本稿は「wan」2021年3月号に掲載している記事の改変版です。
日頃の不摂生によって引き起こされる「生活習慣病」。飼い主さん自身も気にしている人は多いのでは? じつは、犬も食事や運動など、毎日の習慣が原因で健康トラブルにつながることがあるんです。
愛犬の生活を変えられるのは、飼い主さんだけ。人も犬も元気よく過ごせるように、今の生活を見直してみませんか?
人も犬も要注意 不摂生は病気のもと!
厚生労働省によると、生活習慣病の定義は「食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣がその発症・進行に関与する症候群」とされています(人の場合)。子供時代からの健康的とは言えない生活習慣が原因で発症し、徐々に進行する慢性疾患で、具体的には高血圧・糖尿病・肥満症・動脈硬化・脂肪肝など多岐にわたります。
じつは、犬にも生活習慣病と言える病気が存在します。われわれ人間と一緒に暮らすことで犬本来の生き方とは異なる生活習慣となり、その結果として起こりやすい病気のことです。
今回は生活習慣ごとにかかりやすい病気と対策をピックアップ。健康増進に少しでも役立てることができればと思います。
食生活
野生のイヌ科の動物は肉食に近い雑食動物で、食料が確保できたときにまとめて食べて生きています。
ところが人と暮らすとほぼ決まった時間に食事がきっちりもらえるし、食事の合間にはおやつまで用意されます。
食事内容も、フードが中心で栄養バランスは良いのですが、どうしても高カロリーになりがち。余分なカロリーは脂肪として体内に蓄えられることとなり、これが生活習慣病の引き金になってしまいます。
具体的な病名は次の通りです。
肥満症
摂取カロリーが多すぎると、体脂肪が増えて肥満になります。肥満は心疾患、関節炎その他万病のもとになります。
糖尿病
食べすぎは膵臓のインシュリン分泌に負荷をかけ、インシュリンの枯渇から糖尿病を引き起こすことがあります。
肝機能障害
食べすぎる生活を続けていると、栄養分を分解・代謝する肝臓に負担がかかり、肝機能を損ないます。
すい炎
高カロリー、とくに高脂肪な食事を続けると、すい臓がオーバーワークになってすい炎を起こすこともあります。
対策
生活習慣病を防ぐには、犬種・体格・年齢からカロリー計算をして適切な食事量を知り、それを守ることが第一歩です。
食事方法は、一度にたくさん食べるより回数を増やしてこまめに与えるほうが、消化しやすくて胃腸にやさしいので、肥満予防になります。
運動
犬は本来、雪が降れば喜んで庭を駆け回るような運動好きな生き物。十分な運動は、骨格・筋肉を鍛えることで強い体をつくるだけでなく、カロリーを消費して肥満予防にもなります。
ところが、ペットとして生きる犬は、室内飼いはもちろん、屋外で飼われている場合でも自由に動き回れるわけではないので、みんな運動不足になっています。
運動不足からくる生活習慣病としては、次のようなことが挙げられます。
肥満症
消費カロリーが少ないと、余分なカロリーが脂肪になり太ってしまいます。
椎間板疾患
運動不足のせいで体幹の筋力が落ち、背骨の負担が増えて椎間板を傷めやすくなります。
対策
適度な運動を心がけましょう。それにはお散歩がいちばんです。年齢・体力に応じたお散歩(疲れない程度が目安)は足腰を丈夫にし、心肺機能アップにもつながります。
また、日中のお散歩は太陽光を浴びることで、ビタミンDが合成されて免疫が増強できる上、体内時計が正常に働いて体調が整いやすくなります。
生活環境
当然ですが、犬は本来室内ではなく外で暮らす生き物です。ひと昔前は屋外で飼っているお宅も多かったものですが、昨今はほとんどが室内飼いで、人と同じ環境で暮らしています。
その結果起こりやすい問題は大きく分けて3つ。
ひとつめは、体温調節機能がうまく働かなくなること。夏場はクーラーで冷えてお腹を壊したり、季節の変わり目に体調を崩しやすくなったりします。
次に、フローリングを歩いたり走ったりすることで足腰に過度の負担がかかって傷めやすいこと。
3つめは、密閉空間で暮らすことでハウスダウトなどのアレルギーを起こしやすくなることです。これらから考えられる生活習慣病には、次のようなものが挙げられます。
胃腸炎
暑さ寒さに体がついていかず、下痢や嘔吐を起こしやすくなります。
関節炎
フローリングで運動すると、関節に強い負荷がかかります。とくに手首・足首を傷めやすく、小型犬の膝蓋骨脱臼(膝のお皿が外れてしまう症状)も目立ちます。
アレルギー性皮膚炎
ハウスダストが原因の皮膚病は多く見られ、皮膚・足裏・耳に炎症を起こします。
対策
生活環境が原因で病気になるからと、室内犬をいきなり外につないで飼うことはできません。部屋の温度は常時適切に保つ、フローリングにはカーペットやマットを敷いて足腰の負担を軽減するなど、できることから始めましょう。
ヘルスケア
自然界で暮らす野生動物は、歯みがきやトリミングのような、いわゆる「ヘルスケア」は誰も行ってくれません。あくまでも自然に生きていますが、ペットとして暮らす犬は歯みがきをしなければ歯石がつくし、シャンプーをしなければ皮膚が荒れたり体臭がきつくなるし、犬種によってはカットしなければ毛が伸び放題で大変なことになります。もちろん、耳掃除や爪切りも大切です。ケア不足から起こりやすい病気としては、次のようなものがあります。
歯周病
歯石がたまって歯肉が炎症を起こすことで、口臭・口の痛みなどが見られます。
皮膚病
ケアを怠ると、膿皮症・脂漏症などの皮膚病にかかりやすくなります。
外耳炎
たまった耳垢を放置していると、細菌やマラセチア(カビの一種)が増えて外耳炎になります。
対策
犬が人と一緒に快適に暮らすためには、体のケアは欠かせません。トリミングとシャンプーは犬種に応じたサイクルで行うべきですし、ブラッシングは被毛と皮膚を健全に保つために毎日でも必要。
病気予防の観点から言うと、歯みがきはとくに大切です。歯周病は進行すると細菌が全身に影響して心不全や腎不全の原因になります。歯みがきを習慣にできるかどうかは、健康維持の要と言えるでしょう。
ストレス
犬も人も、生きている以上はストレスだらけの日々です。では、犬のストレスとは何でしょう? 実際は犬自身に尋ねてみないとわかりませんが、想像するに次の3つのパターンがあります。
肉体的ストレス
お腹が空いた、どこかが痛い、疲れてしんどいなど、体が原因のもの。
精神的ストレス
留守番の時間が長くてさびしい、雷が鳴って怖い、同居犬と仲が悪いなど、気持ちが原因のもの。
環境的ストレス
暑い寒い、室内飼育で十分に運動できないなど。
過度のストレスは免疫力を低下させ、体調不良ひいてはさまざまな病気の原因になります。
なかでも怖いのが、がん。がんの原因はさまざまな要素がからまって複雑なものですが、ストレスもそのひとつです。
多くのがんは未だに病態も治療法も不確かですし、予防のためにもストレスを減らす努力はするべきでしょう。
対策
「自分がされて嫌なことは他人にしない」。これは世界平和のための第一歩ですが、犬に対しても同じことが言えます。
「もしも自分が犬だったなら」と想像してみて、飼い主さんからされたくないと思うことはなるべくやめてあげましょう。
不要かつ過度なストレスがかからず、日々を快適に過ごせるよう努めるのは、飼い主として、家族として当然のことです。
かと言って、欲しがるからと言っておやつを毎日お腹いっぱい食べさせるというのはもちろんダメですよ(苦笑)。
おわりに
生活習慣病は一時的な病気ではなく、完治が難しい上に長期に渡るものばかりです。したがって、治療を考えるよりも先に、生活習慣を改善することで発症を防ぐことが大切。犬本来の生活パターンに戻すことは不可能ですが、より快適に生きられるよう、できる範囲で工夫したいものです。
同時に、定期的に健康状態をチェックして、病気の早期発見に努めることも重要。なお、今回の内容はわれわれ人間にもあてはまることがほとんどです。
ワタクシもこの原稿を書きながら自分の生活習慣を反省し、そろそろ人間ドックを受けないといけないなあ、と思ったしだいです(汗)。
【執筆者】
由本雅哉(ゆもと・まさや)
獣医師。ふしみ大手筋どうぶつ病院(京都市伏見区)院長。「動物も飼い主さんもスタッフも楽しく」をモットーに、東洋医学を取り入れながら「体にやさしい治療」を心がけている。