子犬の困った行動への対応法【第1回】
甘咬み

飼い主さんが子犬を連れて最初に動物病院を訪れるのは、多くの場合、ワクチン接種や健康診断ですが、このときすでに子犬特有の行動に困っていることが多いようです。自ら相談しない場合にも、筆者が「子犬のしつけで困っていることはありますか?」と聞くと、ほとんどの方が困っていることについて質問されます。犬が家族の一員となり、人との関係が密接になった分、犬に関する飼い主さんの悩みは増えているようです。

この連載では、子犬の飼い主さんから質問されることが多い、子犬特有の困った行動である「甘咬み」「トイレのしつけ」「いたずら(破壊行動)」「誤飲」「無駄吠え(過剰咆哮)」の原因とその対処法を解説していきます。その他の問題については、拙著『こころのワクチン』や『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』を参照してください。

相談として最も多い「甘咬み」

飼い主さんからの相談として最も多いのが、甘咬みです。子犬特有の甘咬みは、真の攻撃行動とは異なります。しかし、遊びで咬むこの時期に、人に歯を当ててはいけないことを学習すると、飼い主さんへの攻撃行動の予防にもなります。

子犬は本来、親兄弟とのふれあいの中で咬み加減を学習します。兄弟と咬み合いながら遊ぶ中で、仲間を傷つけるような咬み方をしてはいけないことを学ぶのです。親兄弟と過ごす時間が十分にあり、咬みつき抑制の基礎ができている場合は、甘咬みの程度は強くありません。また、引き取られた家に一緒に遊ぶ犬がいたり、飼い主さんがおもちゃを使って遊んだり、散歩などで十分にエネルギーを発散する機会を与えている場合には、甘咬みが問題となることはほとんどありません。

しかし、親兄弟から早期に引き離された場合や、子犬が1頭で飼育されている場合、留守番の時間が長くエネルギーの発散が十分できていない場合などは、甘咬みの問題が重症化する傾向があります。

咬みつき抑制は4~5カ月齢までに教えておかなければならないとされていますが、それはこのころより乳歯から永久歯となり、顎の筋肉も強靱となって、破壊力が増すからです。

【ポイント! 甘咬み対処】

◇手を使って遊ぶなど、子犬に咬む機会を与えない。

◇おもちゃを使って十分に遊ぶ時間をつくり、エネルギーを発散させる。

◇「カムアットレーニング」(後述)を行い、咬むといいことがなくなると教える(負の罰)。

◇日常生活の中でも子犬が咬んだら、「アッ!」と言って部屋から出ていく。

「甘咬み」への対処法

ここからは甘咬みへの効果的な対処方法を紹介します。いずれも家族全員が同じ方法で、根気よく繰り返し実施することが大切です。

■日頃から手足を使って遊んだり、人の手足を咬む機会を与えない

「子犬が手を咬むので困っている」と言いながら、子犬を膝に乗せ、無意識のうちに手を咬ませたり、顔の周りを手でさわって咬むチャンスを与えている飼い主さんは少なくありません。さらに、子犬の目の前で手を動かしてわざと誘ったり、興奮させるようなふれあいをしている飼い主さんも多くみられます。

特に男性や子供はこのような遊び方をしてしまいがちですが、子犬に咬む機会を与えれば、それだけ甘咬みの頻度を増やし、結果的に咬む行動が強化されます。

また、子犬がじゃれて手足に咬みついてきたときに、子供は「きゃー!」とかん高い声で騒いだり、子犬を振り払って走って逃げたりすることがあります。かん高い声や早い動きは獲物を連想させるため、子犬を興奮させ、より咬みやすくなります。

また、罰を与えるつもりで叩くと、痛みにより攻撃性が誘発されるため、遊びから始まった甘咬みが本格的な攻撃行動に発展する危険性があります。日常生活の中で子犬に咬む機会を与えているような行為があれば、まずそれらをすべて中止すべきです。

■おもちゃを使って子犬と遊ぶ十分な時間をつくる

子犬はとにかくエネルギーがありあまっています。押さえるだけではますますフラストレーションが蓄積するばかりです。ありあまったエネルギーを別のかたちで発散させれば、子犬が飼い主さんに咬みつく頻度を減らすことができます。

例えば、ひっぱりっこができるおもちゃで一緒に遊び、人の手足以外のものを噛むことを奨励します(写真1)。また、おもちゃを投げて「もってこい」をさせるなど、咬むこととは違った方法でエネルギー発散を図るのもよいでしょう。

さらに、子犬が独りで過ごすときにも、噛むおもちゃやガムを与えて退屈させないようにすれば、いたずら対策にもなります。

写真1:様々なおもちゃ

■子犬が咬みついたら、「あっ!」と言って咬みついた手や足を隠し、部屋から出ていく

いわゆる「無視」は子犬にうまく伝わらないことがあるため、理解しやすくするために部屋から出ていく(すなわち子犬の視界から消える)と効果的です。子犬が楽しい時間が中断されたと感じればよいので、部屋から出て行く時間は10~30秒程度で結構です。

これを繰り返し行うことで、子犬は「咬むこと」と「飼い主さんがいなくなること」を関連付けて学習します。家族全員が同様の対応をするようにしてください。

■犬同士で遊ぶ機会を与える

同じ年頃の子犬と遊ばせたり、遊び好きの成犬と遊ばせることは、人への甘咬みを減らし、咬み加減を学ばせることに有効です。同時に、犬同士のコミュニケーション方法を学ばせることもでき、社会化を図ることができます(写真2)。

写真2:犬同士の遊び

ただし初めての犬と遊ばせる場合には、相手を選ぶ必要があります。追いかけまわすタイプの犬と怖がりの犬を一緒にしてしまうと、トラウマをつくってしまうことがあるからです。また、犬のサイズが極端に違う場合には、たとえ悪気はなくても大きな犬の方が小さな犬を激しく押し倒して傷つけてしまう危険性もあるため、注意が必要です。

さらに、近づいてくる子犬に攻撃的に振るまう成犬もいるため、犬の性格や相性をみて相手を選んでください。犬同士で遊ばせるのには、犬の様子をみて適切に介入することができる専門知識のあるスタッフがいるパピークラスや犬の幼稚園が最適です。

■子犬がしっかり遊び、眠り始めた時間帯を見計らって、優しく撫でる時間をつくる

人との穏やかなふれあいを教育するために、子犬が横になり、うとうとし始めたタイミングで優しく撫でる時間をつくることが有効です。子犬は人に撫でられる気持ちよさを学び、スキンシップを楽しむようになります。

また、好物を使って「おすわり」、「ふせ」などのコマンドトレーニングを行ったり、トリック(芸)を教えたりすることも、飼い主さんとの適切な接し方のルールを教えるのに役立ちます。

■カムアットレーニング(子犬の甘咬み抑制トレーニング)

筆者の動物病院では、子犬の甘咬みが激しい場合、より効果的に子犬に咬むことに対する自制心を学ばせるために、以下のトレーニングを推奨しています。咬むと「あっ」と言って立ち去るトレーニングであることから、筆者が「カムアットレーニング」と名付けました。

十分にエネルギー発散の機会を与えた上で正しく行えば、数日以内に急速に咬む頻度が減少します。

<ステップ1:ひっぱりっこのおもちゃで子犬と楽しく遊ぶ>

ひっぱりっこで楽しく遊ぶと、咬む欲求を満たすことができ、同時に咬んだときに遊びが中断されることが効果的な罰(負の罰)となります。ひっぱりっこが十分好きになる前にステップ2に進むと、ひっぱりっこそのものをしなくなることがあるため、注意が必要です。

ひっぱりっこに乗ってこない子犬は、最初はルールにとらわれず楽しく遊ぶことを目標にするとよいでしょう。逆にひっぱりっこが大好きな子犬は、興奮しすぎる前に「ちょうだい」でひっぱりっこのおもちゃを放す練習をしておきます。

また、ひっぱりっこのおもちゃは、最初は手から距離をとることができる長いものを選ぶと、ルールを学ぶ前に咬まれることを予防できます。

<ステップ2:ひっぱりっこをしている最中に間違ってでも子犬が手に咬みついたら、「あっ」とはっきり言い、即座に遊びを中断して、おもちゃをもって子犬のいる部屋から出て行く>(写真3)

写真3:歯を当てたら遊びを中断し、おもちゃをもって出て行く

出て行く時間は10~30秒程度でOKです。ただし、これを何度も繰り返し行う必要があります。部屋から出ていく際に子犬が追いかけてきて足を咬むようであれば、安全な場所にリードをつないで行います。

ただし、リードをつないだまま放置すると、リードを噛み切ることがあるので、子犬を長い間独りにしてはいけません。

<ステップ3:ひっぱりっこや遊びの最中に子犬の身体に触れてみる>

ステップ1~2を十分に行うと、間もなく子犬は、人を咬まないように注意しながら遊ぶようになります。「子犬が咬むこと」と「楽しい遊びや飼い主さんがいなくなること」を関連付けできたら、ひっぱりっこ遊びの最中に頭を撫でたり、体に触れるなどして、わざと子犬が咬む状況をつくってみます。

この場合も子犬が咬みついてきたら「あっ」と言って即座に遊びを中断し、おもちゃを持って部屋から出て行きます。出て行く時間は10~30秒でよいですが、ときには入浴前や外出前など、子犬としばらく接することがないタイミングで行うことにより、子犬はより難しい状況でも咬むことを自制するようになります。

<ステップ4:日常生活の中でも、子犬が遊びで咬んだときには、同様の対処を行う>

カムアットレーニングをしっかり行いながら、日常生活の中でも子犬が遊びで咬んだときには、必ず「あっ」と言って即座に部屋から出て行くことを繰り返せば、甘咬みが自制できるようになります。

ただし、足ふきやリードの付け外しなど、子犬が嫌がることを無理にしようとして咬まれたときに立ち去ると、咬むことで嫌なことから逃れられることを学習します(負の強化)。そのため、嫌なことをされたときなどに、咬む頻度が増えてしまいます。

したがって、嫌なことは無理やりするのではなく、食べものを使うなどして、格闘にならないように行い、そもそも咬まれるような機会をつくらないことが重要です。

また、このトレーニングで使った「あっ」という言葉は、犬に罰を連想させる言葉(二次罰子)となり、今後、犬にしてほしくないことをやめさせるのに応用できます。

【カムアットレーニングの注意点】

◇言葉の通じない犬にルールを教えるためには、同じパターンで何度も繰り返す必要がある。飼い主さんが出て行った理由を、子犬が理解できるまで繰り返し行う。

◇カムアットレーニングはあくまで「飼い主さんを咬む=飼い主さんがどこかに行ってしまう」という関連付けのために行うものなので、日常生活の中でも咬んだときには必ず「あっ」と言って出て行くことが大切。そうすることで、カムアットレーニング以外の場面でも応用できるようになる。

◇飼い主さんが出て行った後におもちゃが残っていたり、遊んでくれる人がいると効果が出にくくなる。できるだけシンプルな部屋や廊下などで行う。飼い主さんがいなくなってもあまり気に留めないタイプの子犬は、自宅以外の安全な場所で、リードでつないで行うと効果的。

◇いったん子犬が咬まなくなっても、その後、引き続き十分なエネルギー発散の機会が与えられなかったり、たまたま咬んだときに同じように適切な対処ができなければ、再び咬むようになるため、家族全員で根気よく取り組む。

次回は「犬用トイレ以外での排泄」を解説します。

[参考文献]
・村田香織.こころのワクチン(Parade books).2011.パレード.
・村田香織.「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋.2022.青春出版社.
・村田香織.パピークラス&こねこ塾スタートBOOK.2019.インターズー.

【文・写真】
村田香織(むらた・かおり)
獣医師、博士(獣医学)、もみの木動物病院(神戸市)副院長。株式会社イン・クローバー代表取締役。日本獣医動物行動研究会 獣医行動診療科認定医。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」などで講師も務める。獣医学と動物行動学に基づいて、人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。主な著書に『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』(青春出版)、『こころのワクチン』(パレード)。