皆さん、はじめまして! 「どうぶつ科学コミュニケーター」の大渕希郷です。
どうぶつ科学コミュニケーターは筆者が創設した仕事です。動物のことを皆さんに伝えるために、動物関連の教室を開催したり、テレビに出演したり、書籍を執筆したりしています。
この記事では、さまざまな動物たちが暮らす動物園・水族館の歴史についてご紹介します!
まずは世界の歴史を知ろう
動物園はいつからあったのでしょうか。
古代エジプトや中国では、動物を飼育する施設が紀元前からあったという記録が残っています。このような施設は、動物園というよりも、特権階級のもつ権力を象徴する「動物コレクション」としての意味合いが強かったと考えられています。
現存する最古の動物園は、1752年に開園されたオーストリアのシェーンブルン動物園です。しかし、ここはもともと「メナジェリー」と呼ばれる施設でした。メナジェリーとは動物観覧施設のことで、見て楽しむ娯楽としての意味合いが強いものです。
時代が下っていくにつれて、これらの施設には教育・研究の場としての役割が強くなっていきます。現代の動物園は広義では博物館の1種とされるゆえんです。
1828年にはロンドン動物学会を運営母体として、ロンドン動物園が開園されました。ロンドン動物園は英語でLondon Zoo。ZooはZoological Gardenの略であり、Zoologicalの直訳は「動物学の」です。ここでようやく正式に、研究や教育の場としての「近代的な動物園」の歴史の幕が開けたのです。
一方、日本はというと…?
国内の歴史も見てみましょう。
江戸時代には、南蛮船が積んできた外国の珍しい動物をみせる見世物小屋がありました。動物園というよりは、メナジェリーに近いものかもしれません。良いか悪いかは別として、「珍しい生き物を見たい」という欲求は洋の東西を問わず、世界中の人がもっているのでしょう。
その後の1882年に、国内初の動物園である上野動物園が開園します(正式名は「恩賜上野動物園」なのですが、以後は上野動物園と表記します)。つまり、上野動物園の開園以前に、ZooないしZoological Gardenを「動物園」という単語に訳した人物がいるわけです。
その人物とは、現在の一万円札にも印刷されている福沢諭吉です。彼は、欧米への使節団に参加したあと、1866年に見聞を『西洋事情』という本にまとめました。その本で、動物園という言葉がはじめて使われたのです。
水族館と動物園の深い関係
水族館についても、歴史をひもといてみましょう。
動物園と水族館をまったく別の施設として認識している方もいると思いますが、実は両者には浅からぬ関係があります。世界最古の水族館には諸説ありますが、一説では1853年にロンドン動物園内につくられたフィッシュ・ハウスだとされています。
また、日本の水族館も動物園と深いかかわりをもっています。日本の水族館のはじまりは、上野動物園内につくられた観魚室(うをのぞき)とされています。その後の上野動物園内には、1952年に海水水族館、1964年に大水族館(水族爬虫類館)がオープンしました。
1989年に葛西臨海水族園がオープンすると、海水魚は上野動物園から葛西臨海水族園に移管されました。しかし残された淡水魚や両生爬虫類は、1999年に上野動物園内にできた両生爬虫類館(ビバリウム)へと引き継がれたのです。
動物園から得られるもの
「動物園は博物館の1種である」と冒頭に書きましたが、法律的には「登録博物館」「博物館相当施設」「博物館類似施設」と細かく区分されており、上野動物園はこのうち「博物館相当施設」に分類されています。ちなみに、筆者が学芸員として勤めていた動物園「日本モンキーセンター」は、日本初の「登録博物館」です。このように、動物園によっても立ち位置が少しずつ異なるのです。
メナジェリーや見世物小屋から生まれた動物園は、現在、野生動物の保全施設や動物福祉施設としての発展を遂げようとしています。
一方で、筆者が上野動物園、日本科学未来館、日本モンキーセンターなどで働いて得た経験によると、動物園を見世物小屋に近いものとして認識している方も一般にはまだまだいます。
すでに述べたように、「珍しい動物、可愛い動物、かっこいい動物を見たい」というのは、多くの人がもつ自然な欲求です。その感情をただ否定するのではなく、そうした動機で動物園・水族館に来てくれた人に、何を得てもらうのかが重要だと考えています。動物園・水族館から家に帰るときに、「かわいかったね」「かっこよかったね」だけではなく「この動物って、実はこうだったんだ」「生態系をまもるために何かできることはないかな?」などと思ってもらえたらうれしいですね。
この記事で動物園に興味をもった皆さんも、よろしければ拙著『動物園を100倍楽しむ! 飼育員が教えるどうぶつのディープな話』などを参考にしながら、気になる動物園に足を運んでみてくさい!
【執筆者】
大渕希郷(おおぶち・まさと)
1982年、兵庫県神戸市生まれ。京都大学大学院・動物学教室を単位取得退学。その後、上野動物園・両生爬虫類館の飼育展示スタッフ、日本科学未来館・科学コミュニケーター、京都大学野生動物研究センター・特定助教(日本モンキーセンター・キュレーター兼任)を経て、2018年より「どうぶつ科学コミュニケーター」として独立。夢は、今までにない科学的な動物園をつくること。特技はトカゲ釣り。主な著書に『学研の図鑑LIVEポケット 爬虫類・両生類』(学研プラス)、『「もしも?」の図鑑 絶滅危惧種 救出裁判ファイル』(実業之日本社)、『世界のかわいい動物の赤ちゃん』(パイインターナショナル)などがあり、執筆や監修をした書籍は計30冊を超える。他、幼稚園やオンラインなどでの動物を用いた教室や、野外観察会の実施、動物関連のテレビ出演や監修など。
プロフィールURL:https://lit.link/masatokage02