動物業界のお仕事:地方公務員獣医師(熊本県天草家畜保健衛生所)

「いきもののわ」で好評な「動物業界のお仕事」紹介企画。今回は、熊本県天草家畜保健衛生所で公務員獣医師(家畜防疫員)として働く小野さんに、1日の業務や就職までの経緯、この仕事を目指す人へのアドバイスなどをお聞きしました!

熊本県天草家畜保健衛生所の小野さん

8時半までに出勤し、地域の農協職員と共に牛の繁殖農家を巡回して、繁殖検診と飼養管理についての指導を行います。繁殖検診では、飼養している牛が妊娠しているか、妊娠していなかった場合はどう対応すべきかを農家に伝えます。

繁殖農家を巡回し指導を行う

事務所に帰った後は、繁殖検診の結果を電子ファイルにまとめ、担当農協に送付します。

事務所にいる間に、臨床獣医師から牛の血液検査や子牛の解剖を依頼された場合は、職員で手分けして検査します。検査のために農家に出向き採血を行うこともあります。

午前中に出張し、午後は採取した検体の処理と検査、検査結果の整理を行うという流れが多いです。もちろん、牛だけではなく、豚、鶏、山羊やミツバチの検査を行うこともあります。時には、1日中事務作業をしている日もあります。

ある日の繁殖健診の様子

病気や死亡の原因究明だけでなく、飼養管理や繁殖検診の指導を通して農家の生産性向上に貢献できることが大きなやりがいの一つだと感じています。家畜の飼養環境や繁殖成績が改善されると、これまでの指導(仕事)をやってきて良かったと思いますし、農家の方がやって良かったと感じてもらえるような指導をしたいです。

大学時代に習得した知識や技術を活かせるだけでなく、新たな知識や技術を身に着ける機会が多いことも魅力だと思います。

農家の方から感謝されることが大きなやりがいの一つ

幼い頃から動物園や水族館に連れて行ってもらうことが多く、動物が好きでした。小学生の頃には漠然と「動物のお医者さんになりたい」と思っていたような気がします。

その後も「獣医師になる」という目標をしっかり見据え、獣医学科のある大学に進学しました。大学在学中に宮崎県での口蹄疫や熊本県での鳥インフルエンザの発生があり、地方公務員として現場で働いている獣医師の存在を知りました。

「病気を治す」だけではなく「病気を防ぐ、広げない」ことも獣医師の仕事だと認識したのはその頃でした。その後、実習やインターンシップを経験し、職場環境や福利厚生を考えた結果、公務員獣医師を就職先として決めました。

小学生の頃には獣医師を意識していたので、中学生の進路相談では獣医学科のある大学に入学するためにはどの高校に行くべきかを先生に相談していました。先生には驚かれていたと思いますし、そのまま無事に獣医学科に入学できたのは幸いでした。

1年生の後期からは獣医学科の専門科目を学び始め、4年生からは研究室に所属して、より専門的な研究もしました。6年生の夏に熊本県の就職試験を受験して内定となり、2月の獣医師国家試験に合格して晴れて熊本県の獣医師職に就きました。

県職員の獣医師は、家畜保健衛生所だけでなく、畜産研究所、保健所、食肉衛生検査所、動物愛護センターなど、食品衛生、動物愛護や家畜改良など多岐にわたる分野で働きます。

色々な職種の方との交流があり、様々な経験ができます。かくいう私も初任地は保健所で、動物愛護と食品衛生に関わる仕事に携わりました。

加工から食卓の食品衛生に関わった後に、農場から加工までの家畜衛生にも関わることができ、非常に興味深く、やりがいを感じます。「Farm to table」や「One Health」の考えが広がる中、まさにその全体の流れに関われる仕事だと思います。

就職するためには獣医師国家試験に合格しなければならないので、まずは学生のうちに勉強をするしかありません。ですが、その経験は必ず就職後の大きな力になってくれます。

小野結菜(おの・ゆいな)
熊本県天草家畜保健衛生所勤務