カエル界の永遠のアイドル
日本のカエルの人気ベスト3に「ニホンアマガエル」の名前があがるのは間違いないでしょう。とくに正面顔に人気が集中するようです。飛び出した目は、周囲をよく観察し、動く獲物を見極めて瞬時に反応することに適していたり、視覚から周辺の環境を観察し、敵から身を守るための体色変化を行う役割を担ったりしています。人を惹きつけるいちばんの要素は、愛嬌のある顔つき(顔全体のフォルム)でしょう。
身近な存在であり、知名度も高いニホンアマガエルですが、じつはあまりよく知られていない生態が多くあります。
ニホンアマガエルはずっと田んぼにいるの?
某生き物系テレビ番組でも紹介しましたが、「ニホンアマガエル=田んぼのカエル」というイメージが非常に強いため、1年中、田んぼにいるものだと筆者は考えていました。中干し*が終わる頃には、今年生まれたオタマジャクシが無事に子ガエルに変わり、田んぼ周辺で暮らし、そこで餌を大量に食べて大きくなり、数年かけて産卵に至るものだと。
*夏の暑い盛りに田んぼの水を抜いて、土にひびが入るまで乾かす作業。
もちろんそういう個体もいるのですが、中干しが終わるとニホンアマガエルを田んぼ周辺で見かけなくなることに気が付きませんか? 尻尾が取れて身軽になった子ガエルたちは、一斉に上陸し、まずは周辺の葉っぱの上や建物の壁にくっついて暑さをしのぎます。このとき、葦(あし)を体に密着させて乾燥から身を守ります(まるでお祈りをしているようなので、「祈りのポーズ」ともいわれています)。
そう、露出した部分を日光に長時間さらすことを避けるのです。まだまだニホンアマガエルを田んぼ周辺で見かけない日が続きます。いったいどこにいるのでしょうか?
夏の夜、自動販売機に飲み物を買いに行くと、たくさんのニホンアマガエルに出会うことがあります。コンビニエンスストアの明かりに集まっている姿を見かけることもあります。この行動は、おそらく餌となる昆虫などを効率よく捕食するための知恵だと思います。ただ、これは全体の一部ですよね、それ以外の個体はどこで暮らしているのでしょうか……。
私の先輩カメラマンが、樹幹を見わたせる眺めのいいトレイルを歩いていると、地上から15メートルほどの高さの木の上にニホンアマガエルがいることを見つけました。もしかしたら、避暑を兼ねて木の上にたくさん暮らしているのかもしれません。やはり謎です。
いつの間にか帰ってくるカエル
ただ、翌年の春になるとちゃっかり田んぼに戻り、「ゲッゲッ…」「クワックワッ…」と鳴き始めます。どんな過酷な暮らしを乗り越えて、再び田んぼに戻ってくるのか? もしくは遠くに行くと見せかけて、田んぼの泥の中でひっそりと暮らしているのかもしれません。
謎多き生きものの生態を少しでも解明するなんて冒険心をくすぐられます。フィールドに出ると、自分の知りたいことが、いつもたくさん出てきます。あまりにも身近すぎて知られていないことが意外と多いニホンアマガエル。より深く観察してみたいと思いませんか?
この連載では、日本に暮らす身近な、あるいはちょっと珍しい爬虫類と両生類のなかまの魅力や不思議を紹介していきます。楽しみにしてください。
【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生き物の生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(ニホンヤモリ、ニホンイシガメ、オオサンショウウオ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、イモリ、トカゲ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ!イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。最新刊『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 小型サンショウウオ』(緑書房)が9月29日に発売。
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