あなたの知らない水族館獣医師のお仕事

全国に40~50人ほどしかいない?!

日本は、世界的に見ても非常に水族館の多い国であると言われています。全国におおよそ100か所程度もある水族館のなかで、獣医師としてはたらいている人は40~50人ほどとされています。1か所に複数人が所属している場合もあるので、実際に専属獣医師がいる施設は30~40か所だと思われます。

獣医師全体*から見ても、水族館の獣医師が非常に少ない割合であることがわかります。

*2022年12月時点で、獣医師として国に登録されている人数は40,455人

水族館獣医師の仕事って?

水族館で飼育している動物は希少なものが多く、どのように治療すれば良いのか? そもそもどのような生態なのか? など、生理的な知見やデータが集めにくいと言われます。

そのため、私たち水族館獣医師は連携を取り、さまざまな分野の研究者と協力して知見やデータの収集を行い、動物たちの健康管理や質の高い診療につなげています。

この記事を読んで、水棲哺乳類や魚類などに興味を持つ人たちが増え、水族館獣医師の世界へ飛び込んで来てくれることを心より願っています!

写真:仔マナティーと植田院長

筆者が水族館獣医師になったきっかけ

子どものころから動物が好きで、よく動物園や水族館に遊びに行っていました。好きが高じ、大学は獣医学部へ進みました。大学時代はイルカの臨床獣医師になりたいと考え、いくつかの水族館や動物園で実習させてもらい、技術を磨きました。

1日の仕事の流れ(沖縄美ら海水族館)

朝、開館前に準備をはじめ、餌を与える前に血液検査、体温測定、視診などを行います。これらは、飼育員の餌やりに同行し、愛玩動物看護師と業務分担しながら進めます。

午後になると、午前中の健診結果に対して処置をしたり、より詳しく画像診断を行ったりします。その日に行った検査や処置については、確実に電子カルテに記録していきます。

写真:オキゴンドウに輸液を行っている様子

写真:オキゴンドウにエコー検査を行っている様子

水族館内の動物との関わり方

水族館獣医師は動物たちの健康管理はもちろん、飼育員と共に繁殖も進めることで、世界中の水族館で個体数の維持に努めています。それだけではなく、動物を飼育・治療する際には、常に動物倫理・福祉を忘れることなく、できる限り動物のQOL(quality of life:生活の質)向上を目指しています。

筆者が心がけていることに、「動物と接する際には擬人化をしない」ということがあります。なぜなら、まだ分からない・常識が通じないことが多い動物と関わるからです。

日々工夫をしながら多くの知見やデータを集めているところですが、今でも未知の発見が多く、そのような状況を楽しめるのも水族館獣医師の醍醐味といえるでしょう。

来園者にお願いしたいこと

水族館にいる動物たちは、人間とは異なる進化を遂げています。「なぜそうなったのか?」「私たちとどう異なるのか?」など、疑問をもって直接見てみてください。水族館や動物園に行かなくても動物の様子を知ることはできますが、筆者は、直接見ることで得られる正しい知識や、新たな発見があると思っています。実際に足を運び、生き物のすごさを直接感じてください!

沖縄美ら海水族館
https://churaumi.okinawa

※写真提供…国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館

【執筆】
植田啓一(うえだ・けいいち)
酪農学園大学酪農学部獣医学科卒業、獣医師、博士(獣医学)。一般財団法人沖縄美ら島財団附属動物病院院長。沖縄美ら海水族館動物健康管理室室長。専門は小型歯鯨類の臨床獣医学。イルカの人工尾びれを世界で初めて開発した。著書に『鯨類の骨学 Osteology of Whales』(共著、緑書房)、『海獣診療マニュアル 上巻/鯨類の診療編 下巻/鰭脚類・海牛類の診療編』(共著、学窓社)