Goniurosaurus toyamai (Grismer,Ota et Tanaka, 1994)
沖縄北部の運天港からフェリーで約80分で到着する伊平屋島は、沖縄諸島最北端に位置する周囲34キロメートルほどの細長い小さな島です。この小さな島にイヘヤトカゲモドキは暮らしています。沖縄県指定天然記念物で、環境省のレッドリストで絶滅危惧ⅠA類、種の保存法の国内希少野生動植物種にも指定されています。日本中を探しても、この島だけでしか見ることが出来ない超レアな生きものです。

トカゲではなくヤモリの仲間
イヘヤトカゲモドキは、大きさが20センチメートル以下で桃色のバンドが背中に3本、頸部に1本入る美しいヤモリの仲間です。名前に「トカゲ」とありますが、トカゲではありません。しかし、イヘヤトカゲモドキは一般的なヤモリのように壁を這ったり、天井に張り付いたり、垂直な木にも登りません。体は薄くなく、ずっしりとして重量感がありそうなので、ヤモリと言われても違和感があります。少し変わったヤモリですが、非常に原始的な生きものです。

この島に何度か観察のために訪れましたが、そう簡単には見つかりませんでした。道路を歩いていたり、民家の明かりに集まってくる生きものでもないため、夜行性の彼らが活動している夜の森をひたすら探すしかありません。また、この島には多数のハブが暮らしており、遭遇の確率が高いという不安要素もありました。1日森を歩くと十数匹のハブに遭遇することもありました。
研究者の方のアドバイスを受けながら何日も何日も森に入り、島に残る比較的湿潤な水場近くで見つけることができました。
明かりを当てると迷惑そうな顔つきで、すぐにゆっくりと移動を始めます。観察は最小限の明かりで行いましたが、思わず見惚れてシャッターを押し忘れてしまいそうになったほどです。少ないチャンスでしたが、写真にその勇姿を写し出すことができました。その後、すぐにねぐらであろう小さな岩の隙間に帰って行きました。

この小さな島の森の中で、これまで生き延びていたことに感銘を受けました。そしてこのような森を残していかないといけない、と改めて感じました。しかし、島を見渡すと工事中の場所が多く見られました。地元の方にとって必要不可欠なのでしょう。どうか、うまく共存できる道を見つけていただきたいものです。機会があれば、また出逢いに行きたいです。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
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