ドルフィンスイムのアイドル 「ジョー」
御蔵島のイルカたちは傷の位置やくちばしのシャクレ方から個体識別が進んでいます。
この子は「ジョー」。背びれが欠けているのが特徴で、船の上からイルカを探している最中でも識別できます。この子はとてもベテランというか、人間が好きというか、よく一緒に泳いでくれたり、たまに海藻を咥えて、人の前で海藻をわざと落として遊んでもらおうとするようです!
この時は、海藻などは咥えていませんでしたが、穏やかな表情で私の周りをぐるぐると泳ぎ回り、そのまま去っていきました。
イルカに囲まれて
御蔵島のミナミハンドウイルカは2頭や、多い場合は40頭程度の群れで行動しています。私も群れに混じってゆったり並走してみると、数10センチメートルの距離まで近寄らせてもらえました。この写真はイルカとイルカの間から若いイルカを撮影したものですが、私もイルカの仲間として認めてもらえた気がして少し誇らしくなりました。
撮影において最も大切なのは“生き物との距離感”です。撮りたい欲が先行し、いきなり距離を詰めるとイルカもびっくりして、嫌がったり、威嚇してくるので、まずは少し離れたところから泳いでみます。離れていったら無理には追いかけず、逆に少し近づいてくれたら、私も少しずつ距離を縮めます。カメラマンとしてイルカの世界にお邪魔させていただいていることを忘れずに撮影を続けていきたいですね。
天国と見紛う
海に潜って撮影していると、天国と見紛うような世界に出会うことがあります。差し込む太陽の光、私の周りを泳ぐ十数頭のイルカ。青く澄んだ海。スキンダイビングなので息もだんだん続かなくなってきて苦しい。それでも幸せでずっと眺めていたくなるほど心地良いのです。そんなイルカたちとの幸せな時間が忘れられずに、今も写真を撮り続けています。
ファンサ
私はイルカと泳ぐことを“推し活”と思っています。皆さんが好きなアーティストのライブやイベントに行くのと同じ感覚で海に潜っています。
この写真は私の隣を通り過ぎると思いきや、急にUターンしてくれた瞬間の写真です。イルカが通り過ぎていくのをじっとみながら、こっちに来てくれないかな? ってずっと思いながら観察していたら、想いが通じたのか、私の方をみながら近くまで来てくれました。
最高のファンサだ! こうやって推し活の沼に沈んでいくのですが、それはそれで幸せだからいいや。
群れで眠るイルカ
睡眠の邪魔をしないように少し離れたところに潜水。並んで気持ち良さそうに目を瞑るイルカが印象的でした。野生のイルカは脳を左右半分ずつ休ませながら、外的に襲われないよう泳ぎながら眠ります。水族館では底に着底して眠る子が多いので、そんな違いが観察できるのも魅力の1つです!
Your life
イルカの群れに混じりながら、先頭を泳ぐ2頭を撮影した1枚です。イルカも遊びたくない時は素っ気なく泳ぎ去るだけなのですが、それもそれで素晴らしいと感じます。素っ気ない時があるからこそ、遊んでくれた時の楽しさが倍増しますし、飴と鞭みたいに、私はドルフィンスイム中毒になっているのです。
RAISON D’ETRE
通常、親イルカは子どもを人間側に寄せないようにして泳ぎますが、私が脱力していたからか、気持ちよさそうに眠る子を近くでみせてくれました。子イルカの尾びれは常に親に触れていて、安心している様子でしたが、親イルカは緊張感のある鋭い目つきで私をみつめていました。
人間に何かされても、子を守れるよう常に警戒しているのでしょう。この表情から子を大切に思う気持ちが読み取れて、私の中でも特別な写真になりました。
少し写真の技術的な話になりますが、この写真はトップ光~逆光の条件で撮影しています。普通そのような条件であれば表情は暗く写りますが、この時は水中にマイクロバブルのような小さな白泡が漂っていました。その泡に光が当たって拡散し、レフ板のような機能を果たしたことで表情を明るく写しきることができました。
素敵な親子との出会いだけでなく、海のコンディションにも恵まれて撮影できた1枚。“この瞬間を撮るために生きていたんだ!”と思えるほど幸せな撮影でした。
余談
・御蔵島にあるポスト
御蔵島の郵便ポストはめちゃくちゃ可愛いのです。青色は2023年から新しくできた郵便ポストですが、側面の白波模様は御蔵島近海の荒れた海を表現しているのだとか。ポストの上に乗ったミナミハンドウイルカもめちゃくちゃ可愛いポイントです。
郵便局前には赤色のポストが設置されています。側面にはイルカのイラストが描かれていて、こちらもとても可愛い! 日が傾き出す夕方には、郵便局のガラスに反射して、1方面からポスト両側面のデザインが楽しめるので、その時間に行くことをおすすめします。
・ふくまる商店(お土産)
御蔵島のお土産を販売しているショップですが、ここのジェラートと水出しコーヒーが格段と美味。ジェラートの味は6種類あり、毎日ちょこちょこ入れ替わるので飽きがきません。訪れた際はぜひ味わってみてください。
日本で出会ったイルカとクジラ【第1回】御蔵島での野生イルカとの出会い その1 – いきもののわ (midori-ikimono.com)
【文・写真】
あき
1996年大阪府生まれ、東京都在住。水族館や水中、音楽ライブの撮影のほか、雑誌、Webメディアへの寄稿などを行う。2017年、水族館の生きものを綺麗に撮影したいと思い、写真を始める。2023年、国際フォトコンテスト8TH 35AWARDS「UNDERWATER PHOTOGRAPHY」で100Best photo選出、Top35 photographers選出。『幻想的な水族館の世界カレンダー2024』(緑書房)が2023年9月25日に発売。
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