書籍『野生動物学者が教えるキツネのせかい』

緑書房は、『野生動物学者が教えるキツネのせかい』(著:塚田英晴)を発売中です。制作を担当した編集者より、本書の魅力とポイントを紹介します。

キツネの本当のすがた、知っていますか?

大きな耳に、輝く黄金色の毛、ふさふさの長いしっぽ。「キツネ」と聞けば、すぐさまその姿を思い浮かべることができるでしょう。日本に生息する動物として、昔ばなしや絵本、アニメーションなどのなかで活躍するキャラクターとして、または神さまのお使いとして……キツネは、老若男女問わず誰もが知っている動物です。
では、「キツネって、どこに住んでる? 何を食べてる?」と聞かれたら、いかがでしょう。皆さんは、キツネが野生下でどのように暮らし、どのような一生を過ごすのか、ご存じですか? 
本書は、そんな身近ながらも遠いキツネに焦点を当て、体のつくり・生息環境・食べもの・繁殖などといった生態的な特徴から、キツネとヒトの今昔の関わり、よりよい共生のための課題と対策まで、盛りだくさんに解説した「キツネ入門書」です。
野生動物の研究者である著者が、国内外のさまざまな研究をかみくだいて“キツネのせかい”を解き明かします。

写真:本州以南に生息するホンドギツネと、北海道に生息するキタキツネ。どちらも「アカギツネ」という同じ種類のキツネです

写真:キツネ研究歴30年以上の塚田英晴さん

古今東西、実は近くにいるキツネ

日本で野生のキツネに出会う場所といえば、北海道が有名です。ですが、本州・四国・九州にもキツネは生息しています。そして今も昔も、人が暮らす場所のすぐ近くに、キツネも暮らしています。
本書の第1章では、古代から現代までの書物や映画などから、人がこれまでにキツネに抱いてきたイメージと、そのルーツとなったキツネの生物学的な特徴を探ります。キツネから連想される「化けるのが得意」「狐火を吐く」「ずるがしこく、抜け目がない」といったイメージは、いったいどのようなキツネの行動から生まれたのでしょうか? 答えはぜひ本書でお確かめください。

写真:タヌキとならんで、化ける動物の代名詞であるキツネ。そのイメージはいったいどこから……?

知れば知るほどおもしろい キツネの生きざま

あたりが暗くなってきた黄昏時、キツネたちは目を覚まします。「のび」をして体を動かすと、キツネの1日のはじまりです。お決まりの巡回コースを歩きながら、食事をしたり、自分のにおいを残したり、仮眠をとったり。キツネたちも意外と忙しいのかもしれません。
キツネの食事というと、見事なジャンプでネズミを狩る姿を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうか。しかし、著者によると「キツネが何を食べて暮らしているのか? これに答えるのは簡単ではない」といいます。実は彼らは、ありとあらゆるものを食べているのです。ネズミ、鳥類、ウサギ、昆虫、ミミズ、魚、果実、野菜、人の食べものの残り……などなど。狙う獲物によって、狩りの仕方にもコツがあるようですよ。
また、キツネの有名な社会的行動の1つが「子別れの儀式」です。母ギツネが鬼の形相でわが子を追いはらう衝撃的なイベントですが、実は発生しない家族もあり、また発生しても多くは1日だけで、なかなか見ることができないそうです。本書では著者の貴重な観察経験はもちろん、子別れが起こる要因など、専門的な内容もわかりやすく解説しています。
さらに、現代のキツネと人との関わりについても取り上げました。キツネが媒介し、人にうつしてしまう感染症や、キツネによる農作物被害、キツネの交通事故、人による餌付けなど、キツネと人がともに暮らすなかで起きている課題とその現状を確認し、解決に向けた取り組みを紹介します。キツネをはじめとした野生動物と人が、よりよい隣人関係を築いていくにはどうしたらよいのか……。ぜひ皆さんにも考えていただけたらと思います。

写真:キツネの食べものに関する研究を解説

写真:交通事故はキツネが命を落とす大きな原因の1つとなっています

【主要目次】
第1章 キツネのイメージ考
第2章 キツネのキホン
第3章 キツネの食事
第4章 キツネの社会
第5章 キツネと人とエキノコックス
第6章 現代のキツネと人

【著者】
塚田英晴(つかだ・ひではる)
麻布大学獣医学部動物応用科学科教授、博士(行動科学)。 野生動物学、動物行動学、野生動物保全管理学を専門とする。
1968年岐阜県生まれ。1990年北海道大学文学部卒業後、北海道大学大学院文学研究科博士課程修了。学部・大学院時代はキタキツネと人間社会との関わりを研究し、1997〜2000年は北海道大学大学院獣医学研究科寄生虫学教室にて、エキノコックス症の終宿主対策に関する研究に従事。2000〜2015年、農林水産省草地試験場および農研機構畜産草地研究所に勤務し、牧場に生息する野生動物に関する研究に取り組む。2015年より麻布大学に着任、現在に至る。その他、国際学術誌「WILDLIFE BIOLOGY」SUBJECT EDITOR、動物の行動と管理学会庶務理事、日本哺乳類学会代議員などを務める。著書に『野生動物のロードキル』(共編著/東京大学出版会)、『もうひとつのキタキツネ物語 キツネとヒトの多様な関係』(東京大学出版会)、『これからの日本のジビエ 野生動物の適切な利活用を考える』(分担執筆/緑書房)、『野生動物の餌付け問題』(分担執筆/地人書館)など。

【本書概要】
・書名:野生動物学者が教えるキツネのせかい
・著者:塚田英晴
・発行:緑書房
・体裁:四六判 292頁
・価格:2,420円 (本体2,200円)
・発売日:2024年1月31日
・ISBN978-4-89531-938-6

■お問い合わせ先
株式会社 緑書房 販売部
〒103-0004 東京都中央区東日本橋3-4-14
TEL:03-6833-0560
https://www.midorishobo.co.jp