水族館に聞く! ゴマフアザラシの健康診断(アクアマリンふくしま)

むっちりとした体に大きな瞳、そのかわいらしさから水族館でも大人気のゴマフアザラシ。アクアマリンふくしまでは、現在ユキナ(オス、27歳)、くらら(メス、19歳)と、この2頭の子供であるだいふく(オス、3歳)の3頭が飼育されています。動物たちに長く元気でいてもらうために大切な健康診断は、もちろん彼らに対しても行われています。しかし、ゴマフアザラシの健康診断とは、いったいどのように実施されているのでしょうか? アクアマリンふくしまに、お話を伺いました。

※情報は2024年8月時点のものです。

毎日の健康チェックと定期検査

獣医師による視診と触診は毎日、体重測定は1ヶ月に1回、血液検査は1年に1回行っています。妊娠中のメスがいる場合は、超音波検査で胎子の状態や大きさも確認しています。

獣医師による毎日の視診・触診

体重測定のために自作した体重計

かわいらしいゴマフアザラシですが、実は体重が約100キログラムと、とても体が大きくて、普通の体重計に乗せることはできません。そのため、当館ではバースケールという秤に、ゴマフアザラシが乗ることができる自作の台を取り付けた大きな体重計で測定しています。ただし、ゴマフアザラシは初めて見るものを怖がることが多く、はじめは体重計に近寄ってすらくれません。いきなり体重測定をするのではなく、まずは自作の台に近寄る練習からはじめ、徐々に台に上れるように慣れさせていきます。

体重計に乗るだいふく

採血は後肢の付け根から

人間は腕から採血することが多いのですが、ゴマフアザラシの場合は、後肢の付け根から採血します。前肢は短く、採血に適した血管が分かりにくいのと、口に近いので万が一にも噛まれないように、安全のためにも後肢から採血しています。

採血のときは、多くの場合はゴマフアザラシが暴れないように押さえつけて行います。トレーニングにより体を押さえていなくても、おとなしく採血をさせてくれるようになる個体もいます。

ゴマフアザラシの採血は後肢の付け根から行う

検査をスムーズに行うには事前のトレーニングが重要

超音波診断では、お腹の中に胎子がいるか、またその大きさや動きなどを観察します。超音波診断器は電子機器なので水に弱く、できるだけ水をかけないようにしています。プローブ(お腹などに当てる超音波の出る部分)だけは水に濡れても大丈夫なように作られているので、水から上がってきたアザラシに直接当てても問題はありません。

しかし、アザラシは陸上にいるときはお腹を地面につけてしまうので、そのままではお腹にプローブを当てることができません。このため、検査を受ける個体はトレーニングをし、お腹を上や横にして寝転び、じっとしていることを覚えてもらっています。突然プローブをお腹につけられることも嫌がってしまうので、事前にプローブに似せたものを徐々に体に触れさせて、プローブを嫌がらないようにしています。

こうしたトレーニングにより、じっとしていてもらうことや動きを覚えてもらうなど、動物の協力を得ることで、超音波検査以外にも様々な検査をスムーズに行うことができるようになります。

超音波検査の様子。トレーニングの甲斐あって、お腹を上にして大人しく寝転んでいる

長く元気に暮らしてもらうために

ゴマフアザラシの場合、特有の病気があるわけではありません。しかし、人間と同じように色々な病気にかかるので、日常的な健康管理は欠かせません。毎日の給餌の際には、怪我をしていないか? 動きがおかしくないか? 食欲はあるか? 歯の状態は? 目の状態は? 便の状態は? など、見た目から分かるものを中心にチェックしています。

特有の病気はないと言いましたが、ゴマフアザラシを含む鰭脚類(ききゃくるい)は白内障になることがあります。今のところ、アクアマリンふくしまのゴマフアザラシが白内障を発症したことはありませんが、もし白内障になってしまった場合は手術をすることになります。そのため、目の状態はこまめにチェックするようにしています。

昔は飼育下でのゴマフアザラシの寿命は30年程度とされていました。しかし、血液検査やここでお話した日常的な健康管理をすることで、30歳を超え40歳にもなる個体が他の水族館で出てくるようになってきました。アクアマリンふくしまのゴマフアザラシは現在27歳が最高齢ですが、これからも健康管理を続けていき、40歳になるまで大きな病気をすることなく元気に暮らしてもらいたいです。

【文・写真】
アクアマリンふくしま
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【編集協力】
柴山淑子