本記事では、「ウサギ・モルモット・ハムスターの気をつけたい病気」を紹介していきます。そのなかでも特に、予防する術(すべ)がある病気を中心にお話しします。
ウサギ・モルモット
歯のトラブル(歯牙疾患)
ウサギ、モルモットなどの草食動物に共通してみられる病気の中には、歯の噛み合わせがわるくなってしまう、不正咬合と呼ばれる病態があります。ウサギやモルモットの切歯(前歯)と臼歯(奥歯)は常生歯と呼ばれ、半永久的に伸び続けていきますので、牧草を食べ、上下の歯同士をすり合わせることで常に削っています。
この噛み合わせがずれて、歯を削ることができなくなると、歯が変な方向に伸びて頬や舌に刺さり、食欲がなくなったり、痛みによるヨダレが出るなどの症状がでます。さらに、歯の根元にも影響が起こりはじめ、眼(涙がでる)や鼻(鼻炎)の問題、ヨダレによる顎の皮膚炎などがみられることもあります。
治療方法は、麻酔(場合により無麻酔)をして医療用ドリルで伸び過ぎた歯を削ることですが、一度伸びてしまった歯はもとに戻らないことも多く、定期的な歯の処置が必要になります。
予防法
原因として、遺伝(ウサギ:小型ドワーフ種やロップイヤー種 モルモット:サテン種)や外傷(ケージをかむ・ニッパーなどでの歯のトリミング)代謝の問題などがありますが、食事の問題で起こる場合もあります。
ペレットやおやつが多くなると、その分牧草を食べる量が減ってしまい、歯を擦り合わせる頻度が減り、不正咬合につながります。牧草をメインとして、ペレットは最低限にし、副食を与えすぎないことで、歯の健康を保つことができます。また、病院で健康診断と一緒に定期的な口腔内検査を行うことで、早期に異常を見つけることができます。
ウサギ
子宮の病気
ウサギのメスに好発する病気の一つです。ウサギは本来多産であり、発情期が長く、非発情期の方が短い動物です。発情期間中は、性ホルモンが分泌されます。交尾をしないと排卵をしないため、性ホルモンの分泌が持続している状態になってしまいます。性ホルモンが分泌しつづけることにより、子宮に負担をかけていき、早いと2歳から子宮の病気が発生します。子宮の病気になると、血尿、食欲不振など様々な症状が認められます。
根本治療は手術しかなく、子宮と卵巣を摘出することになります。
予防法
妊娠により性ホルモン分泌は抑えられるのですが、飼育下で絶えず繁殖していくことは難しく、出産の負担はその都度かかります。性的ストレスも大きな負担となるので、早期に卵巣子宮全摘出術(避妊手術)を行うことが病気の予防となります。
2歳を過ぎてからは、子宮に炎症や腫瘍などといった異常がでてくる可能性がありますので、それまでには手術を行うことが推奨されています(2歳を過ぎていても手術は可能です)。
予防的に行う避妊手術も全身麻酔による手術となってしまうので、心配される飼い主さんも多いのですが、年齢を重ねて子宮の病気になってから手術を行う場合の方が、リスクは増してしまいます。4~5歳を超えると、子宮に異常が出てくる可能性は増加し、特に5~6歳以上での腫瘍発生率は8割ともいわれていますので、それらを踏まえて手術を考えることが多くなります。
モルモット
ビタミンC欠乏症(壊血病)
モルモットは、ビタミンCを自分で作ることができないため、食事とともに与えていく必要があります。ビタミンCが不足してしまうと、コラーゲンなどの異常から、結膜炎や関節障害、出血がしやすくなることもあります。上記の不正咬合の原因になることもあります。活動性の低下、被毛の変化や食欲不振、歩行異常などが起こることもあります。初期の状態であれば、ビタミンCの投与で治療することが可能です。
予防法
ビタミンCが含まれたモルモット専用ペレットやサプリメント、野菜などをしっかり与えることが重要です。具体的に、モルモットは1日に体重1キログラムに対して10~25ミリグラムほどのビタミンCが必要とされます。良質な食事が確保できなかった昔に比べると、現在は様々な種類のペレットやサプリメントが販売されているため、ビタミンC欠乏症になってしまうことは少なくなりました。しかし、以下の3点に注意しないと、ビタミンCが不足することがありますので気をつけましょう。
- ビタミンCは高温多湿に弱いため、ペレットやサプリメントの保存には気を付けましょう(メーカー推奨の保存方法と開封期間を守る)。また、金属類にふれると劣化してしまうため、水にとかすタイプなどを使用する場合は、ボトルや皿の素材に注意しましょう。
- 妊娠中、授乳中、また他の病気に罹患している場合、1日のビタミンC要求量は増加します。闘病中の場合には、病気に対しての内服薬だけではなく、いつも以上のビタミンCの投与が必要となることがあります。
- 温度や湿度管理の不備をはじめとした、何らかのストレス環境にある場合でも、与えているビタミンCをうまく身体に取り込めないことがあります。
尿路結石症・膀胱炎
腎臓や尿管、膀胱、尿道など、排尿をする経路の中で結石(石)ができてしまう病態です。血尿や排尿時の痛み(鳴く、いきむなど)、それに伴う食欲不振などが起こりますが、特に尿道に結石がつまった場合、尿が出なくなってしまうことがあり、これは命に関わります。
原因は、遺伝的な問題や代謝、栄養の偏り、飲水量の不足など様々ですが、細菌に感染することによる膀胱炎などが原因となることがあります。特に、メスは肛門と尿道の距離が短いため、細菌に感染しやすく、膀胱炎が起こり易いともいわれています。
尿路結石症の治療は、外科的に結石を摘出することになります。小さな結石などは、自然排出されることもありますが、特にモルモットは痛みに弱く、結石の痛みだけでも衰弱していくため、結果として外科的摘出が選択されることも少なくありません。細菌感染性膀胱炎については、適切な抗菌薬の投与などにより治療をしていきます。
予防法
水分と食事による予防が推奨されています(近年の研究で、尿路結石と食事、水分の直接の関係性について否定された研究もありますが、同時に、日常のケアとしても重要なことですので、気を付けた方が良いでしょう)。モルモットで見られる結石は、カルシウムを基としたものが多いため、チモシーやオーツヘイを多く与え、カルシウム含有量の多い牧草(アルファルファ)やおやつなどを控えたり、カルシウムのもととなるようなビタミンD含有量が多い給餌は控える(ラビットフードなど)ことで、発生のリスクを低下させることができます。
また、飲水量の不足や運動不足も、結石の形成を助長する可能性があります。与え過ぎは良くないですが、高齢の子などで 飲水量が低下している場合は、低カルシウムの生野菜を与えるなども一つの選択肢になります。
また、モルモットは1日の排泄量がとても多い動物のため、尿路への感染(細菌感染性膀胱炎など)を防ぐためにはこまめな掃除が必要です。特に長毛種は、お尻周りの被毛が汚れやすいためケアが必要です。
ハムスター
下痢(軟便)
ハムスターの下痢は、便そのものに変化があるとわかりやすいのですが、便自体が乾いてしまったりすると発見が遅れてしまいます。もう一つの判断基準として、下痢があると、会陰部や尾の部分などが濡れて汚れている「ウェットテイル」と呼ばれる状態がみられることもあります。
原因は多岐にわたり、様々な細菌が関与する細菌性腸炎や、寄生虫の感染、不適切な食事によるものなどから起こる下痢が多くみられます。特に、若齢での下痢は命の危険がありますので注意が必要です。また、慢性的な下痢は直腸脱(腸がお尻から反転してでてきてしまう)や腸重積(お腹の中で腸がおりたたまってしまい、腸閉塞を起こす)の原因となります。
診断は糞便検査を行いますが、PCR(遺伝子検査)やX線撮影などが必要になることもあります。
治療は原因により様々ですが、犬や猫のような下痢止めを使用することは少ない傾向にあります。
予防法
寄生虫や腸内のみだれが無いかを確かめるために、お迎えをしたら早期に糞便検査を含む健康診断をお勧めします(糞便検査は一回で検出されないこともあるため、可能であれば複数回が推奨されます)。症状がない場合、すべての細菌感染を見抜くことは難しいのですが、細菌性腸炎は不適切な食事や、不衛生な環境といった環境ストレスが引き金となることが多いため、しっかりとした環境で飼育を行うことが大切になります。
食事については、基本的に野菜など水分量の多いものや、果物、ドライフルーツなど糖質が高いものを与え過ぎないことが推奨されます。
[参考文献]
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【文・写真】
村上彬祥(むらかみ・あきよし)
大相模動物クリニック 東埼玉犬猫エキゾチックアニマル総合診療科 院長。獣医師。日本大学生物資源科学部獣医学科出身。北里大学および中央動物専門学校非常勤講師。所属学会に、日本獣医エキゾチック動物学会、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会(技能講習試験修了獣医師)。その他、鳥類臨床研究会理事を務める。
【大相模動物クリニック/東埼玉犬猫エキゾチックアニマル総合診療科】
埼玉県越谷市レイクタウン1-33-3
HP:https://oosagamianimal.com/