子犬の困った行動への対応法【第2回】
犬用トイレ以外での排泄

前回は、子犬の困った行動として「甘咬み」への対応法を紹介しました。今回は、これも相談事として多い、排泄の問題を取り上げます。

排泄の失敗は子犬を飼い始めると最初にぶつかる困った行動ですが、犬の習性を理解して正しく対応すると1~2週間のうちに犬用トイレで排泄するようになります。さらに、その後も引き続き同様の対応をすることで確実性が高まります。

【ポイント! トイレトレーニング】

◇子犬の習性を理解して失敗しにくい環境設定をする。

◇子犬をよく観察して排泄しやすいタイミングを知る。

◇排泄しやすいタイミングで子犬をトイレに誘導し、排泄直後に報酬を与える。

適切な場所にトイレを置く

犬用トイレは、飼い主さんと子犬が普段もっとも長い時間を過ごす場所、例えばリビングなどに置きます。子犬がいつでもすぐにアプローチできる分かりやすい場所で、食べる場所と寝る場所から離れたところに設置します。

一般的には部屋の隅などの落ち着ける場所、もしくはドアや窓の近くなど外と通じる場所を好むことが多いでしょう。場所の好みは犬によって違うため、子犬が失敗する場所がトイレの設置場所と大きく異なる場合には、失敗する場所が子犬にとって受け入れやすい場所と考えて、そこにトイレを置きます。ブリーダー宅など、子犬がこれまでいた場所の様子が分かれば、それと似た環境にしたり、新しいトイレに排泄物のにおいを付けておくと子犬の理解を助けます。

犬は本来、自分が寝食する場所を汚さない習性をもちます。サークル内に食器もベッドもトイレもあるような状態で飼育している場合、サークルに閉じ込められているときには、仕方なくトイレで排泄しても、サークルから出ているときにはトイレに排泄しないことが多くなります。逆にサークルで長時間過ごすことで、寝たり食べたりする場所で排泄することに慣れてしまい、トイレで寝たり、自分の排泄物を平気で踏んでしまったりするようになる場合もあります。いずれにしても、子犬を狭いサークルやケージの中で長時間過ごさせると、トイレのしつけは困難となります。

眠る場所や食事をする場所とトイレはそれぞれ別にした方が、子犬は理解しやすくなります。この場合、眠る場所として使うのは屋根付きのもので、犬が入って横になれる程度の大きすぎないクレート(写真1左奥)が適しています。

写真1:食事をする場所やクレート(左奥)とトイレサークル(右)は別にする

犬は、このような狭く囲まれた場所では排泄を我慢する習性があるので、排泄をさせない場所として使います。このクレートの中には気持ちよく眠れるように、季節にあった敷物を敷き、安心して眠る場所として教えておくと、トイレのしつけだけでなく、自動車での移動やペットホテル、また災害時の同行避難などにも利用できます。

これとは別に、トイレとして用いるのは、屋根がなく広めのサークルが適しています。犬は開放的な空間で排泄することを好み、排泄前には必ずにおいを嗅いでうろうろしたり、くるくると回るため、広めのスペースが必要なのです。トイレサークルの中にはペットシーツを敷き詰めます(写真1右)。周囲が囲まれていることによって、子犬がトイレからはみ出したり、ちょっと目を離した瞬間にトイレ以外の場所で排泄してしまうことを防げます。

ただし、子犬を長い間トイレサークルに入れたままにしておくと、子犬は退屈してペットシーツを破いたり、トイレサークルに入れられることを嫌がるようになります。そうなると、自らトイレに入らなくなったり、サークルに入れたとたんに出ようとして、排泄どころではなくなってしまうため、子犬が嫌がる前に出すべきです(写真2)。

写真2:子犬がトイレにいることを嫌がるほど長い間閉じ込めてはいけない

子犬の行動範囲を制限する

子犬を狭いケージやサークルの中に長時間入れっぱなしにすることは勧められませんが、家中を自由に歩きまわらせると、当然失敗の頻度は増えます。そのため、子犬がトイレを覚えるまでは、自由にさせるのは最初にトイレを置くことに決めた部屋(たとえばリビング)だけに限定します。この部屋以外の場所に子犬を連れて行くのは、排泄した直後など、失敗する可能性がない時間帯とします。

家事などで目を離す時間帯は、クレートに入れるようにすると失敗を防ぐことができます。子犬がクレートに閉じ込められたと感じないように、しっかり遊んで眠くなる時間帯に入れ、中でガムや食べものを詰めたコングといった知育玩具などを噛ませ、そのまま眠ってしまうようにクレートトレーニングをするとよいでしょう。

子犬が起きたらクレートから出し、トイレサークルに誘導し、排泄したら褒めて好物を与え、部屋の中で自由にさせます。クレートに入れる時間があまりに長いと中で排泄してしまったり、クレートに入ることを嫌がるようになるので、最初は眠ったりガムを噛んだりしている間だけにすべきです。

トイレと間違いやすい吸収性の素材や床と異なる感触のものを子犬の行動範囲からなくす

犬はにおいや場所だけでなく、足の裏の感触によってもトイレを認識します。例えば、床に衣類やタオルなど、床と違う素材のものが置いてあると、そこで失敗しやすくなります。また、特に玄関マットやバスマットなどのように、吸水性のある素材でできたものが床にあると、失敗しやすくなります。これらの場所での失敗は習慣化しやすいので、子犬がきちんとトイレを覚えるまでは置かないようにしてください。

畳も吸水性があり、草のにおいがするため、失敗しやすい素材といえます。畳のある部屋はドアを閉めるか障害物を置くなどして、物理的に近づけないようにします。布製のソファやじゅうたんなども排泄しやすいので、トイレの場所をきちんと覚えるまで取り除くか、排泄しにくい素材(レジャーシートなど)でカバーします。

【子犬がトイレを失敗しやすい場所】
・床に置いたタオルや衣類、玄関マット/キッチンマット/バスマット、畳、じゅうたん、ソファ、布団

その他、子犬が失敗するどのような場所も「子犬に排泄してはいけないと教える」のではなく、「排泄することができない状況をつくる」ことによって、排泄の失敗を防ぎ、悪い習慣をつくらないようにします。

トイレのしつけがうまくいかないという場合は、犬用トイレの位置などを示した子犬の生活空間の見取り図を作成し、公益社団法人日本動物病院協会(JAHA)が認定している「こいぬこねこ教育アドバイザー」などの専門家に相談するのもよいでしょう。それにより、自宅での環境設定を専門家に確認してもらうことができます(図1)。

図1:見取り図

図1のように、見取り図には、子犬のケージや食器、トイレの位置などを示します。また、どこで排泄するかを記録し、専門家と一緒に問題点を探っていきます。例えば、トイレがケージに近すぎると、そこで排泄することを避けるようになるかもしれません。逆に、いつもいる部屋の外などにトイレを置くと,子犬がアプローチしにくいので、なかなか使ってくれません。不適切な例(a)では,トイレがケージや食器に近すぎました。この例では、失敗が多かった場所にトイレを設置し(b)、改善しました。

タイミングよくトイレに誘導し、成功したら褒めてご褒美を与える

子犬の排泄のタイミングで最も予測しやすいのが寝起きです。寝起きはトイレトレーニングのビッグチャンスなので、絶対に失敗しないようにします。朝はもちろん昼間や夜も、子犬が寝て起きたときには、必ずトイレに連れて行きます。

子犬は月齢プラス1時間程度の時間(2カ月齢であれば3時間)、排泄を我慢できるとされますが、眠っている時間帯はより長く、興奮時にはさらに頻繁に排泄します。トイレに入れると子犬はにおいを嗅いでウロウロするので、排泄のタイミングが分かるようになれば、優しく「ピーピー」などと決まった言葉をかけて排泄を促します。

子犬が排泄し始めたら「おりこう」と優しく褒め、排泄し終わると同時に口元にご褒美を差し出します。ご褒美ほしさに排泄しながらトイレから出てくることを防ぐために、ご褒美はトイレの中で与えます。子犬がトイレで排泄するとご褒美がもらえることを学習するまでは、ご褒美を与えるタイミングは非常に重要です。排泄し終わってサークルに飛びついたり、部屋の中をウロウロし始めてから与えても、子犬はトイレで排泄したことに対する報酬であることを理解しにくくなります。

ご褒美はトイレのそばの子犬に届かない場所にあらかじめ置き、すぐに与えられるようにしておきます(写真3)。

写真3:ご褒美は排泄直後に与えられるよう、トイレのそばで犬の届かない場所(矢印)に置く

また、寝起き以外も、食後、水を飲んだ後、遊んだ後などは排泄しやすいので、必ずトイレに誘導します。2~3カ月齢の子犬であれば1~2時間ごとにトイレに誘導するとよいでしょう。排泄のタイミングには個体差がありますが、子犬をよく観察していると分かるようになるはずです。

排泄しそうでしないときに目を離すと必ず失敗します。このようなときは、トイレの近くでおもちゃで遊ぶなどして身体をしっかり動かしながら、子犬を観察します。子犬が夢中で遊んでいたのに、急におもちゃから離れて隅の方向に行こうとしたら、すぐにトイレに誘導するとよいでしょう。また、散歩や外出先で排泄を我慢する傾向がある子犬は、外出から帰ったら家で自由にする前に必ずトイレに誘導します。

トイレへの誘導の際、最初は抱いてペットシーツの上に乗せてもよいですが、ペットシーツで排泄することを覚えたら、次はトイレに行くという行動のトレーニングが必要になります。ペットシーツのすぐそばまで連れて行き、自分でペットシーツに向かわせるようにします。少しずつトイレから離れた場所からもトイレに自分で歩いて行くように誘導し、どこにいても排泄したくなったら自発的にトイレに行くように覚えさせます。

子犬をトイレに誘導するタイミングが分からないという場合は、子犬の排泄のタイミングや排泄場所を1週間程度記録してください。よく観察することで排泄のタイミングが分かるようになり、多くの場合、失敗が減ってきます。

【排泄のタイミングの記録例】
・6:00/オシッコ成功/起きてクレートから出す
・7:00/オシッコ失敗(ソファ横)/散歩から戻った直後
・9:00/ウンチ失敗(テーブル下)/食後10 分
・12:00/オシッコ成功/遊んだ後

間違った場所で排泄してしまった際の対処

トイレ以外で子犬が排泄してしまったときの対処として、かつていわれていたように、「その場所に鼻を付け、においを嗅がせて叱る」という方法は適切ではありません。なぜなら、「トイレ以外の場所で排泄したから叱られた」と理解できる子犬はほとんどいないからです。

むしろ、「排泄することそのものを叱られた」と多くの子犬が勘違いし、飼い主さんの目の届かないところで排泄するようになります。つまり、正しいトイレの場所に連れて行って排泄を促しても、叱られることを恐れて排泄を我慢するようになり、効果的な正の強化による排泄トレーニングを行うことができなくなります。

子犬が間違った場所で排泄してしまったら、それは子犬の失敗ではなく、飼い主さんのミスと考えるべきです。十分に観察していなかったか、トイレに連れて行くタイミングを外したことを反省しながら、子犬には何も言わずに後片付けをしてください。

トイレのしつけのしやすさは個体差があるものの、健康な子犬であれば、正しい方法で根気よく教えることで必ずできるようになります。犬は人の感情に敏感な動物です。そのため排泄の失敗に神経質になりすぎると、子犬にもそれが伝わり、トレーニングが複雑になる場合があります。さらに、子犬を直接叱らなくても、飼い主さんがイライラした様子をみせるだけで、目の前で排泄することを避けるようになることもあります。特に叱責や体罰は子犬にとって大きなストレスとなり、性格形成にも影響します。

子犬に最初に教えるべきことは、新しい家が自分にとって安心できる場所であること、そして飼い主さんが優しい母親のような存在であるということです。まずは、子犬と信頼関係を築くことを第一に、おおらかな気持ちで取り組んでください。

次回の第3回は「いたずら(破壊行動)」を取り上げます。

子犬の困った行動への対応法【第1回】甘咬み – いきもののわ (midori-ikimono.com)

[参考文献]
・Sümegi Z, Oláh K, Topál J. Emotional contagion in dogs as measured by change in cognitive task performance. Appl Anim Behav Sci. 2014;160:106-115.
・Katayama M, Kubo T, Yamakawa T, et al. Emotional contagion from humans to dogs is facilitated by duration of ownership. Front Psychol. 2019;10:1678.

【執筆】
村田香織(むらた・かおり)
獣医師、博士(獣医学)、もみの木動物病院(神戸市)副院長。株式会社イン・クローバー代表取締役。日本獣医動物行動研究会 獣医行動診療科認定医。日本動物病院協会(JAHA)の「こいぬこねこの教育アドバイザー養成講座」などで講師も務める。獣医学と動物行動学に基づいて、人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。主な著書に『「困った行動」がなくなる犬のこころの処方箋』(青春出版)、『こころのワクチン』(パレード)。