ある港町のお宮にたくさんの猫が住み着いて…
想田和弘監督の新作ドキュメンタリー映画『五香宮の猫』(ごこうぐうのねこ)が、2024年10月19日より全国で順次公開されます。
事前のリサーチや台本、ナレーションやBGMを排した「観察映画」の方法で知られる想田監督は、これまでに『選挙』や『精神』、『港町』など数々の話題作を発表してきましたが、今回の作品は、想田監督と妻の映画プロデューサー柏木規与子さんが、27年暮らしたニューヨークを離れて移住した岡山県牛窓の人と猫と自然を映し出したドキュメンタリーです。
瀬戸内の風光明媚な港町・牛窓で古くから親しまれてきた鎮守の社・五香宮は、多くの野良猫たちが住み着いたことから“猫神社”とも呼ばれています。新入りの住民である猫好き夫婦(想田監督、柏木さん)は野良猫兄弟の保護をきっかけに、地域が抱える猫の糞尿被害やTNR活動、さらには超高齢化といった現実に住民として関わっていくことになります。
小さな対立と不意に展開する幸福な偶然。四季折々の美しい自然のなか、生きとし生けるものが織りなす限りなく豊かな光景。それは愉快で厳しく、シンプルで複雑な世界の見取り図でもありました……。
■想田和弘監督からのメッセージ
縁あって、牛窓で『牡蠣工場』(2015)と『港町』(2018)という2本の映画を撮った。当時、僕と妻でプロデューサーの柏木規与子はニューヨークに住んでいて、後年、牛窓に住むことになるなどとは、夢にも思っていなかった。しかし2020年にコロナ禍が起き、僕らの生き方を大きく変えた。2021年1月、僕らは27年住んだニューヨークを離れ、牛窓へ移住した。コンクリートで固められた大都市で自然から隔絶されて生きるのをやめて、海と山に囲まれながら、可能な限り自然とともに生きていきたいと思った。
『五香宮の猫』の撮影は、牛窓に移住して間もないころ、唐突に始まった。僕と柏木は路頭に迷っていた野良猫の兄弟(茶太郎とチビシマ)を保護せざるをえなくなり、地元の猫の保護活動に携わる方のお世話になった。その成り行きで、柏木は五香宮の猫たちを一斉に捕獲し、避妊去勢手術する活動に参加することになった。いきおい、僕はその様子を撮り始めた。
五香宮で猫の捕獲活動を撮影していると、この小さな神社には実に様々な人々が様々な理由で出入りしていて、不思議な公共性があることに気づかされる。また、牛窓には野良猫を世話する人々がいる一方、糞尿等の被害から“猫派”に不満を抱く人々もいて、それが地域の火種になっていることにも気づかされる。僕は五香宮という場所が持つ力に興味を覚えて、その後約1年間、カメラを回し続けた。
撮影はこれまでの作品同様、「観察映画の十戒」に基づき、事前のリサーチや打ち合わせなしに、行き当たりばったりで行われた。柏木は成り行き上、本作のプロデューサーであると同時に、被写体にもなった。その結果、撮る側と撮られる側の境界線が曖昧になり、究極の「参与観察」の映画になったのではないだろうか。
牛窓で暮らし始めてから、すでに破局が近づいているように見える自然と人間の関係について、考えさせられることが多い。外で暮らす猫たちと接していると、自然の掟に従い、野生の習性を失っていない彼らは「自然」そのものであると感じる。そういう意味では、『五香宮の猫』は自然と人間の関係を観察し、考える作品になったのではないかと思っている。
【概要】
・作品名…『五香宮の猫』(ごこうぐうのねこ)
・監督・製作・撮影・編集…想田和弘
・製作…柏木規与子
・配給…東風
・公開日…2024年10月19日よりシアター・イメージフォーラム(東京)ほか全国順次公開
・ウェブサイト…http://gokogu-cats.jp
・X…https://x.com/soda_film_info
※同社ニュースリリースをもとに編集部まとめ。