フォトエッセイ:海外の牧場をめぐる風景【第2回】コッツウォルドファームパークのヒツジとヤギ

連載1回目では、コッツウォルドファームパークの概要と施設の写真を紹介しました。

今回は飼育展示されているヒツジとヤギの写真を紹介します。
前回も書いたように、コッツウォルドとは「ヒツジのいる丘」という意味なので、ヒツジはこの牧場の中心的な住民と言えるかもしれません。

ヒツジとヤギの家畜化

ヒツジはおおよそ1万年近く前に家畜化されたと言われ、現在は大きく分けて毛用種(良質な羊毛を生産する)、肉用種(特に肉質に優れている)、兼用種(一定の毛質で肉質も悪くない)が存在します。

ヒツジもイギリス原産の品種は多く、それらは世界中で飼育されています。

一方のヤギは、ヒツジと近縁種なので見分けがつきにくい品種もいますが、尾が短く跳ね上がっていることや、ヒゲがあることなどが外見的な違いと言えるでしょう(多くの例外があり、ややこしいのですが…)。

さらに、ヤギの祖先種は山で生活していたことから、高い場所に登ることが得意です。
ヒツジは群れたがる特性を持っていますが、ヤギは単独での行動も珍しくありません。

ちなみに、一般的に飼育されているヒツジは尾でお尻の毛を汚さないように、産まれてすぐに尾を切ってしまうことが多いのですが、近年は動物のストレスに配慮する「アニマルウェルフェア」の考え方(EUの一部では法律になっています)が広がり、切らずに長い尾のままで飼育することが増えてきました(放牧管理の場合、尾があっても毛が汚れにくいとも言われています)。

ヒツジの品種

ここで飼育されているヒツジのなかで、最も目を引く品種はケリーヒルでしょう。このヒツジは、イングランドとウェールズの境にあるケリーという町の周囲で改良された非常に良質なフリース(羊毛)を生産する品種で、目の周りの黒い毛がまるでパンダの顔のようです。一時は急激に数が減り、希少品種として扱われてきましたが、近年は飼育頭数が徐々に増えているようです。

さらにスコットランドのヘブリディーン諸島で家畜化され、角が2 本もしくは4本あるヘブリディーン種、ピーターラビットで有名な湖水地方で多く見ることができる、白い顔のハードウィック種、ファームパークがあるコッツウォルドで家畜化された、その名もコッツウォルド種など、多種多様な品種のヒツジが生活しています。

ヤギの品種

ヤギは好奇心が強く、人に対しても積極的に近づいてくることが多く見られます。
コッツォルドファームパークでも、まず最初にヤギが私たちを出迎えてくれます。

日本では、一部の地域を除いて食用としてのヤギの利用は多くありません。
しかしイギリスでは、ヤギの乳を搾ってヤギチーズの原料としたり、そのままゴートミルクとして飲むなど利用されています。

コッツウォルドファームパークには、立派な角と長いヒゲを持ち体が黄金色に輝くゴールデンガンジー種や、巻き毛の特徴を持つアンゴラ種、まだら模様やストライプ模様を持つ品種などの様々な珍しいヤギを見ることができます。

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。