はっけん!日本の爬虫類・両生類【第18回】ニホンアカガエル

Rana japonica (Boulenger, 1879)

筆者が暮らす滋賀県では、1月の終わり頃から冬でも水の張られた田んぼや湿地、水がほとんど流れていないような水路で拳大ほどのゼリー状の塊が見られます。これは何ですか? とよく質問を受けます。

しばらくたった卵と産まれたばかりの卵

これはニホンアカガエルというカエルの卵で、表面の泥をそっと払ってみると黒い粒々がたくさん見られます。県内ではニホンアカガエルが広く分布しており、同じ時期に山寄りに産卵するヤマアカガエルとすみ分けをしています。

ニホンアカガエルの背中模様

冬に目覚めるカエル

日本にはこのアカガエルの仲間が多く見られます。アカガエル科という分類があり、ここに近縁種がまとまっています。体色が赤茶色っぽいカエルは納得なのですが、緑色や灰色、黄色みや茶色みを帯びている種などもこの仲間に含まれます。
その中で一番「赤蛙」らしいものがアカガエル属というグループのカエルです。このグループ内のカエルはどれも非常に似通っており、もっともよく違いを質問されるカエルかもしれません。例えば、ニホンアカガエルやヤマアカガエル、タゴガエル、ナガレタゴガエルなどが代表的で、鳴き声が違ったり、卵を産む場所が異なります。

ニホンアカガエルは少し地味で、比較的身近にいるのに見つけにくい種の一つです。卵を産む場所は人がほとんど近寄らない冬の田んぼの周辺で、暖かくなり田んぼに水が入り始める頃には近くの森や林に移動しています。なかなか出会うことができないいきものですが、産卵期に入り、暖かい雨が降る前後に生息地に向かうのでそこを狙います。

このカエルの特徴は、とても小さな声で鳴くことです。カエルは鳴嚢(めいのう)と呼ばれる袋を大きく膨らませて鳴くのですが、このカエルは鳴嚢を持たないため、どの個体が鳴いているのか分かりにくいです。メスは鳴き声につられてやってきて産卵をしますが、警戒心が非常に強く、抱接しているペアを見つけても産卵の瞬間を見ることは至難の業です。

メスを待つニホンアカガエルのオス

19時に見かけたペアを見守り始めて、産卵の瞬間をカメラに収めたときには翌日の3時になっていたことがあります。その間じっと息を凝らし、ライトを消して月明かりで観察していました。産卵を撮影できた頃には、筆者の背中に雪が積もっていました。撮影できたことがうれしく、一人でガッツポーズをした記憶がありますが、今はそんな体力が残っていません……。

ニホンアカガエルの産卵

冬に目覚めて産卵した分、春眠をします。そして、他のカエルに遅れて春以降の生活に戻ります。卵から孵化した幼生たちは、田んぼを利用する春のカエルの産卵ラッシュ前に森に向かいます。うまく生息環境をすみ分けているいきものたちの素晴らしいドラマが、ずっと繰り返されているのです。

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。