野生動物の観察で注意すべきことや、その際のマナーを専門家が解説する本企画。
今回は鹿児島県の屋久島にのみ生息するヤクシマザルについて、環境省屋久島自然保護官事務所に所属する、国立公園管理官の池田さんにお話を伺いました。
※記事内の情報は2024年10月時点のものです。
ヤクシマザルとは?
ヤクシマザル(マカク属ニホンザル種ヤクシマザル亜種・学名Macaca fuscata yakui)は日本の屋久島のみに生息しています。
木の実などを主食としますが、植物や昆虫を食べることもあります。
観察してみよう
森の中や道路沿いで、食事や毛づくろいをしているヤクシマザルの群れに遭遇することがあります。
特に雨上がりの晴れた日には道路上に出てきて毛づくろいをしている様子がよく見られます。
サルには近づきすぎず10メートル程度の距離を保って、静かに観察しましょう。
双眼鏡があると、サルたちにストレスを与えにくい距離を確保できるので、なお良いでしょう。
サルたちの大好物は森の果実です。屋久島の森では季節毎に様々な樹木が実を付け、その中でサルたちは食用の実を探して食べています。リスのように頬袋いっぱいに木の実を入れている場面に出くわすこともあります。堅い種を食べかすとして捨てることで、種を親木から遠くまで運ぶという役割も担っています。
そのほか、植物の花や葉を選んで食べていたり、昆虫を捕まえて食べていたりする様子も見ることができるかもしれません。
観察における注意点とマナー
一番気をつけなければいけないことは、サルに近づきすぎないことです。近くで観察したいところですが、サルにとって人が近づきすぎることはストレスになる場合があります。特にカメラやスマートフォンを構えて撮影に夢中になっていると、サルたちが嫌がっているのに気がつかないことがあります。近づきすぎるとサルたちが逃げたり、威嚇されたりすることがありますので、撮影しながら近づきすぎることは要注意です。できれば望遠レンズや双眼鏡を利用して距離を保って観察しましょう。
屋久島の土地のおよそ40パーセントは国立公園に指定されています。国立公園内において野生動物の生態に影響を及ぼすおそれのある餌やりや著しい接近などの行為は自然公園法の規制対象となり法律違反となる場合があります。
また、屋久島町では「屋久島町猿のえ付け等禁止条例」が制定されており、サルへの餌やりが禁止されています。条例に違反すると、罰金が課される場合があります。
人の食べ物の味を覚えたサルは餌をもらうために人に近づき、人を攻撃するようになります。食べ物をみると急に近づいてきたり、威嚇したりするサルもいます。餌やりだけでなく、人の食べ物や、食べている様子を見せることも厳禁です。
観察におススメの時期やスポット
ヤクシマザルは屋久島全体に広く分布し、通年観察が出来ます。特に3月から5月頃は出産シーズンで、仔ザルを抱えた母ザルを見かけることができます。
島の西側、西部林道やヤクスギランドへ至る道路上で群れによく遭遇しますので、レンタカーの場合は路肩に車を停め、車内から観察することをおすすめします。
秋から冬にかけて、サルたちは発情期となり、普段より神経質になっている事があります。大きな声を出したり群れに近づきすぎたりすると、サルたちを刺激してしまい、威嚇されることがありますので、特に注意しましょう。
さいごに
屋久島の西側にある西部林道と呼ばれる地域では、1970年代から野生のヤクシマザルの研究調査が続いています。
屋久島ではサルに餌付けをせずに人の存在に慣れさせることで、人が近づいても無視してくれる状態となり、自然のままに行動するサル達を間近で観察することができます。
これはとても貴重な環境で、世界各地から動物の研究者が訪れるほどです。
しかし、一度でもサルへ餌やりをしてしまうと、彼らの行動に変化が生じ、人を見ると急に近づいてきたり、人間を威嚇するようになります。
また、食べ物を介して人間の病気がサルに感染するおそれがあることや、人の食べ物自体がサル達にとって有害なこともあります。
サルに食べ物を与えるのはもちろんのこと、見せることも厳禁です。なお、国立公園では野生鳥獣への餌やりは法律違反になりますし、屋久島町の条例でも餌やりを禁止していますので、十分に注意して観察しましょう。
参考
・屋久島世界遺産センター(屋久島のエコツーリズム 西部地域におけるエコツーリズム)
【文・写真】
池田裕二(いけだ・ゆうじ)
環境省 屋久島自然保護官事務所 国立公園管理官(国立公園利用担当)。
屋久島自然保護官事務所
〒891-4311
鹿児島県熊毛郡屋久島町安房前岳2739-343 屋久島世界遺産センター内
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