ワタクシも小型犬の年齢で言えば約13才になりまして、シニア犬から老犬にさしかかったあたりでしょうか。
そろそろ人間ドックを受けなくちゃ……と2年ぶりに予約したその日に、この記事の依頼をいただきました。
これは運命なの? それとも単なる偶然かしら?
どちらにしろ、自分自身の健康も顧みながら、ワンコの健康診断について書いてまいります。
定期健康診断を受ける理由
飼い主さんによくお話しすることなのですが、ワンコの健康状態を一番わかっているのは獣医師ではなく貴方、つまり飼い主さんです。
飼い主さんがワンコの体調異常に気がつき動物病院に連れてこなければ、獣医師の出る幕はありません。
日々を一緒に暮らしながら、健康状態をチェックすべきことはたくさんあります。
たとえば、食欲はいつもどおりあるか? 室内での動きはいつもどおりか? 散歩ですぐ疲れてはいないか? 尿と便の回数や量、色に異常はないか? 身体を痒がってはいないか? などなど。
とはいえ、日ごろからチェックしていても見ているだけではわかりづらく、知らないうちに体調が悪化していることもあります。
体調の異常を早期に発見し、病気が進行するのを未然に防ぐための有効な方法、それが定期健康診断です。
定期健康診断を受けるメリットは大きく2つあります。
・病気の早期発見につながる。
・異常が見つからなくても、健康時のデータを知っておくと、その後の検査結果と照らし合わせることで、体調の変化が把握しやすくなる。
では、定期健康診断は、どのタイミングで受ければ良いのでしょうか?
定期健康診断はいつ受ける?
まずは人間の場合を考えてみましょう。
生まれてから当面の間は定期的にワクチン接種があり、その都度に健康チェックを受けます。
それから、若いうちは病気をしなければ病院とはあまり縁がなく、社会に出て働きだすと職場で健康診断を受診する義務があるのではないでしょうか。おそらく、年に1回簡単な健康診断を受けるようになるでしょう。
そして、40代あたりからぼちぼち不調が出てきて、ホントに自分は健康なのか? と、気になりだし、より詳しい人間ドックを受けるようになる…。
このパターンが一般的でしょうか。
ワンコもほぼこれに準じます。
子犬のときは混合ワクチンを定期的に打ち、その際に簡単な健康診断をします。
続けて、若いうちに去勢もしくは避妊手術を受ける場合には、そのときに血液検査などで体調をチェックします。
それからは年に1、2回程度、ワクチン接種やフィラリア予防のときに簡単な健康診断を受けるというパターンが多いと思います。
人間のシニア期に相当するワンコの年齢は、小型犬で7才、大型犬で5才くらい。
シニア期の人間と同様に、そのころからワンコも不調が目立ち出し、病気も増えがちになります。
したがって、この年齢あたりを目安に簡単な健康診断よりも一歩進めた定期健康診断、すなわちドッグドック受診を考えるのが妥当かと思います。
そして、そのタイミングですが、毎年春にフィラリア予防を開始するときにフィラリア感染チェックの血液検査をするので、そのときに実施するのが一挙両得? 一網打尽? でよいのでは。
ということで、1年に1回の定期健康診断がまずはおすすめです。
定期健康診断ではどんなことをするの?
では、定期健康診断でどの様な検査をするのか? その結果何がわかるのか? 具体的にみていきましょう。
問診
飼い主さんから聞きとる問診は最大の情報源です。
1カ月前から飲水量が倍くらいに増えておしっこもたくさん出るという話から糖尿病が初期に見つかったり、ときどき後ろ足をかばって歩くことがあるという話で大腿骨頭壊死が発見できたりと、飼い主さんからの情報で早期発見・早期治療ができたケースは山ほどあります。
そこで、定期健康診断を受ける際には、伝えたい情報をあらかじめメモして持っていきましょう(普段の生活で気になる体調の変化、毎日の食事メニュー、散歩の程度など)。
情報が多いほど、検査するこちら側としては助かります。
さらに、歩き方や咳・くしゃみ・いびきなど、日ごろ気になるポイントは動画を撮ってきてもらえると大助かりです。
触診・聴診
高価な検査機器での検査はもちろん有用ですが、その前の段階としての触診と聴診にも貴重な情報が山ほどあります。
触診でのチェックポイントは、脱水症状の有無、皮膚病、体表にできた腫瘍、脱臼や腫れなど四肢の関節の異常、その他あれこれ。
触診だけでわかる体調の変化は多岐にわたり、獣医師の感覚と知識が問われるところです。
聴診では、心音で心臓の異常(心雑音、不整脈など)がわかり、呼吸音で肺の異常(気管虚脱、肺炎など)がわかります。
血液検査
あらゆる検査のなかでも、血液検査からは最も多くの情報が得られます。
血液検査は大きく血球検査と生化学検査に分けられ、それぞれ調べる内容が異なります。
血球検査では血液の構成成分、赤血球・白血球・血小板を調べることで、貧血・炎症の有無や血液凝固能力がわかります。
生化学検査では腎臓・肝臓・すい臓などの内臓機能の異常が発見できるほか、コレステロール値や血糖値などをみて、代謝異常の有無がわかります。
さらに、甲状腺や副腎といった臓器からのホルモン分泌異常を調べることもできます。
尿検査
尿を調べることで、糖尿病の可能性や腎機能異常、膀胱炎の有無がチェックできます。
受診当日に家で尿を採取し持参するか、病院で直接採取するかは、病院によって異なりますので、事前に確認しておきましょう。
糞便検査
糞便検査は、消化器官の状態を調べるのに簡易ながら最も重要な検査方法です。
定期健康診断を受ける際は、当日の便を持参することで消化管内寄生虫の有無を調べられます。
また、検査当日、体温を測る際に採取した新鮮な便で腸内細菌のバランスと消化機能がわかります。
レントゲン検査
体の内部、主に骨格や内臓の状態が確認できます。
骨と関節については、骨折や関節の変形などの異常がわかります。
内臓については、心臓だと心肥大、肺だと気管支炎や肺炎、腹腔内だと肝臓や腎臓など内臓の形状がわかります。
そのほか、膀胱結石の有無や、体内に潜む腫瘍の存在も確認できます。
超音波検査
レントゲン検査と同様、体内の状態がわかります。
超音波検査では骨のことはわかりませんが、内臓の形や大きさがわかるほか、腫瘍や腹水・胸水の有無が確認できます。
さらにメスは子宮蓄膿症、オスは前立腺疾患の早期発見につながります。
また、時間経過とともに超音波検査で見える画像も変化するため、心臓の動きや血液の流れ、胃腸の動きもわかります。
レントゲン検査と超音波検査を組み合わせることで、体内のことがかなり分かりますので、しばしばセットで検査します。
その他
眼科検査で目の異常(白内障、緑内障、網膜病変など)、口腔検査で歯の状態(歯石、歯肉炎、口腔内腫瘍など)、心電図検査で心臓の働き(不整脈、房室ブロックなど)がわかります。
最後に、体重測定は健康状態を知るのに最も簡単で、しかも大切な項目です。
日ごろから家庭でもできる健康診断ですから、月に1度は測定して変化をおさえておきましょう。
何を検査するべきか
ここまでに述べた項目を調べることは、現在の体調を知り、病気の早期発見に役立ちます。
では、数ある項目のなかから、何を調べるのがよいでしょうか?
調べられることは何でもかんでも調べるのも悪くはありませんが、長時間に及ぶ検査はワンコの心身に良くないですし、検査費用も重なって高額になってしまいます。
そのため、その子にとって必要な検査をチョイスして実施することが大切です。
いくつか例を挙げてみましょう。
・前回の検査で見つかった異常が悪化していないかの追跡調査する。 ←ここが一番重要!
・チワワ、ポメラニアンなど心不全になりやすい小型犬は、レントゲン検査・超音波検査で経過をチェックする。
・脊椎を傷めやすいプードル、ダックスフンドなどは、レントゲン検査で脊椎の変形がないかを調べる。
・肥満のワンコは、人間の成人病対策なみに血糖値、中性脂肪、肝機能をしっかりチェックする。
・肝疾患を起こしやすいミニチュア・シュナウザーは、血液検査で肝機能や中性脂肪の変化をしっかり把握しておく。
・歯石がつきやすい犬種(主に小型犬)は、口腔内のチェックをしっかり行う。
最後に
さてさて、ワタクシの人間ドックの結果もでました。
おおむね異常なし、ふ~ホッと一安心♪
定期健康診断を受けることで異常が見つかれば早い対処が可能になり、異常がなければ今のワタクシのように安心感が得られる。
これも定期健康診断を受けるメリットの1つではないでしょうか?
どうぞかかりつけの動物病院にてドッグドック、相談してみてください。
【執筆者】
由本雅哉(ゆもと・まさや)
獣医師。ふしみ大手筋どうぶつ病院(京都市伏見区)院長。「動物も飼い主さんもスタッフも楽しく」をモットーに、東洋医学を取り入れながら「体にやさしい治療」を心がけている。
【編集協力】
柴山淑子