テレビアニメ作品『PUI PUI モルカー』の大ヒットの影響か、モルモットの人気が沸騰中です。では、モルモットとはどんな特徴をもっているのでしょうか。この記事では、モルモットを飼いたいと思っている人、あるいはすでに飼育している人にも知っておいてほしい「モルモット基礎知識」を前編・後編に分けてお伝えします。
実験動物としてのモルモット
モルモット(写真1)は南米のアンデスに棲息するテンジクネズミ(写真2)を家畜化したのが始まりです。その後はペットとしてというより、実験動物で有名になりました。
モルモット=実験動物というイメージは根強く、実際に様々な研究分野で活用されています。そのことから、人体実験における患者を「人間モルモット」と呼ぶことがありました。ただし、現在ではこのような呼称はあまり用いられていません。
実験で使用される理由として、モルモットは生産性が高く、解剖・生理や研究対象疾病が人の病態と類似するという特徴が挙げられます。生産性が高いとは、効率のよい繁殖力を意味します。妊娠期間はウサギの約2倍ですが、出生した子の成長はウサギより早く、生後数日で自ら餌を摂取し、約2カ月もすると成体になります。さらに、雌は1年に2~3回の分娩も可能で、1回で2~4頭産出します。モルモットはマウスやラットよりも身体が大きく、ウサギよりも小さいために、飼育が容易であることも重宝される理由の1つです。
最も有名な生理学的特徴は、人と同じくL-グロノラクトンオキシダーゼを欠くため、体内でビタミンCを合成できず、餌から摂取しなくてはならないことです(ちょっと専門的になりますが、「ビタミンC(アスコルビン酸)欠乏症」については後述します)。この特徴により、創傷治癒、骨リモデリング、アテローム性動脈硬化に関与するコラーゲン生合成(ビタミンCが関与)の研究に使用されています。
モルモットは一部の抗菌薬の投与により腸内細菌叢のバランスが崩れる点も人に類似します。モルモットの呼吸器系はアレルゲンに敏感であるため、喘息の研究に役立ち、他の哺乳類とくらべて、容易かつ強力にアナフィラキシー反応を示すことが知られています。さらに耳の構造も人に類似し、聴覚に関する多くの研究にも利用されています。また、皮膚が敏感で脆弱なことから、皮膚感受性によるアレルギー性皮膚反応検査、いわゆる化粧品関連の実験に適しています。感染症にも罹患しやすく、免疫系が人と類似するため、結核などの感染症の実験モデルにもなっています。これらの特徴からまさに実験動物に向いていることがよく分かります。
モルモットの意思表示(発声)
モルモットは群れの中で生活し、複雑な社会的相互作用をもつために、幅広いレパートリーの発声(鳴き声)と行動(ボディランゲージ)で意思を表現します。
モルモットは基本的に温和な性格で、飼い主や仲間に対してよく鳴いて意思表示します。また比較的聴力がよく、鳴き声は犬や猫ほど大きくないものの、種類が豊富です。その鳴き声の大きさやトーン、あるいは行動とともに、モルモットの意思を理解することができます。一般的には、甲高く長い声は機嫌がよく、低い声は警戒しているときに多く聞かれます。現在は以下のように分類され、解釈されています。
■幸福や快楽、要求のときの鳴き声
最も一般的なモルモットの鳴き声で、Wheeking(ウィーキング:喘ぎ声)と呼ばれています。「キュイーキュイー」「プーイプーイ」という甲高い声で、呼びかけのようです。
幸福や快楽、空腹で餌を要求するときや、ケージから出してほしいときなどにも発します。Weeping(ウイーピング:鳴き声)あるいはWhistling(ウィスリング:口笛)とも呼ばれています。
■満足で幸福を感じたときの鳴き声
猫が喉を鳴らすような音で、「ゴロゴロ」「グルルルル~」と低い声で鳴き、Rumbling(ランブリング:ゴロゴロと喉を鳴らす)と呼ばれています。満足と幸福を意味し、撫でられて気持ちがよいと感じたとき、また求愛時にも発します。Purring(ピュアリング)とも呼ばれています。
ただし、高音の鳴き声であった場合は、不快の兆候の可能性があります。
■リラックスの鳴き声
幸福を感じてリラックスしていると、つぶやくように小さな声で「チャッチャッ」「ピポピポ」と立て続けに鳴き、Chutting(チャティング:小さな声で立て続けに鳴く)と呼ばれています。Muttering(マッタリング)とも呼ばれ、理由は不明ですが、特定の個体だけが出します。
■不快や不安の鳴き声
鳴き声でなく、歯を噛み合わせたときに鳴る音で、Teeth chattering(ティースチャタリング:歯ぎしり)と呼ばれます。「カチカチ」「カリカリ」と低い音です。一般的に不快感や不安を意味し、近づかないでほしいという意思表示です。また、脅威や攻撃性も示し、喧嘩の際に聞かれます。Teeth clatter(ティースクラッター)、Clacking(クラッキング)とも呼ばれています。
■威嚇や恐怖の鳴き声
危険や警戒、恐怖を感じた際、「これは好きじゃない」という意思表示のため、Whining(ワイニング:泣き言)と呼ばれる「キュルキュル」「グルル~」「グルルル」と少し低めの音で鳴きます。抱っこされたときや、病気で疼痛を感じたときなどにも発します。また、「シュー」という猫の威嚇音に似ている鳴き声も、喧嘩や威嚇の意味で発します。
なお、警戒や興奮、恐怖、怒りが頂点に達すると、Squealing(スクイーリング:金切り声)やShrieking(シュリーキング:叫び声)と呼ばれる「キーキー」「キューキュー」ときしんだ甲高い声で鳴きます。また、病気での疼痛の意味でもあります。
非常に大きなきしむ音で、ウィーキングと似た鳴き声ですが、ボディーランゲージと行動で判断します。
■意味不明な鳴き声
モルモットが発する音の中で、解釈されていない鳴き声です。鳥のさえずりのように、高音で繰り返す歌のようで、Chirping(チアーピング:さえずり)と呼ばれています。
この声を発するモルモットは、何かに驚いてトランス状態にみえることもありますが、解明されておらず、多くの議論の対象になっています。
ビタミンC(アスコルビン酸)欠乏症
少し専門的になりますが、モルモットでは重要な話題であるため、ビタミンC欠乏症についてふれておきます。
モルモットの肝臓では、D-グルコースからビタミンC(アスコルビン酸)を合成するのに必要なL-グロノラクトンオキシダーゼという酵素を欠くため、食餌から補給する必要があります。妊娠期または胃腸のうっ滞、感染症などの消耗性疾患ではビタミンCを消費するため、必然的にビタミンC欠乏症を発症しやすくなり、特に幼体に好発します。
ビタミンCは、結合織の主成分であるコラーゲンの生成に関与しており、欠乏すると皮膚、骨、歯、血管などが脆弱になります。またコラーゲンの合成は、創傷の治癒を促進することで知られています。血管が脆弱になると、毛細血管の内皮細胞間の小孔が開大し、漏出性出血による出血傾向がみられ、病態としては出血と創傷の治癒不良がみられます。
臨床的には、関節出血、骨膜下出血、粘膜出血、皮下出血、筋肉内出血、歯肉出血などが典型的な症状としてみられます。関節出血は滑膜血管の損傷と骨の微細骨折によるもので、特に成長期の幼若個体では成長板が貧弱なこともあり、顕著に骨の障害を与えます。
具体的には、肋軟骨接合部の腫脹、長骨端変性による骨の変形などが起こります。また、腸粘膜における出血が起こると、腸炎が発生します。被毛のケラチンを構成するアミノ酸であるシスチンは、2つのアミノ酸(システイン)のジスルフィド結合により生成されていますが、ビタミンCはこの結合に影響し、欠乏すると脱毛と被毛粗剛を起こします。歯槽のコラーゲン形成に影響すると、歯の動揺がみられ、不正咬合を引き起こします。
ビタミンC欠乏症における全身症状は、虚弱、食欲不振、軟便や下痢、跛行、体重減少など、非特異的です。完全な欠乏(いわゆる飢餓状態)では、2週間以内にそれらの症状が現れます。
ビタミンCは、熱や湿気、金属類に曝されると急速に劣化します。モルモット用ペレットはビタミンCが含まれ、高温や高湿度、長期間の保存が劣化の原因となるため、約10度以下で保管し90日以内に消費しなければなりません。なお、近年は劣化しにくいビタミンCが開発されています。
ビタミンCの補給として、パセリ、ブロッコリー、ピーマンなどの野菜や、レモン、キウイフルーツなどの果物を副食として与えるのもよいでしょう。また、ビタミンCのサプリメントを飲水に添加したり、経口的に毎日投与する方法もあります。
ただし、水に添加したり、銅などの金属に接するとビタミンCは劣化するため、給水ボトルに入れて飲水させる場合は、金属製の容器の使用を避けます。プラスチックあるいはガラス製の容器であれば、24時間経過後でも約50%の有効率が残ります。
今回はここまでとし、次回の後編では、行動による意思表示(ボディーランゲージ)の数々を紹介します。
*本稿は『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)の一部を改変し、まとめたものです。
【執筆】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。
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