フォトエッセイ:海外の牧場をめぐる風景【第4回】

海外の牧場をテーマにしたこの連載ですが、イギリスの観光牧場であるコッツウォルドファームパークの紹介は今回で最後となります。第4回目では、ウシやブタ、ウマ、ロバ、そして牧羊犬の写真をまとめて紹介しようと思います。

観光牧場のブタが抱える問題

ブタはそれほど多くは飼育されていないようですが、広々とした草地でのんびりと過ごす姿を見ることができます。タイミングが良ければ、母豚が子豚を連れている場合もあります。母豚の後を一生懸命ついて回る子豚たちは、なかなか見ることができない姿だと思います。

ただ、前回の鳥インフルエンザに引き続き少し深刻な話題になりますが、ブタに関しては「豚熱」という病気が大きな問題となっています。この影響で、日本の観光牧場ではブタを放牧展示することが難しい状況が続いています。豚熱は人には感染しないものの、人がウイルスを運んでしまう可能性があるからです。

特に海外旅行から帰国する際に、ハムやソーセージなどの畜産物を無許可で持ち込むことは法律違反であり、国内に病気を持ち込むリスクを高めます。免税店で購入したものであっても、日本に持ち込むには検査証明書が必要ですのでご注意ください。詳しくは農林水産省のウェブサイトをご確認ください。
https://www.maff.go.jp/aqs/topix/pdf/for_europe.pdf

コッツウォルドファームパークのウシたち

ホワイトパークキャトルはとても希少な品種で、このコッツウォルドファームパークの象徴となっている動物のようです。

また、レア・ブリード・サバイバル・トラストという希少家畜を保護・増殖する協会のトレードマークにもなっています。中世に貴族が公園で飼育したことからこの名前がついたとか……。

50年ほど前に60頭程度まで減ったようですが、現在では1,000頭近くまで増えています。

そして、もじゃもじゃの長い毛が特徴的なスコティッシュハイランドキャトル(ハイランドカウ)は、スコットランドを代表する家畜です。

首都エジンバラをはじめ、スコットランドのお土産物屋さんには必ずスコティッシュハイランドキャトルのグッズが売られています。高地で寒いスコットランドの気候にあわせて改良された品種で、寒さに特に強いウシです(ウシやヒツジは「反芻動物」といって、体の中で草を微生物に分解させてエネルギーにする動物なので、比較的寒さには強い動物ですが……)。

スコティッシュハイランドキャトルもとても特徴的で大好きなのですが、ベルテッドギャロウェイは最も私が好きな品種です。

通常のギャロウェイ種とは違い、腹部に白い帯状の模様が入っています。こちらもスコットランドの伝統的な肉牛で、スコティッシュハイランドキャトルを元にして作られた品種と言われています。

シープドッグショーで見られる動物たち

2024年の訪問時は、運良くボーダーコリーによるシープドッグショーが開催されていました。

ハンドラーの指示に従ってヒツジの群れを自由自在に移動させ、最後に中央に設置されたサークル場のペンに誘導していました。さらには、ヒツジの群れを2群に分ける作業も見事にこなしていました。ヒツジは一つの群れになる習性をもっているので、群れを分けることは非常に難しい作業なのですが、簡単そうにやってのけていました。

余談ですが、ハンドラーのファッションも注目ポイントです。なぜかイギリスの畜産関係者は、このタイプのフリースベストを着ている方が多く、私も街のアウトドアショップで1着買ってしまいました。

コッツウォルドファームパークでは、訪れるタイミングによって出会える動物や姿が変わってきます。成畜だけが見られるときもあれば、子畜と一緒の姿が見られるときもあります。動物が遠くにいてなかなか近寄ってきてくれない日もあれば、目の前まで来てくれる日もあります。こうした変化が魅力となり、何度でも訪れたくなる牧場です。皆様も是非イギリス旅行の際には、ロンドンから足を伸ばしてコッツウォルドファームパークを訪問してください!

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。