目指せ! 猫との絆が深まる快適な住まいづくり

「完全室内飼育」が推奨されている家庭の猫達ですが、物理的な運動量が減り、刺激不足から退屈というストレスがかかってしまうことが心配です。そのため、猫と暮らすご家庭では、自宅内でも安全で楽しく暮らせるような工夫が必要になります。

猫はもともと、木の上で待ち伏せをして、獲物を捕らえていた「狩猟動物」で、平面ではなく空間を立体的に使って暮らしています。高さとそのルートを工夫すれば、1つの室内を多角的に見せることができ、狭さを補えます。
また、室内の動き(ヒトの様子)を楽しめるようにすれば、面積不足と刺激不足を補うことができると考えています。
猫達にとって、ヒトとの暮らしが幸せであるように、お家全体を「立体的」に使って、猫の住空間をプランニングしましょう。

猫にとっての広さは「空間数」

猫にとって、お家で豊かに暮らしてもらうためには、広さよりも空間数を意識しましょう。

頭数+1部屋(つまり、1匹につき2部屋)が、1匹に対して必要な空間数であると考えています。複数の空間があると、猫がそれぞれの空間を行き来することにより、刺激を得られるようになります。
猫は自宅の間取りを理解し、その折々で適切にルート選択しているようです。お家の中で猫が隣の空間へと渡り歩く状態、まるで散策するようなイメージを持っていただくと良いでしょう。

空間それぞれに特徴をつける

空間を楽しむためには、それぞれの部屋の趣として、異なった特徴が欲しいので、少なくとも「動」と「静」の2つの意味合いを付けてみましょう。「動」と「静」とは、ヒトの活動の状態が「家族が集まる賑わう場所」か「静かに過ごす場所」か、ということです。一般のご家庭であれば、家族の集まる賑わいのある場所とはリビングを指します。静かにヒトが過ごす場所は、寝室や書斎などが考えられます。

「動」の空間では、猫もアクティブになりますし、その部屋を立体的に楽しめると良いので、ヒトの背丈より少し高い程度の猫の通路(いわゆるキャットウォーク)や、上下運動するための階段、よじ登り運動ができるタワーなどがあると良いでしょう。

写真:空間を「静」と「動」で2つ以上用意する(TDY東京コラボレーションショールーム 十人十家「ペットと暮らす」コーナー)

部屋や相手を観察し、回避行動できるという安心感が持てる工夫をする

空間数を確保したら、それぞれの空間で「少し隠れながら、中をうかがい見る」事ができるようにすると、さらに居心地の良さが高まります。

猫は狩りを単独で行ってきた動物で、不安や脅威を感じたときには身を隠す回避行動をとってきました。そのため、猫にはストレスを感じる状況や相手との交流を避けるために「隠れる」場所が必要です。身を隠すという選択肢を得られることで、自分で環境をある程度コントロールできると感じ、安心して生活ができるようになります。

猫だけが入れる、大きすぎないホコラ形状の「隠れ家」を空間ごとに用意してあげましょう。
家の外の気配が感じられやすいお宅や、家族が多い場合、2匹以上で猫を飼う場合は、ゆっくりとその部屋(自分がいる部屋や、その隣のお部屋)を観察できるような工夫をしましょう。

観察する対象には、簡単に気がつかれないように「うかがい見る」状況が望ましくなります。そのため、私は猫だけが通ることができる「猫くぐりの小窓」を高い場所と低い場所に設けるようにしています。平面上同じ位置にあっても、高さが変わると小窓からみる部屋の風景が変わるので、楽しむための工夫にも繋がります。

また、キャットウォークなどを使ってその部屋の高い場所から観察できるようにした場合、隠れ家ほどでなくとも、寝そべってゆっくりくつろげるだけの「留まりポイント」が望まれます。
散策路にあるベンチやカフェを想像して、座布団やねこベッドをおけるぐらいのスペースを確保してあげましょう。カフェではお茶が出るように、猫にも水分補給ができる場所があれば、水を飲む回数を増やすきっかけにもなります。

さらに、トンネル状やホコラ状になって少し身を隠せると、寄りかかって脱力して休むことできるので猫に喜んでもらえます。

写真:猫だけが通ることができる「猫くぐりの小窓」

1部屋でも、猫にとっての空間を2つ以上つくる方法

ヒトという大きな動物との空間シェアですから、猫にとっては部屋を上下で2分割することもできます。猫は棚や家具をのぼりおりして、ヒトとの空間を立体的に使っています。

室内を箱として考えてみてください。上下左右でざっくり切り分けるように考えると、4分割できます。猫にとっては背もたれのあるソファーも大きな家具です。リビングやダイニングは、ヒトには1部屋に感じても、ソファーを中央付近にもってくると、猫にとっては低めの「キャットウォーク」になり、それだけでも空間を区画できます。

写真:ソファーをキャットウォークにしてリビングとダイニングを区画する(pic by Akiko Osaki)

キャットウォークは高すぎず、部屋の2壁面以上を使う

上下だけで空間を考えないことが大事です。その部屋を十分に観察させるにも、楽しみを見つけるにも、観察対象を色々な角度から見られるようにしてあげる必要があります。そのため、ヒトのいる席をぐるっと回り込んで見られ、左右に移動ができるキャットウォークは、2壁面以上を使って計画しましょう。1面の壁だけですと、1方向からしか空間が見られないので、もの足りなく感じるかもしれません。

毎日の刺激には、ヒトという同居人を有効活用する

窓の外の景色を楽しませる工夫だけでなく、家の中のヒトも楽しんでもらいましょう。
猫は好奇心旺盛。縄張り内の色々な物に興味を持ちます。家の中のヒトも「動く物」ですし、一番観察したい相手でもあります。ヒトはただ生活しているだけでも毎回違う動きをします。ちょっかいをかければ、うれしそうに反応してくれる相当面白いアイテムでしょう。キャットウォークは、ヒトを観察し、ヒトにふれ合うためのツールであると、私は考えています。

ヒトに近寄れる場所を設けると絆が深まる

猫がゆっくりと「部屋の中のイベント(ヒトの動き)」を楽しみ、自分のタイミングとその距離感でヒトに近寄れるように、猫の動線を工夫してみましょう。それが、猫の心と体の運動不足を防ぎ、同居しているヒトとの絆を深められるコツです。

猫の通路を、廊下などヒトの生活動線にそって配置すると、猫がヒトとの絆を結びやすくなります。例えば、棚を上手に使ってヒトの顔に近寄れる場所を設置することをお薦めしています。

猫がヒトの感情を読み取るのは顔です。ヒトは猫にとっては大きな動物で、その顔は高い場所にあります。そのため、猫は家具の高さの違いもうまく利用して近づこうとします。ヒトに対してまだ少しばかり距離を感じているときには、頭より上の方から。安心感があれば腰から顔の高さから…と、近寄り方を猫の都合で変えられます。

1つの家具で段差があるモノと言えば、市販のキャットタワーが便利です。キャットタワーは窓の横に置かれていることが多いですが、廊下や部屋の入口横に置いて、ヒトに近寄れるようにしてみてください。

私が、本棚をキャットウォークに取り込んで猫にも使えるようにとお薦めしているのは、ヒトが猫ではなく本を目的に近寄ってくるからです。

自然とヒトが猫待ちの状態になっており、猫は自分のタイミングでそっとヒトに近寄れ、無理なくヒトにふれ合うチャンスが増えることになります。アナタの自然な行動で、猫のさらなるワクワクを引き出しましょう。

<キャプション>写真:本棚をキャットウークに取り入れる(犬活猫暮の家)

ステップは3種類用意する

限られた空間でも、筋肉を多様に動かす運動ができるようにするために、自宅内に昇り方の違う複数のステップがあると良いでしょう。

「なだらかな段差」「少し大きい段差」「体を縦にして上る段差」「よじ登る柱」などですが、ヒトの使う階段は「なだらかな段差」になります。市販の「キャットタワー」は「体を縦」にして登るモノが多いですね。ヒトのための棚や家具、そして市販のキャットタワーなどでも十分色々なステップをつくることができます。壁に釘を打ったりするリノベーションばかりが、いわゆる「ねこリノベ」ではありません。

楽しみの中にも安全を担保すること

キャットウォークの注意点としては、高所や窓近くでは、誤って飛び出て転落や迷子になってしまう可能性があることです。そのようなことが起こらないよう、安全対策が必要です。
猫同士の関係(遊びやケンカ)で追い詰められた先が行き止まりだと、飛び降りる危険が高まります。高所の通路を設置する場合、行き止まりをつくらず、両端には上り下りする通路を設けましょう。

また、脚立などを使わないと人の手の届かないような高い場所は、掃除が不十分になるだけでなく、通院や災害時の避難といった緊急時に猫の捕獲ができないので、設置はひかえましょう。

玄関など人が頻繁に外へ出入りする場所には、逸走防止扉などを設けましょう。家の中が安全で退屈しない環境であれば、脱走要求は高まりませんが、人を追いかけて出口から飛び出すという事故の脱走が考えられるため、玄関にはゲートなどで前室空間を確保しましょう。猫がよじ登ることも想定し、天井までのゲートを設置すると安全です。
洗濯物を干しにバルコニーに出るときも、同じように飛び出しの危険なタイミングです。サンルームやバルコニーをフェンスで囲うなどすると、猫も屋外を安全に楽しめるのでお薦めです。

半屋外空間の「CATIO(キャティオ)」のススメと設置の注意

猫に日光浴や季節の風を楽しませるための半屋外空間は、「CATIO(キャティオ)*」と呼ばれて世界中で人気です。完全室内飼育であっても屋外が楽しめる工夫を積極的に取り入れてほしいと思います。

写真:物干しスペースの半屋外をCATIOをとしても利用する(ねことりびんぐKU邸)

ただし、日本の場合、マンションなどの集合住宅では注意が必要です。

バルコニーは共用部の扱いになり、建物全体の美観を統一するためや、居住者の避難通路として設定されていることがあります。建築基準法上の制約があることから、管理規約で工作物の設置を制限されていることが一般的です。柱やフェンスは工作物ですので、設置できない事が多いと思われます。バルコニーへ設置を検討する際には、管理規約を確認しましょう。

*CATIO(キャティオ)…CAT(キャット)とPATIO(パティオ)を組み合わせた造語

【執筆者】
金巻とも子(かねまき・ともこ)
「かねまき・こくぼ空間工房」主宰。一級建築士。家庭動物住環境研究家。建築学・動物生活環境学講師。住宅・店舗の設計のほか、家庭動物との健康な暮らしをテーマに、住まいの観点からアドバイスを行っている。
「かねまき・こくぼ空間工房」