猫のガーラさんを数年前に家に迎えてから、猫の印象もガラリと変わりました。猫さまは嫌なことがあると黙って行方をくらましていたのですが、ガーラさんは「嫌だ」とその場で言いますし、気まずくなっても根に持たずに「そろそろ仲良くしようよ」と近寄ってくれる、社交的で明るい猫です。ただし怒りのコントロールが効かないところがあり、噛むことがあります。身内以外のことは噛まないので、夫からは「認められたってことだよ」と言われたのですが、猫さまは絶対に噛まなかったので衝撃でした。

ガーラさんとぱるたんは、関係を手探り中です。YouTubeやInstagramにある、赤ちゃんと動物が仲良くしている動画で期待しすぎていたのかもしれませんが、子どもと動物が一緒に暮らす難しさを考えさせられています。

ガーラさんとは距離感を測っている最中です

実は、ガーラさんが息子にすこし怪我をさせてしまったことがあり、その出来事を受けて私と夫が落ち込んでいたことがありました。ガーラさんはその様子を遠くから見ており、その日を境に自分から息子と距離を取るようになりました。ガーラさんなりに、同じことが起こらないように反省したのだと思います。息子が泣いているときに教えに来てくれるなど、家族としての自覚はあるようなので、今後も適切な距離を測りながら生活していくつもりです。 ちなみに、ヒョウモントカゲモドキの「トカゲちゃん」を飼っているのですが、ガーラさんはトカゲちゃんを水槽越しに見るのが大好きで、脱皮の失敗などを報告に来るので、こちらも彼女から家族判定を受けているのかもしれません。

この記事の読者にメッセージをお願いします!

いつも漫画を読んでくださってありがとうございます! 今後も、猫さまとは違ったガーラさんの魅力をお届けしていくので、ぜひ楽しんで読んでいただけると嬉しいです。 また長年の間、犬くんと猫さまを見守ってくださってありがとうございます。猫さまを亡くしたときに「うちに来て幸せだったかな」と悩んだのですが、夫に「幸せではないと、あんなに良い子にならないよ」と励まされました。皆さんの家にいる子たちが良い子なのも、きっと幸せな生活をしているからだと思います。お互いに、動物たちとの幸せな暮らしを大切にしていきたいですね。

松本ひで吉(まつもと・ひできち)
漫画家、イラストレーター。『ほんとにあった! 霊媒先生』で第35回講談社漫画賞受賞。主な著書に、『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』、『さばげぶっ!』など(いずれも講談社)。現在連載中の『いきものがたり』は2023年に第1巻発売。
松本ひで吉(@hidekiccan)さん / X