飼い主さんに知ってほしい! 猫に必要な「栄養」のこと

猫(イエネコ)の食性と採食パターン

私たちが「猫」と聞いて、一般的に思い浮かべる「イエネコ」の先祖は約1万年前に中東の砂漠に生息していたリビアヤマネコと言われています。

農村のネズミなどの害獣を追いかけ、人が住む集落に移ってきました。人々はリビアヤマネコが害獣を捕食することを歓迎し、共生関係が形成されたと言われています。

もともとは完全肉食とされていましたが、人との共生生活により進化を遂げ、現在では『肉食(時に少量の植物も摂取)』と言われています。

これらの裏付けとして、腸管の長さと体長の比率があげられます。猫の場合、小腸は発達していますが、大腸が貧弱で消化管の長さは体長の約 4 倍程度となります。雑食や草食の動物と比べると、かなり短いことがわかります。

また、猫の盲腸は短い虫垂状で、ほとんど機能せず、きわめて限定的な炭水化物の消化能力や代謝能力しか持ち合わせていません。

採食パターンとして、猫は単独(単独捕食者)で狩りを行い、摂食時間や回数も決まっておらず、少しずつ食べる『少量頻回採食者』です。その食事回数も9〜16回ほどと言われており、猫の胃壁は進展性が低く、1回の食事量は少量とされています。

食性に適した栄養バランスとは

食べ物の成分である栄養素は、タンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルの五大栄養素であり、さらに生きていくために必須な水も合わせ六大栄養素と言われます。食べることは全ての動物に共通する生命活動の基本です。

人は雑食、犬は肉食寄りの雑食、そして猫は肉食です。その違いからも、それぞれに適した栄養バランスがあります(図参照)。

肉食である猫はタンパク質がより必要ということがわかります。

図:犬・猫・人間の必要な三大栄養素の割合(一般社団法人ペットフード協会HPより引用

総合栄養食とは

総合栄養食(complete and balanced diet)とは、猫の健康維持に必要なすべての栄養素を適切なバランスで含む食事を指します。これには、エネルギー、タンパク質、脂肪、ビタミン、ミネラル、水分が含まれます。

日本では、ペットフードの総合栄養食の基準として、主にAAFCO(Association of American Feed Control Officials)のガイドラインが参照されています。以下に、AAFCOおよびその基準について詳しく説明します。

AAFCO(The Association of American Feed Control Officials)

AAFCOはアメリカのペットフードの栄養基準を設定する機関であり、その基準は世界中で広く参照されています。

当機関のガイドラインは、ペットフードが特定のライフステージ(成長期、維持期、妊娠・授乳期)における栄養要求を満たすための最低限の栄養素を規定しています。

猫に必須な栄養素

猫は肉食動物として進化してきたため、特定の栄養素を十分に摂取することが健康維持に欠かせません。猫に必要な栄養素についての理解を深めることで、愛猫の健康を支える適切な食事を提供することができます。ここでは、猫に必要な主要な栄養素とその重要性について詳しく説明します。

1. タンパク質

猫は高いタンパク質要求量を持つ動物であり、1日の食事の割合として35パーセントのタンパク質が必要です。タンパク質は筋肉、皮膚、被毛の健康維持に不可欠であり、酵素やホルモンの生成にも関与しています。

・必須アミノ酸
猫には、体内で合成できない必須アミノ酸が11種類あります。その中でも特に重要なのがタウリンです。タウリンは心臓と眼の健康に不可欠であり、欠乏すると心筋症や視覚障害を引き起こす可能性があります。タウリンは魚介類や動物の内臓などに多く含まれていますが、手作りフードなどで与える際は、必要量が十分に含まれているか注意しましょう。

・タンパク質の主な食材
良質なタンパク質源として、鶏肉、牛肉、魚、卵などが挙げられます。市販のキャットフードには、これらのタンパク質源がバランスよく含まれていることが一般的です。ドッグフードはタウリンが配合されていないことが多いので、猫に与えるのは禁物です。

2. 脂肪

脂肪は猫の主要なエネルギー源であり、1日の食事の割合で20パーセントの脂質が必要です。脂肪には、ビタミンA、D、E、Kの吸収を助ける役割があります。

・必須脂肪酸
猫にはリノール酸とアラキドン酸という2種類の必須脂肪酸が必要です。動物の体内では、リノール酸からγ-リノレン酸、アラキドン酸へと変換され、γ-リノレン酸からアラキドン酸への代謝変換が行われています。猫はγ-リノレン酸からアラキドン酸を合成することができないため、食事からとらなければなりません。これらは皮膚の健康、被毛の光沢、細胞膜の構成、免疫機能などにも重要です。

・脂肪の主な食材
良質な脂肪源として、魚油や鶏脂、牛脂などが含まれます。市販のキャットフードには、これらの脂肪が適切なバランスで含まれています。必須脂肪酸であるアラキドン酸は肉類や卵などの動物性脂肪の中にしか含まれていませんが、最近の良質なキャットフードにはいずれも脂肪酸が適量含まれています。

3. ビタミン

・ビタミンA
ビタミンAは視力、免疫機能、皮膚の健康維持に必要です。猫は植物由来のカロテンをビタミンAに変換する能力がないため、動物性のビタミンAを直接摂取する必要があります。

・ビタミンD
ビタミンDはカルシウムとリンの吸収を助け、骨の健康を維持します。猫は日光からビタミンDを合成する能力が低いため、食事からの摂取を必要とします。

・ビタミンB3(ナイアシン)
ナイアシンはエネルギー代謝に必須です。アミノ酸であるトリプトファンからナイアシンは生成されますが、生成よりも分解の方が早く進むため、食事からの摂取が必須です。

・その他のビタミン
ビタミンEは抗酸化作用があり、細胞膜を保護します。ビタミンKは血液凝固に関与します。ビタミンB群はエネルギー代謝や神経系の機能に重要です。

・ビタミン源の主な食材
肉類、レバー、魚、卵黄、穀類などが豊富なビタミン源です。市販のキャットフードには、必要なビタミンがバランスよく含まれています。

4. ミネラル

・カルシウムとリン
カルシウムとリンは骨と歯の健康維持に必要です。これらのミネラルはバランスが重要で、不適切な比率は骨に問題を引き起こす可能性があります。猫の場合は、リンが1に対して、カルシウムが1〜3とされています。

・マグネシウム
マグネシウムは筋肉と神経の機能に必要であり、骨と歯の重要な構成成分です。過剰な摂取は尿路結石を引き起こす可能性があるため、適切な量を維持することが重要です。

・鉄
鉄は赤血球の生成に必要であり、酸素を運搬する役割を果たします。鉄不足は貧血を引き起す原因となります。レバー、肉類、魚およびブロッコリーやホウレン草のような緑黄色野菜に豊富に含まれています。

・その他のミネラル
亜鉛は皮膚の健康維持と免疫機能に必要です。銅は鉄の代謝と赤血球の生成に関与します。セレンは抗酸化作用があり、細胞を保護します。

・ミネラル源
肉類、魚類、内臓類、卵などが豊富なミネラル源です。市販のキャットフードは、猫の健康を維持するために必要なミネラルをバランスよく含んでいます。

5. 水分

猫はもともと乾燥した環境で進化してきたため、水をあまり飲まない傾向があります。しかし、水分摂取は健康維持に不可欠です。十分な水分をとることで、尿路結石や腎臓病のリスクを減少させることができます。

・水分源
ウェットフードは水分含量が高いため、猫の水分摂取を助けます。ドライフードを与える場合は、常に新鮮な水を提供することが重要です。猫が1日に必要な水分量は、1日あたりのエネルギー要求量(kcal/day)をmlに変えた量です。

表:猫のカロリーと水分量の早見表

まとめ

猫に必要な栄養素を理解し、バランスの取れた食事を提供することは、愛猫の健康と長寿を支えるために非常に重要と考えられています。市販のキャットフードは、猫の栄養要求を満たすように設計されていますが、手作り食を与える場合は、栄養バランスに十分注意し、必要に応じて獣医師に相談することが推奨されます。適切な食事管理と水分補給により、愛猫の健康を守り、快適な生活をサポートしましょう。

【執筆者】
佐藤貴紀(さとう・たかのり)
獣医師。日本獣医循環器学会認定医。VETICAL動物病院 代表獣医師。The vet 南麻布動物病院 顧問。「一生のかかりつけの獣医師」を推奨するとともに、専門分野治療(循環器、栄養学)や予防医療(健康維持できる食事)にも力を入れている。(株)PETOKOTO取締役副社長。同社が製造・販売する国産食材をメインに使用した犬・猫用のフレッシュペットフード「PETOKOTO FOODS」の商品開発を担当し、獣医師の立場から品質管理も行っている。また、国内外の研究者と安心・安全なペットフードの開発に積極的に取り組んでいる。

[参考文献]
・AAFCO Dog and Cat Food Nutrient Profiles.
https://www.aafco.org/wp-content/uploads/2023/01/Model_Bills_and_Regulations_Agenda_Midyear_2015_Final_Attachment_A.__Proposed_revisions_to_AAFCO_Nutrient_Profiles_PFC_Final_070214.pdf
・一般社団法人ペットフード協会ホームページ.飼い主さんの安全なペットフード利用について.
https://petfood.or.jp/statistics/for_owner/index.html