はっけん!日本の爬虫類・両生類【第20回】セトウチサンショウウオ

Hynobius setouchi (Matsui, Okawa, Tanabe et Misawa, 2019)

ここ数年、毎月観察を続けている生きものがいます。観察地の兵庫県神戸市で数を減らしているセトウチサンショウウオです。様々な人の力を借り、同じ場所で5年ほど一つの生きものを継続して観察できるというまたとない機会を得ることができました。そこでは、今まで私が知らなかった数多くの知見を発見することができました。

セトウチサンショウウオの正面顔

希少個体の産卵

この地域では、3月中旬頃から産卵場所となる池や湿地、小さな水路にセトウチサンショウウオの成体がやってきて産卵をします。最初にやってくるのはオスです。

セトウチサンショウウオのオス

オスは、気に入った場所に来るとしっぽを振ってメスがやってくるのを待ちます。お腹をパンパンにしてやってきたメスは、水に入ると苦しいのか、すぐに産卵しようとします。

オスに手助けをしてもらいながら、卵の先を枝などにくっ付けて産卵します。メスが産卵をすると、オスが卵を抱えて受精させます。産まれたばかりの卵は小指の先くらいの大きさですが、水を吸うと一気に膨れ上がります。卵は、コイルのようにくるっと巻かれた透明な袋に包まれていて、紫外線や汚れなどから卵を守っています。

セトウチサンショウウオの成体と卵

主に浅い湿地や水路、池の浅い場所が産卵に適した場所だと思っていましたが、池の水深1.5メートルほどの場所に産卵している個体を確認したことがあります。孵化した幼生が、水温が高くなる7月頃まで池のコイが泳ぐそばにいるのを目撃したこともあります。
マイクロチップを装着させて調べてみると、同じ個体が毎年同じ場所に産卵にやって来ていることも確認できました。

減少の原因と保全すべき命

このサンショウウオは、比較的温暖な瀬戸内地方一帯から京都府亀岡市まで広く分布しています。分布はとても広いのですが、そのすべての地域で減少が進んでいます。アライグマなどの外来種の影響や、帰巣本能に従って産卵期に戻ってきたら産卵場所がなくなっていたということも、減少の原因だと報告されています。

以前はカスミサンショウウオと呼ばれていましたが、分類が見直されました。本種の特徴は、尾の上下が黄色くならない点です。これは、近くに暮らす似た種と区別できる大きな特徴です。

10センチメートルほどの大きさの人目に付きにくい生きものが懸命に生きていること、それが長年命を繋いでいてくれていること、人間がそれを阻害していることを知ると、胸が痛みます。今後も観察を続けて、その魅力的な生態を少しでも多く紹介することで、保全活動などに繋げていきたいです。

池のほとりで休息をするセトウチサンショウウオ(写真左下)

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。