“永遠のアイドル”チンチラの基礎知識【後編】チンチラの意思表示

チンチラの意思表示(発声と行動)

チンチラは内向的な性格でありながら活発な面もあり、行動(ボディランゲージ)は気分や態度などの意思表示として現れます。安堵や遊び、好奇心、恐怖、攻撃などの意思・意図は容易に判断できます。

馴化したチンチラは、人をはじめとする動物との相互作用として、積極的に接触してきます。チンチラは行動以外にも、発声(鳴き声)によってコミュニケーションをとります。チンチラと接触ならびに診察する上では、意思を理解し、テンダー・ラビング・ケア(TLC:やさしく愛情を込めたケア)の考えに沿って対応することが理想です。

発声(鳴き声)

チンチラの鳴き声は多彩ですが、実際にはいくつかの基本的な音しかもたず、同じ音でありながら音量を自由自在に変えることで意思表示をしています(写真1)。

写真1:チンチラはいくつかの基本的な鳴き声の音量を自在に変えることで、満足感や興奮、警戒、要求などの意思表示をしている

鳴き声を注意深く聞くと、人の発声音や感情との類似性が高いことも分かります。多くの研究者は、独特の行動やコミュニケーションの試みによって、これらの発声相互作用(意思表示)を評価してきました。しかしチンチラの発声は、ブリーダー、飼い主、獣医師、愛玩動物飼養管理士などの立場で、それぞれ考えられた推論であり、多少の解釈の相違もあります。その結果、残念ながら全員一致の解釈ではありません。

例として、
・孤立した個体は自分の存在を仲間に知らせる声を出す
・防御や威嚇時は吠えるような鳴き声やうなり声を上げる
・相手に注意を促すために警笛のような鳴き声を上げる
・攻撃前はガラガラとした深い声でうなる
・満足感を得たときは優しい声を上げる
・動揺すると唾を吐くような鳴き声を上げる
・苦痛があると大きく高い声を悲鳴のように繰り返す
・発情期にはハトの鳴き声のように甘ったるい声を出す
・母子間で愛情を示す優しいさえずりのような声を上げる
・はじめての相手や物に遭遇あるいは攻撃的になると歯を鳴らす
などと様々な解釈があります。

以下にいくつかの代表的な鳴き声を紹介します。

■接触時の鳴き声

チンチラが仲間と一体感、つまり相互作用によって穏やかな気持ちで満足感を示す鳴き声は、コンタクトサウンド:Contact sound(接触音)と呼ばれます。低く穏やかで不規則な「プップップ」「キュッキュッ」「クックッ」という声のような音で、コミュニケーションをとっています。接触音は頻繁に使用され、自分の存在を他人に知らせるエクスプロラトリーサウンド:Exploratory sound(探索音)/ポジショナルサウンド:Positional sound(場所音)と一緒に聞かれる鳴き声で、これらは幼体時から反応できます。

探索音は穏やかな「チャープ」「チャーピー」という鳴き声で、飼い主や同居個体に対して、何か面白いことに遭遇したことを知らせる場合にも使用されます。接触音は通常、探索音よりもやや低い声です。

■興奮時、恐怖や警戒時の鳴き声

興奮したときには、継続的で切迫した感じの「キューキュー」というきしみ声(Squeaking:スクイーキング)が聞かれます。

恐怖を感じると、耳障りで高強度な騒がしく吠えるような「ギャーギャー」という鳴き声を出します。攻撃前の威嚇として、後肢で立ち上がって背を高くし、Barking(バーキング)と呼ばれる鳴き叫び声を上げ、尿を相手に噴射する動作もみられます。なお、疾病による苦痛の際にも同様の音が聞かれます。

群れの中では、捕食者や危害が近づくと、見張りのチンチラが状況を知らせる声を上げ、他の個体は反応して数分以内に巣内に隠れるという共同防衛がみられます。発声音は「キッキッ」「ギャッギャッ」「グーグー」など緊迫感を感じさせる大きな鳴き声を上げます。Warning call(ウォーニングコール:警報音)とも呼ばれ、生後13日齢の幼体もこの鳴き声に反応するため、本能的なAlarm call(アラームコール:警告音)とされます。

鳴き声でなく、「ギリギリ」「ゴリゴリ」という音をたてることがあり、Teeth chattering(ティースチャタリング:歯ぎしり)と呼ばれます。恐怖を感じたときに、近づかれることを拒む警告の意味です。しかし、満足している際にも発するため、その違いはボディランゲージから判断することとなります。

■要求時の鳴き声

おやつをねだる、ケージから出たい、遊んでほしいなどの要求や探索する際に、柔らかい響きのような小さな声で「キュッキュッ」「キューキュー」「プップッ」「プープープー」という、Decoy sound(デコイサウンド:おとり音)と呼ばれる鳴き声が聞こえます。

一方で、餌をめぐって争っているときや、他の個体に圧迫されていると感じたときには、不機嫌そうな声(抗議の鳴き声)を上げます(Don’t hurt me call と呼ばれます)。

■防衛時の鳴き声

人がチンチラを持ち上げようとしたり、保定したりするとき、短く力強い声で「ケッケッ」や「ギャッギャッ」と拒否を意味する鳴き声を出します。この発生音はKacking(カッキング:粘り気のある声)としても知られ、突然の鋭い唾を吐くような音にも聞こえるため、Spitting(スピッティング:唾吐き)とも呼ばれます。この音は通常、怒っているか、防御していることを意味します。

行動(ボディランゲージ)

チンチラには様々なボディランゲージが報告されていますが、逸話的に解釈された行動や仕草もあります(写真2)。

写真2:様々なボディランゲージが報告されている

■笑顔とウインク

チンチラは、仲間からグルーミングをされたり、飼い主から触れられたり、幸せを感じると、満足そうに頬を上げている表情がみられ、笑顔と表されます。

また、チンチラがウインクや瞬きをすることで、人に反応しているといわれていますが、これは飼い主が一般的に行う擬人化です。ですが、触毛(ヒゲ)が横に広がっている表情は、まさに幸せを感じた笑顔のようにみえます(図1)。

図1:笑顔とウインク。触毛が横に広がる表情は笑顔のようにみえる

■壁乗り/ウォールサーフィング

チンチラが勢いよく壁を登り上がり、勢いよく滑り落ちながら跳躍する行動をWall surfing(ウォールサーフィング)と呼びます(図2)。

ケージから出た際の純粋な興奮の一部と捉えられていますが、一部の専門家は、これは優位性を示していると考えています。声を出して、または静かにきしむ声を出しながらこの行動をとることもあります。

図2:壁乗り/ウォールサーフィング。勢いよく壁を登って、滑り落ちながら跳躍する

■尾を振る

チンチラが尾を振る(図3)理由は解明されていませんが、喜びや楽しみではなく、不安を示している可能性が高いようです。また、発情期の雄も尾を振ります(Swishy tail dance:スウィッシーテールダンス)。

図3:尾を振る。不安を示している可能性が高い

■手を優しくかじる

チンチラが人の手を軽くかじった場合、それは攻撃して傷つけようとしているわけではなく、グルーミング様行動あるいは愛情を示す行動です(図4)。気に入った人にのみ、この行動をとります。

図4:手を優しくかじる。グルーミング様行動あるいは愛情を示す行動である

■常同行動(反復行動)

常同行動とは、意味なく無意識に繰り返される行動で(図5)、多くの場合、不安やストレスを感じたときなどに落ち着くために行われます。ケージの中では、宙返りや縦横に反復した動きがみられます。

図5:常同行動。意味なく無意識に同じ行動を繰り返す

■硬直

走り回っていたり、普通に餌を食べている最中に、突然凍りついて動作を完全に静止します(Freezing:フリージング、図6)。何か音が聞こえたり、気配を感じて固まっている状態で、聞き耳を立てて危険を感じ取っています。準備もできないような緊張状態で、ストレス徴候の1つです。

図6:硬直。聞き耳を立てて危険を感じ取っている。ストレス徴候の1つ

■警戒

後肢で立ち上がり高い姿勢を保つのは、好奇心旺盛で周囲に興味があるとき、または危険や脅威を感じて警戒しているときです(図7)。見慣れないものや外敵に遭遇すると、うなり声のような脅威的な鳴き声を上げ、素早く逃走し、逃げ場がないと咬みついたり、相手に尿を振りかけたり、まれに糞塊を投げることもあります。

「キューキュー」「ギャーギャー」とバーキングコールや「ケッケッ」などのカッキングの鳴き声を上げて、前肢で抵抗し、強く咬んで攻撃する個体もいます。

図7:警戒。好奇心あるいは警戒しているときにみられる

■咬む

優位性を示すため、下位の個体に対して、あるいは威嚇や攻撃の際に相手を咬む行動がみられます。保定を嫌がって咬むことも非常に多くみられます。

■探索

好奇心旺盛な性格のため、新しい物や環境に置かれると熱心に探索します(図8)。

図8:探索。好奇心旺盛なため、新しい環境に置かれた際などにみられる

発情行動と発情/繁殖時の鳴き声

チンチラは発情期になると、雌雄ともに落ち着きがなくなり、「アンアン」「ワンワン」「ホォホォ」「ヴォッヴォ」などの特有の鳴き声を上げ、ケージや物をかじる頻度も増えます。雌は外陰部が赤く腫脹し、粘液が分泌されます。雄は「フォーフォー」「ホーホー」とフクロウに似た鳴き声を上げながら、雌に向かって臀部と尾を小刻みに左右に振る求愛行動を示します(スウィッシーテールダンス)。これは雌の注意を引くために行われます。

また、母子間の連絡的作用として多彩な鳴き声があります。幼体が母親のにおいを嗅ぐときは「キィーキィー」と大きな鳴き声で母親にシグナルを送ります。母親は「キャンキャン」とうなり声で答えて幼体の世話をし、幼体は満足した気持ちを「キューキュー」と高音の鳴き声で表現します。

人馴れ

チンチラは飼い主とのコミュニケーションが適切であれば、非常に人馴れする動物です。特に幼いときに頻繁に扱われると馴れやすく、精神的な結び付きが生まれます。優しいハンドリングと軽い接触に最もよく反応し、馴れたチンチラは扱いやすくなります。通常は、人に対して攻撃的ではなく、ほとんど咬みませんが、精神的にストレスがかかったり、動揺すると咬む傾向にあります。

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*本稿は『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(著:霍野晋吉、緑書房)の一部を改変し、まとめたものです。

【執筆】
霍野晋吉(つるの・しんきち)
日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)獣医畜産学部卒業。獣医師、博士(獣医学)。1996年古河アニマルクリニック開業(茨城県)。1997年エキゾチックペットクリニック開業(神奈川県)。現在は株式会社EIC(https://exo.co.jp)の代表を務め、エキゾチックアニマルの獣医学の啓発や教育に関わる活動を行っている。その他、日本獣医生命科学大学非常勤講師、ヤマザキ動物看護大学特任教授、(一社)日本コンパニオンラビット協会代表理事、(一社)日本獣医エキゾチック動物学会顧問なども務める。著書に『カラーアトラス エキゾチックアニマル 哺乳類編 第3版』『同 爬虫類・両生類編 第2版』『同 鳥類編』『ウサギの医学』『モルモット・チンチラ・デグーの医学』(いずれも緑書房)。

[参考文献]
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