ペット用サプリメントのトリセツ【第2回】
サプリメントを投与しているのになぜ効かないのか

犬や猫に人の加工食品を与えていませんか?

最初に大原則として、犬や猫に人の食品を与えることはやめましょう。ときに中毒だけではなく、ミネラルの過剰摂取などで体調を崩す原因にもなることがあるからです。したがって、犬や猫にサプリメントを与える前に守るべきこととして、まずは人の食品を与えている場合はその給与をやめてください。

人でも、サプリメントを摂取する前には、問題が起こりうる食品の摂取を避けることが提言されています。そこで、最初に犬や猫にも参考となる人で問題となっている食品の情報、そしてそれを理解した上での犬や猫での留意点について解説します。まずは、こういった食品を与えていないかどうかを確認してください。

■おやつなどに含まれる糖質(小麦)

【人】
過剰に糖質を摂取すると、余分な糖が体内でタンパク質と結びつき、そのタンパク質が変性してAGEs(糖化最終生成物)と呼ばれる老化物質をつくります。AGEsは内臓や骨、髪の毛に蓄積し、全身の老化を促します。また、糖質の過剰摂取により血糖値の乱高下を繰り返すと、副腎にも大きな負担がかかることがあります(ただし、制限しすぎると副腎の疲弊を招き、ビタミンB1、ビタミンCが不足することがあります)。

また近年、主な糖質源である小麦には、遺伝子組み換えの影響でグリアジン(グルテンに含まれる)というタンパク質が増えています。このグリアジンには小腸の壁の結合組織を壊す作用があり、小麦アレルギーを促す一因となることがあります。また、グルテンは未消化のまま吸収されると、脳に対してモルヒネのような中毒性作用を示します。小麦製品には、アミロペクチンAという糖質が含まれるため、血糖値を上昇させ、大量のインスリンを出させるなどの影響のあることも知られています。

【犬・猫】
人と同様、犬や猫も小麦製品のおやつなどの取りすぎには注意が必要です。また、ピザ生地やフォカッチャ(パンの一種)生地などが腐った場合は、ときに発酵してアルコールを合成することがあるため、犬にとって中毒となることがあります。人用の甘いお菓子に含まれる「ショ糖」は、人では虫歯の原因になります。犬の虫歯はほとんどありませんが、与えすぎは避けるべきです。

■牛乳

【人】
牛乳に含まれるタンパク質には、カゼインと乳清タンパク質(ホエイ)があります。カゼインとは、カルシウムを大量に含んだタンパク質です。乳清タンパク質とは、ヨーグルトなどにみられる透明の上澄み成分で、ラクトグロブリン、ラクトアルブミン、ラクトフェリン、カルシウム、マグネシウムなどが含まれ、低カロリー・低脂肪かつタンパク質吸収率の高い成分です。

母乳と牛乳におけるカゼインと乳清タンパク質の比率は、母乳=4:6、牛乳=8:2です。つまり、牛乳は母乳にくらべ、カゼインがとても多く含まれています。

カゼインの特徴としては、消化されにくく、未消化のまま入ると、ときに腸を傷つけ、炎症を起こすことがあげられます。また、カゼインは、グルテンのように未消化のまま吸収されると、モルヒネ様の作用による中毒性があることも知られています。

カゼインはカルシウムと結合して、カルシウムの吸収を促し、体内でカルシウムを運搬します。また、カルシウムはマグネシウムと2~1:1の比率がよいとされています。牛乳のマグネシウム含有量は少ないため、カルシウムばかり吸収されるとバランスが悪くなり、弊害が出ることがあります。

【犬・猫】
犬や猫も、カゼインとカルシウム、カルシウムとマグネシウムのバランスに注意が必要です。また、子犬が母犬から離乳すると、牛乳に含まれる「乳糖」(ラクトース)を分解する酵素「ラクターゼ」の活性が(個体差はあるものの)急激に低下し、下痢を発現することがあります。さらに、牛乳やヨーグルトにより、脂質の取りすぎによる下痢が発現することもあります。

■加工食品(保存料)

【人】
加工食品には保存料が含まれますが、その合成添加物により腸内環境が破壊されます。食品を酸性にして雑菌の増殖を抑えるためのリン酸塩(pH調整剤)が汎用されており、ウインナーソーセージ、ハム、かまぼこ、缶詰、カップ麺などに多く含まれています。pH調整剤はカルシウムやマグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラルの吸収を阻害し、それらの欠乏症の原因となります。

【犬・猫】
犬や猫においても同様の理由で与えるべきではありません。

■トランス脂肪酸

【人】
油(脂質)には「細胞膜を形成する」「肌や髪を健康に保つ」「脳や神経の機能を保持する」「ホルモンの材料となる」「脂溶性ビタミンの吸収を促進する」などの役割があり、必要不可欠な栄養素です。ただし、油といってもいろいろあります。種類は主成分である脂肪酸の構造で決まり、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分かれます。

不飽和脂肪酸のうち、構造中にトランス型の二重結合を持つトランス脂肪酸が近年、問題視されています。トランス脂肪酸には、LDL(悪玉)コレステロールを増加させ、さらに不飽和脂肪酸のなかの必須脂肪酸であるα-リノレン酸がDHAやEPAに変換されるのを阻害する働きがあるといわれています。トランス脂肪酸の摂取により、心血管疾患など生活習慣病のリスクが高まることから、世界保健機関(WHO)はその摂取量の低減目標を掲げ、各国や食品事業者に対し、使用を根絶するよう呼びかけています。ただし、天然由来のトランス脂肪酸は、牛、羊、山羊などの反芻動物の胃の中でバクテリアの働きによって生成され、乳、乳製品や反芻動物の肉などにもわずかに含まれていることが知られていますが、天然由来のものは健康上の問題を起こさないといわれています。

私たちがトランス脂肪酸を多量に摂取する可能性がある一般的な食品としては、パン、ケーキ、ドーナツ、クッキー、スナック菓子、生クリーム、フライドポテト、ナゲットなどがあげられます。

【犬・猫】
トランス脂肪酸は、上述のように身近な食品に含まれます。このような人用食品を食べている犬や猫は、人以上に心血管疾患のリスク(膵炎、胆のう、肝臓への負担もあり)が高まるおそれがあるため、与えるべきではありません。

サプリメントが効かない理由はたくさんある

サプリメントが効かない理由はたくさんありますので、1つずつ確認していきましょう。

■必要なサプリメントではない

期待する効能の認識にずれがあるのかもしれません(第1回参照)。

■効能の特性を理解せず、短期間での答えを求めている

すぐに反応を得たい場合は、薬に頼るしかありません。サプリメントは薬のような即効性はないので、待てる状態であるなら気長に効果の発現を待たなければなりません。

■投与量や投与期間が守られていない

栄養素の投与量と得られる効果には深い関係があります。例えば、規定より少ない投与量で与えていたり、規定量で与えたとしても「与えたり/与えなかったり」を繰り替えしていては、効果は得られません。サプリメントに期待することは、「ある一定量以上摂取することで細胞の栄養濃度が正常化し、病態が改善する(ドーズレスポンス:容量依存性に治療効果があらわれる)」ことです。指示された投与量と投与期間を必ず守るようにしてください。

なお、総合栄養食を食べている犬や猫ではあまり与える必要はありませんが、水溶性ビタミンを飲む場合は、少量ずつ回数を分けて摂取します(すぐに尿中に排出されるため)。

■与えるタイミングが守られていない(消化・吸収が考慮されていない)

消化・吸収を考慮すると、食事と一緒にサプリメントを摂取することが基本となります。ただし、製品によっては空腹時に摂取することが推奨されていることもあります。製品に記載されている用法をよく読み、そのとおり与えるようにしてください。

■摂取するタイミング(人)の参考

サプリメント投与の適切なタイミングについて、犬や猫ではまとまった報告はありませんが、参考として人での推奨を以下にまとめます。

【食事と一緒】
ビタミンAやEなど脂溶性ビタミンは、油と一緒のほうが吸収が促進されます(ただし油の過剰摂取は禁忌)。一方、水溶性ビタミンのビタミンBやCは汗や尿としてすぐに出てしまうので、まとめて飲むよりも少しずつ飲むほうが有効です。
※犬・猫はビタミンCを体内で合成できるので不要。

【空腹時】
抗酸化物質のαリポ酸は反応がよすぎるため、食事と一緒に摂取するとそのミネラル分などに反応して作用が阻害されるため空腹時が推奨されます。アルカリ性のカルシウムやマグネシウムは、胃酸を中和する(胃液を弱める)ため、食事と一緒に摂取することは推奨されません(空腹時がよい)。

【食後】
アミノ酸は小腸や肝臓で大量に必要とされるため、胃から食渣の出る食後2~3時間後が好機となります。
※犬・猫も食渣の胃通過時間は数時間。

■効果を阻害する要因を排除できていない

人では、サプリメントの効果を阻害する要因として、「有害ミネラルの蓄積」「保存料や不適切な抗菌薬の使用による腸内環境の悪化」「加齢による消化機能の低下」「過度なストレスにより副腎が疲弊し、ビタミンCが枯渇する」などが知られています。

犬や猫では、有害ミネラルはほとんどありません。また、ビタミンCは体内で合成できるため、理論的には枯渇しないといわれています(人と同様、過度なストレスによって低下することはあるかもしれません)。もし、有害ミネラルの蓄積あるいは不足が気になれば、被毛からミネラルや重金属蓄積などを調べる「毛髪ミネラル検査」(第1回参照)を試してもよいかもしれません。

腸内環境の改善については、犬や猫でも腸内細菌叢を良好に保つためにプレバイオティクスやプロバイオティクスサプリメントが使われています。プレバイオティクスとは、オリゴ糖などの少糖類(主に二糖類)です。消化酵素では分解できない成分のため、胃や小腸で分解・吸収されずに大腸に届き、大腸内の微生物の餌になります。プロバイオティクスとは生きたまま腸まで届く乳酸菌などです。

プレバイオティクスやプロバイオティクスサプリメントを使うと、有機酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸など)が合成されます。それにより、ミネラルなど栄養素の吸収がよくなり、全身の状態が改善します。有機酸は短鎖脂肪酸で、その大部分は腸内フローラで作り出されます。短鎖脂肪酸の大部分が大腸で吸収された後、エネルギー源となったり、悪玉菌の増殖を抑え、腸内細菌叢の状態を改善します。犬や猫においても、オリゴ糖などのプレバイオティクス、酪酸菌・ビフィズス菌・乳酸菌類などのプロバイオティクスの効果が知られています。

もちろん、慢性炎症などの体調不良、あるいはアレルギーなどがある場合は、サプリメントを与える前にその治療を優先するべきです。

■品質に問題がある

人用サプリメントの品質管理について、アメリカでは世界基準のGMP(Good Manufacturing Practice:適正製造規範)に則って製造することが義務づけられています。一方、日本は任意です。

品質には、「与え方(量やタイミング、他の素材や薬品の飲み合わせなどで有効性が変わる)」、「利用者の状態(年齢、体格、遺伝的素因、消化・吸収能力、職業、食環境、喫煙や飲酒の習慣、運動習慣など)」、「製品の品質」の3要素が関係します。

品質の内容としては、含有量、吸収率、一緒に加えられた成分との相乗作用などを考えます。例えば、良い点としてはカルシウムとマグネシウムの吸収率を上げるために、ビタミンDを追加することにより吸収が促進されます。また、n-3系脂肪酸(オメガ3)などは酸化しやすいため、製造過程で低温搾油や遮光処理、冷蔵保存などが考慮されているか、あるいは製造後の経過時間にも注目するとよいでしょう。

■保存法が適切でない/保存期間内の投与ではない

サプリメントは、開封したら1カ月で飲み切ることを鮮度の目安にしましょう。長くても2カ月までです。特に抗酸化目的のサプリメントは酸化しやすいため、注意が必要です。また、水溶性ビタミンは、熱耐性が低いものが多いため、真夏などに高温または直射日光下で保存すると効果が消失することがあります。さらに、ビタミンの消失率はビタミンメーカーの安定化技術の優劣で異なります。

■個体差が関係している

さまざまな酵素(生体内で起こる化学反応に対するつなぎ役)の働きはDNAに影響されます。個々で大きな差があり、サプリメントの有効成分を取り込む代謝回路が極端に弱い人もいます。これがいわゆる個体差です。犬や猫においては、動物種差だけでなく品種による違いも大きいため、個体差をさらに考慮する必要があります。

犬・猫の個体差とは、性別(不妊・去勢手術の有無)、年齢、体重(ボディ・コンディション・スコア:BCS)、ストレス状態、食生活を含めた生活習慣、一時的な栄養素の需要増大なども因子となります(需要増大因子*)。

*需要増大因子…人では、先天的に酵素の働きが弱い人、運動量の多い人、大きなストレスにさらされる仕事をしている人、有害ミネラルや化学物質が体内に蓄積している人は、一般より多くのビタミンやミネラルを摂取する必要がある。つまり、使役犬や狩猟犬のようなストレスや活動量が大きい犬は、愛玩犬よりもビタミンやミネラルを多く摂取することを検討する必要がある。

■薬物動態学的相互作用と薬物力学的相互作用

サプリメントの規定量を守っているのに効果が得られない、あるいは効きすぎる際の理由(機序)として、少し難しい用語ですが「薬物動態学的相互作用」と「薬物力学的相互作用」が考えられます。

「薬物動態学的相互作用」とは、薬の吸収、分布、代謝、排泄が他の薬物により影響を受け、血中濃度が変動することによって過剰な効果の発現や効果の減弱(吸収障害**)が起こる作用のことです。簡単に説明すると、全く関係のない薬剤の影響でサプリメントの効果が強弱することです。

「薬物力学的相互作用」は、同じか逆の作用をもつ薬や食品の併用により、効果の増減が起こる作用です。例えば、薬物代謝酵素を増やす成分を摂取すると、薬の分解が早まり、代謝促進(解毒作用)***で効果を減弱してしまうことがあります。簡単に説明すると、サプリメントと同じ作用か、逆の作用のある薬剤や食品の影響で、サプリメントの効果が強弱することです。

どういったときにこれらの作用を受けるかはケースバイケースですが、ひとまずの対処法としては、薬とサプリメントの投薬間隔を2~4時間空ければ、ある程度は避けられるといわれています。犬や猫でも、薬がサプリメントの効果に影響する可能性を基礎知識として押さえておきましょう。

**吸収阻害…吸収とは生態膜を通過して体内に入っていくこと。吸収にあたってはトランスポーター(運び屋)の存在があり、栄養素だけでなく、薬物の吸収や排泄にも関与する。薬物とサプリメントを同時に摂取すると、吸収時にトランスポーターの取り合いになり、吸収が阻害される。

***代謝促進(解毒機構)…医薬品も体にとっては異物なので、体内で代謝され、その作用を失くしていく。この薬物を代謝する酵素として代表的なものがチトクロームP450(CYP)で、主に肝臓にあり、薬の代謝に関わっている。これが誤って医薬品などの代謝を促進し、医薬品の効果が減弱してしまうことがある。

今回はここまでとします。次回は「ペットサプリメントの良し悪しの見分け方」を解説します。

【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学教授、大相模動物クリニック名誉院長。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。