観察しよう! 八ヶ岳南麓で出会う野生動物「ニホンジカ」(公益財団法人キープ協会)

野生動物の観察で注意すべきことや、その際のマナーを専門家が解説する本企画。
今回は長野県と山梨県にまたがる八ヶ岳南麓の清里高原に生息するニホンジカについて、公益財団法人キープ協会 環境教育事業部に所属する、山下さんにお話を伺いました。

※記事内の情報は2024年10月時点のものです。

ニホンジカとは?

ニホンジカは偶蹄目シカ科の動物です。
本州で見られるニホンジカの大きさは体長130〜160センチメートルほど、大きなオスジカでは体重が100キログラムを超える個体もいます。

オスジカ
メスジカ

観察してみよう

自然豊かな八ヶ岳南麓にはキツネやタヌキ、ニホンリスの他にも、国の天然記念物のニホンヤマネや特別天然記念物のニホンカモシカも生息しています。

多くの野生動物が生息している八ヶ岳ですが、訪れた皆さんの最も目に触れる野生動物はニホンジカではないでしょうか。
草原や牧草地で草を食べている姿を観察されることが多く、ある程度距離があれば、ニホンジカがこちらを気にせずに観察することができます。

八ヶ岳高原大橋を清里方面へ進むと左手側に「八ヶ岳南麓風景街道 シーニックデッキ」と呼ばれる八ヶ岳と牧草地の美しい風景を望めるポイントがあります。
この場所では、比較的多くのシカを観察することができます。

広い牧草地での観察には双眼鏡や望遠鏡があると便利です。

観察における注意点とマナー

野生のニホンジカを観察する際は、以下のことに注意しましょう。

・ニホンジカの方からむやみに襲ってくることはありませんが、私たちの存在に気づいたら深追いはせず、距離を保って観察しましょう。
多くの場合は、ニホンジカが先に私たちの存在に気づき逃げていきます。

・「ピュッ」という鳴き声がニホンジカの警戒の声です。
森の中の散策路を歩いていると、姿は見えなくても鳴き声が聞こえてくることがあります。
ゆっくりと周囲を探してみましょう。

・ニホンジカが逃げるときには、周囲の仲間に危険を知らせるためにお尻の白い毛を逆立てながら逃げていきます。

・観察する時間帯はシカの動きが活発になる早朝か夕方です。

・秋の夕暮れは早いので、16時には暗くなってしまいます。1人では行動せず複数人で動きましょう。
懐中電灯やヘッドライトを持っていると安心です。

・ニホンジカが多く観察される牧草地は牛のための牧草を育てている場所です。
柵の中には入らずに外側から観察をしましょう。

また、皆さんの目に触れる機会が多いと言っても、ニホンジカは野生動物です。
必ず見られるわけではないので、出会えなくてもがっかりしないでください。

観察にオススメの時期やスポット

どの時期もオススメですが、秋には繁殖期のオスジカの出す「恋鳴き」と呼ばれる鳴き声が聞こえることがあります。
女性の悲鳴のような声で(「イーヤー」と聞こえる)、夜に多く聞こえるため、初めて耳にするとドキッとしてしまいますが、八ヶ岳では秋の訪れを感じる鳴き声でもあります。

また、冬には100頭程の大きな群れで動く様子を観察できることもあります。

ニホンジカの大きな群れ

雪が降った後はアニマルトラッキング(動物の痕跡探し)もオススメです。
雪の上や雨が降った後の、やわらかくなった土には、ハート型にも見えるシカの足跡が残されていることがあります。

シカの足跡

八ヶ岳の冬は大変寒いので、ぜひ暖かい服装で探してみてください。

夏には夏毛へと毛皮の色を変化させた、鹿の子模様(バンビ柄)のシカを観察することができます。
初夏には出産シーズンを迎えるため、可愛らしいバンビ柄の仔ジカと母ジカが草原で過ごす様子を観察できることもあります。

さいごに

シカやイノシシの数が増えているという話を聞いたことがあるでしょうか?

八ヶ岳南麓のニホンジカも同様に数を増やしています。
そのため、交通事故(ロードキル)が増加するほか、樹木の皮や貴重な植物や農作物を食べてしまう食害も起こっています。
樹木は皮を食べられすぎると弱ってしまい、最悪の場合には、枯れてしまいます。

ロードキルにあったニホンジカ
ニホンジカによる食害

個体数を少なくするための駆除が行われていますが、駆除したシカの活用がなかなか進んでいないことが現状です。
駆除したシカの中で、その肉が食肉として加工・流通された割合は1割ほどです。
シカ皮や角に関してはもっと利用率は低くなります。

それでも、「ジビエ(野生鳥獣の食肉)」という言葉をメディアで聞いたり、道の駅などで「シカ肉、イノシシ肉」が販売されている場面を目にする機会も多くなってきました。
適切に処理されたシカ肉は臭みも少なく、美味しく食べることができます。

野生動物であるシカが多く観察できる背景には個体数増加による問題があることも心の中に留めてもらいながら観察をしてもらえると嬉しいです。

[参考文献]
・フィールドベスト図鑑 日本の哺乳類 学習研究社 
・捕獲鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況
令和5年6月農林水産省 農村振興局 鳥獣対策・農村環境課 鳥獣対策室
https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/h_kensyu/attach/pdf/R5/r5kensyu-060.pdf

【文・写真】
山下 美夏 (やました・みか)
公益財団法人キープ協会 環境教育事業部。
長野県出身。豊かな自然に囲まれて育ったためか、子供のころからの生き物好きで、
大学は山梨県にある帝京科学大学へ進学。
ペットショップなどで働いたのち、2012年からは日本野鳥の会のレンジャーとして活動。
インタープリターとしてのさらなる成長と新しいフィールドを求めて2020年からはキープ協会へ。ときには眩暈がするほどの感動を与えてくれる自然のすばらしさや不思議さを全身で感じ、人々の心に寄り添い・分かち合えるインタープリターを目指して日々奮闘中。

山梨県県立八ヶ岳自然ふれあいセンター
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【編集協力】
柴山淑子