動物救急で多い こんな来院理由【第2回】
中毒

「未発症のうちに対処する」ことが望ましい

筆者の勤務する救急動物病院で最も多い来院理由の1つが、「中毒」に関連したものです。救急動物病院で中毒と聞くと、激しく吐いたり、痙攣(けいれん)したり、ぐったりして意識朦朧という容態を連想される人も多いでしょう。

しかし実際には、ほとんどの犬や猫が無症状で来院します。これはどういうことかというと、中毒症状を起こす可能性のある食品や物質を摂取した犬や猫が、症状を発症しないうちに受診しているということなのです。

中毒治療の考え方の基本は「発症しないうちに対処する」ことに尽きます。もちろん、いざ発症してから来院する場合には、症状に合わせ懸命な治療を行いますが、中毒症状の治療には何日もの入院が必要になったり、ときには生死をさまよう事態に陥ることもあります。

だからこそ、発症する前に中毒性物質を可能な限り体から排除することが、中毒に対する最も有効な対処法となります。そのためには、「何を食べてはいけないか」という知識が、飼い主さんにはある程度必要なのです。

とはいえ、実際には食べて大丈夫なものなのか分からない場合もあるでしょう。もしも判断に迷ったら、とりあえず近所の動物病院に電話をしてみてください。どのように対処すべきかきっと教えてくれるはずです。

中毒への代表的な対処法

さて、中毒性物質を摂取してしまった場合には、どのような治療が行われるのでしょうか?
代表的な対処法としてまずあげられるのは催吐処置、つまり吐かせてしまうという方法です(写真1)。

写真1:殺鼠剤を吐かせたところ。殺鼠剤は血液が固まらなくなる中毒を起こすことで知られます

インターネットなどの情報では、ご自宅で食塩や過酸化水素水(いわゆるオキシドール)を飲ませるという方法が紹介されていることがありますが、筆者は原則的に推奨していません。

過酸化水素水は胃粘膜を強く傷害する可能性がありますし、食塩はそれ自体が深刻な中毒をもたらすおそれがあるのです。そのため、動物病院では主に薬剤を用いた催吐処置が行われます。ただし、嘔吐が起こる確率は、犬では90%あまり、猫では60%程度と考えられますので、決して万能な方法ではありませんし、仮に吐いたとしても中毒性物質を全て吐き出せられるわけでもありません。

催吐処置の他には、胃洗浄(写真2)、活性炭の内服が代表的な中毒性物質排除の方法です。中毒性物質の種類によっては、その効果を打ち消す、あるいは減弱する可能性のある薬剤を投与する場合もあります。内視鏡や胃切開手術によって中毒性物質の摘出を試みることもありますが、これらの方法が選択されることは多くありません。なお、胃洗浄は通常では麻酔が必要となる処置であり、麻酔のリスクと誤飲した中毒性物質の危険性とを比較し、胃洗浄が適切であるかを慎重に検討する必要があります。

写真2:多量のチョコレート摂取に対し胃洗浄を実施したところ

物質や動物種により異なる危険性

中毒が発症するタイミングは、摂取した中毒性物質によって大きく異なります。また、発症する確率も物質によっても違いますし、摂取量によっても変わってきます。

有機リン農薬は摂取後すぐに致命的な神経症状を発症すると考えられますし、タバコは摂取後30分程度で嘔吐や神経症状を発症する可能性があります。また、エチレングリコール中毒は発症するまで数時間以上を要しますが、少量摂取で急性腎障害を発症するおそれがあります。発症してからでは助からない可能性が高いため、急いで対処すべき、きわめて危険な物質です。

犬や猫で中枢神経興奮などの中毒を起こすことが知られるチョコレートについては、ホワイトチョコレートであればまず無害ですが、ビターチョコレートとなれば危険性がだいぶ高まります。

犬や猫で赤血球が破壊され、貧血を起こすことで知られるタマネギ(ネギやニンニクも)では、発症まで1~2日程度を要します。犬で急性腎障害を起こす可能性のあるブドウ中毒も、発症まで1~2日かかるとされます。

キシリトールは、摂取して数時間以内に犬に低血糖を起こす可能性があることで知られます。一方、キシリトール中毒のもう1つ代表的な病態である急性肝障害は、摂取してから半日~数日の時点で発症する可能性があるため、初期に低血糖を起こさなかったとしても安心はできません。

なお、ブドウやキシリトールが猫に中毒症状を起こすことは報告されていません。反対に、猫で急性腎障害を起こす可能性のあるユリ科植物は、犬に対しては明らかな危険性は知られておらず、動物種による違いにも留意する必要があります。

人薬の扱いにも要注意

人用医薬品の扱いにも注意が必要です。人薬を誤飲して動物病院を受診するケースはとても多いのです。たいていの動物は人よりも体重が軽く、小型犬が人と同じ量を飲んだとしたら、人の10倍量を飲んだと考えなければなりません。

また、そもそも動物種により安全な量は大きく異なります。少量であっても飲ませるべきではない薬も存在するのです。風邪薬などに含まれるアセトアミノフェンは、犬では肝障害、猫では重篤な貧血や呼吸困難を起こす可能性があります。特に猫での中毒量は、犬の1/10未満といわれており、たいへん注意が必要です。飼い主さんが風邪気味の猫にアセトアミノフェンを飲ませたという例に遭遇したこともありますが、アセトアミノフェンに限らず、自宅に置いてある人薬を何となく犬や猫に飲ませるべきではありません。

殺鼠剤、アルコール、青梅、マカダミアナッツ、生イカなどなど……。身近な中毒性物質や食品について、さらに詳しく解説したいのですが、膨大な分量になってしまいますので、ここですべてに言及することはできません。

中毒物質を摂取しうる環境にしない

最後にもう1つ。中毒治療の基本として「発症前に対処する方が良い」と冒頭に述べました。しかし、そもそも中毒性物質を摂取しないに越したことはないのです。飼育している犬や猫に拾い食いする癖があるのかを把握し、中毒性物質を摂取しうる環境をつくらないこともまた「中毒」に対する重要な対処法になるのです。

ご家族で今一度、身のまわりの中毒性物質に目を向け、誤飲事故を防ぐ工夫について、あらためて見直していただければと思います。

【執筆】
杉浦洋明(すぎうら・ひろあき)
獣医師、横浜動物救急診療センター  VECCS Yokohama院長。東京農工大学農学部獣医学科を卒業後、浜松市の動物病院、横浜市の夜間救急動物病院勤務を経て、2022年6月に年中無休・24時間対応のVECCS Yokohamaを開院。動物救急医療のスペシャリストとして、日々多くの犬・猫の診療にあたっている。所属学会に、日本獣医救急集中治療学会、日本獣医麻酔外科学会、日本獣医がん学会、Veterinary Emergency & Critical Care Society。