猫は暮らしを豊かにしてくれる存在ですが、人と猫という別のいきもの同士が共に暮らす中では、お互いに戸惑うことが出てきます。
飼い主を困らせる猫の問題行動もそのひとつです。困った行動に悩まされず、猫と楽しく生活していくために、飼い始めから気を付けておきたいことについてお伝えします。
人間にとっては困った行動でも、猫にとっては必要な行動かも!?
乗って欲しくないところに乗ることや、家具や壁紙での爪とぎ、トイレ以外の場所での排泄など、飼い主を困らせる猫の行動は様々です。これらは、人間にとっては困った行動でも、猫にとっては必要な行動である場合があります。
例えば、高いところに登りたがるのは、高いところは外敵に襲われにくい安心できる場所だからです。

猫が様々な場所で爪とぎをしたり、壁などにスプレー状に排尿したりするのは、自分のテリトリーが他の動物にわかるようにするためです。
飼い主としては、「家の中でそんなことしなくていいよ!」と言いたくなりますが、私たちの身近にいるイエネコは祖先であるリビアヤマネコの行動様式をほぼそのまま受け継いでいるため、自分の身を守ったり、テリトリーを管理したりと、生まれつきプログラムされた行動を真面目に行っているだけなのです。
猫のニーズを満たせる環境を整えよう!
自分の身に対する脅威や、テリトリーを侵害される恐れのない安心安全な環境であれば、猫はこのような行動をする必要がありません。
つまり、猫にとってストレスの少ない生活環境を整えておくことが、困った行動を予防することに最も大切です。
食事やトイレ、休んだり隠れたり、爪とぎなどができる場所は、いつでもアクセスできるよう十分な数を、人や同居動物に邪魔されることのない適切な場所に配置しましょう。

また、猫の嗅覚は人間よりずっと敏感なため、嗅覚に配慮した環境づくりも大切です。
尿や爪とぎによるマーキングや、顔や体を擦り付けるフェロモンによるマーキングを行い、これが他の動物に自分の存在を知らせる重要な嗅覚的コミュニケーションとなります。そのため、知らない動物の匂いや芳香のある洗剤の匂いなどは、猫に脅威を与えることがあり、様々な困った行動につながることがあります。

よくある困った行動
排泄関連の問題行動
トイレ以外の場所での排便排尿や尿マーキングなど、排泄関連の問題行動は、猫と暮らしにくくなる特に重大な困った行動のひとつとして、よく相談を受けます。
猫本来の排泄行動は、周囲をある程度見渡せる場所でゆっくり排泄し、土をかけた後にゆっくりと立ち去るスタイルです。室内のトイレも、覆いのない形で余裕をもって入れる大きく広いトイレを好みます。トイレ砂は、できるだけ細かい粒のものが良く、砂をかく動作に十分な量が必要です。

また、猫は既に汚れているところでは排泄をしたくないキレイ好きな動物です。一緒に暮らしている猫が1匹だけだとしてもトイレは複数置き、ひとつが汚れていても他のキレイなトイレを使用できるようにしておきましょう。もちろん、頻繁なお掃除も必要です。
咬みつきなどの攻撃行動
人に咬みつく、引っかくなどの攻撃行動もまた、重大な問題行動ですが、実は、子猫の頃からの「遊び方」によって、知らず知らずのうちに猫が攻撃することを学んでしまっている場合があります。
猫にとっての「遊び」は、獲物を捕らえる狩りの一環であり、人間が考えるような「遊び」とは異なります。飼い主さんが手でじゃれあって遊ばせたり、走って逃げて猫に追いかけさせたりしてしまうと、「人間を獲物に見立てて遊んでも良い」と教えていることになり、本気で咬みついたり、飛びついて爪を立てたりするようになる原因となってしまいます。最初は遊びの範疇で優しく甘噛みをする程度だったとしても、繰り返すうちに飼い主さんが大ケガするほどの咬み方に発展することもあります。噛み癖のある猫にさせないために、子猫の頃から毎日の遊びを工夫しましょう。
おもちゃを使って獲物に見立てて上手に動かすことで、子猫は夢中になり楽しく遊んでくれます。

ポイントは、コントロールしやすいおもちゃを選ぶことです。偶然に手を咬まれたりする可能性があるおもちゃでは、咬んだ時の人の反応が子猫にとって面白かったり、おもちゃを追いかけるより人の手などを追いかけるほうが楽しくなってしまうこともあり、結果として攻撃することを教えてしまう場合があります。

おわりに
人が問題行動だと思っているものは、猫にとっては必要なものの場合が少なくありません。
ここでお話したこと以外にも、猫の問題行動とその対策はあるので、一度調べてみてください。猫と幸せに暮らすためには、人目線で考えるのではなく、猫の目線に立って環境を整えてあげましょう。
【執筆者】
落合優実(おちあい・ゆみ)
獣医師。ぎふ動物行動クリニック副院長。2003年に岐阜大学獣医学科を卒業後、動物病院や動物愛護センター、動物園での勤務を経験。