Takydromus smaragdinus(Boulenger, 1887)
奄美大島や沖縄島などを訪れると、身近な植物の派手さと数の多さに驚かされます。街中の公園などにも多くの植物が生い茂っているのです。
ちょっと散歩してみるだけで、すぐに草むらを移動する生き物の気配を感じます。立ち止まって、じっと目を凝らしてみますが、最初は何も見つかりません。しかし、相手がしびれを切らし、カサッと動いた瞬間、私は目の前の尻尾の長いカナヘビに気づくことができました。そう、今回の主役であるアオカナヘビです。
葉っぱに溶け込む鮮やかな緑色
アオカナヘビは、全身が茶色っぽい本州のものとは全く異なり、緑色が強い体色をしています。うまく葉っぱに溶け込みすぎて目の前にいるのに気が付かなかったのです。一度気になると次々と目に入ってくるようになります。アオカナベビは地面にいることが少なく、大抵が葉っぱの上に暮らしています。
よく観察すると体色の違いが2パターンあることに気がつきます。ご推察の通り、これはオスとメスの違いです。オスは体側に茶褐色の帯が表れ、尾もすべて褐色です。
これに対し、メスは体側、尾ともに緑色をしています。
ここまで異なる体色の違いを示す日本の爬虫類は決して多くありません。
朝の日光浴が観察のチャンス
さて、アオカナヘビの美しい体色が珍しいのはもちろん、もっと驚くべきはこのように美しいアオカナヘビが民家周辺の日当たりの良い場所に多く見られることです。身近な場所に棲む生き物ですから、観察するのに適しています。
陽が登ったら日当たりの良い草むらに観察に出かけましょう。アオカナヘビがどこからともなく現れて日光浴を開始しています。彼らは変温動物であるため陽の光を浴びて体温を高めないと活発に動くことができません。体を平たくして、あしをだらーんと伸ばすなど、それぞれ思いのままの姿で日の当たる表面積を広くして早く体を温めています。眼を閉じて日に当たっている姿を眺めていると本当に心地よさそうです。
日光浴中のアオカナヘビをじっくり観察すると体に対し尻尾が非常に長いことに気がつきます。体の3倍近くの長さの尾を持つ個体もいるほどです。長い尻尾で体のバランスを上手に取ったり、草に絡めながら移動したりするのに非常に適しています。
調子に乗ってもう少し近寄ろうとした瞬間、目の前からすでにその姿は消えていました。少し移動しただけでも植物の色と同化しているため再度見つけるのは困難です。
昆虫などをバリバリ食べる姿はまるで恐竜のようにかっこいいアオカナヘビですが、最近生息環境が宅地開発などで減少してきているそうです。
身近な生き物だからこそ、観察することが重要で、継続して観察することで些細な変化に気がつくことがあります。ぜひ身近な自然に眼を向けていきましょう!
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう) 1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(カナヘビ、ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ、小型サンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
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