年齢で色が変わる不思議な鳥 ルリビタキのはなし

性的二型を示す鳥種は、生まれたときからずっと雌雄の見た目が違うのでしょうか

実はそんなことはありません。生まれてから繁殖できない幼いうちは、雌雄とも(ほぼ)同色で地味な見た目をしている種がほとんどです。繁殖ができない年齢(つまり、性的に成熟していない年齢)では、隠蔽色をしている傾向があります。これは捕食者などの外敵に見つからないようにし、生き残ることを重視しているのだろうと考えられています。

しかし性的二型は、ある時点で発現します。それは性的に成熟し、繁殖ができるようになる少し前のタイミングです。鳥は年に1~2回の換羽を行います。この際、地味な羽から派手な羽へと生え変わるのです。多くの種において雄が派手で雌が地味という性的二型が見られますが、換羽は雄だけでなく雌にも起こっています。雌は生え変わっても地味な姿のままという種が多いです。

そして性的二型を示す大半の種では、性的二型が発現すると、その後、雄はそのまま一生派手な姿のまま、雌は地味な姿のままです。一方、季節によって外見を大きく変える種もおり、カモ類はその代表格です。

カモの仲間の雄は、派手な羽色と地味な羽色を季節的に入れ替えています。繁殖のために、雌へ自身の姿をアピールし、雄同士が争うつがい形成の時期には、雄は派手な姿をしています(なおカモ類は冬の間に、つがい形成を行います)。しかし、それ以外の季節では、雌雄ともそっくりな目立たない地味な姿をしているのです。この地味な見た目はエクリプス羽と呼ばれています(写真1)。

写真1:カモ類のエクリプス羽の例。コガモ雌雄の群れ。秋に日本へ渡ってきたばかりの頃、コガモの雄はまだ派手な姿へ換羽しておらず、夏に北方の繁殖地で過ごした地味な姿のまま(この外見をエクリプス羽と呼ぶ)。冬鳥として越冬のために日本へ渡来後、換羽して派手な羽に生え変わり、雄は雌へ求愛行動を行う

世界的に見ても珍しい色変わりのルリビタキ

さらに違う珍しい色変わりをする鳥もいます。それがルリビタキです(写真2~4)。

春から夏にかけての繁殖期に、亜高山帯に生息しているこの鳥は、他の小型の鳥種と同じく、雄が派手で雌が地味な外見をしています(写真2、4)。雄は名前の通り、美しい瑠璃色(青色)です。これだけであれば、雄のみが派手という普通によくある性的二型に思えます。

しかし、ルリビタキならではの興味深い点があります。それは、雄が若い頃は雌そっくりな地味な外見で繁殖していることです(写真3)。雄の派手な外見には、一般的に雌へのアピールといった繁殖のための機能があり、それゆえに多くの鳥種は、繁殖可能な年齢に間に合わせて雄が鮮やかな羽を発現します。ルリビタキでは、それが間に合っていないのです。

雌にそっくりな地味な姿で性的に成熟して繁殖をし、翌年以後の繁殖(つまり高齢になってからの繁殖)では一転して、派手な青色に変わるのです。

写真2:ルリビタキの雌

写真3:繁殖年齢に達している若い雄。若い雄と雌(写真2)はほとんど見分けがつかない。若い雄は、雌にそっくりなこの姿のまま、繁殖期になわばりを形成して樹上でさえずり、雌とつがって子育てを行う。巣へ餌を運ぶ様子は、まるで雌が2羽で子を育てているよう

写真4:高齢な雄。ルリビタキの高齢な雄のつがいでは、雌雄の見分けは容易

このような年齢依存の発色発現の遅延をする小型の鳥種は、世界的に見てもかなり少なく、その代表例の1つがルリビタキなのです。このような現象は、遅延羽色成熟または羽衣成熟遅延(英名:Delayed Plumage Maturation、略称DPM)と呼ばれています。

なお、ルリビタキの青色は構造色による発色であり、雄同士の闘争の激しさと関連していると考えられます。

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【執筆】
森本 元(もりもと・げん)
公益財団法人 山階鳥類研究所 研究員/東邦大学 客員准教授 ほか。1975年新潟県生まれ。東邦大学大学院理学研究科修士課程を経て、2007年立教大学大学院理学研究科博士後期課程修了。博士(理学)。立教大学博士研究員、国立科学博物館支援研究員などを経て、2012 年に山階鳥類研究所へ着任し2015年より現職。専門分野は、生態学、行動生態学、鳥類学、羽毛学など。鳥類の色彩や羽毛構造の研究、山地性鳥類・都市鳥の生態研究、バイオミメティクス研究、鳥類の渡りに関する研究などを主なテーマとしている。 監修書に『知って楽しいカワセミの暮らし』『知って楽しいカモ学講座 カモ、ガン、ハクチョウのせかい』『ツバメのせかい』『ツバメのひみつ』、監訳書に『世界の渡り鳥大図鑑』『フクロウ大図鑑』(いずれも緑書房)。