緑書房ではこのたび、『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 田んぼのいきもの』(写真:関慎太郎、編著:大塚泰介 )を発刊しました。制作を担当した編集者より、本書のおすすめポイントを簡単に紹介します。
奥深い田んぼの世界
みなさんの家の近所には田んぼはありますか? いきものが好きなら思わず立ち寄ってしまう場所ですね(立ち入る際は、その田んぼを所有している農家さんの許可を得ましょう)。
大陸から伝わった日本の稲作には、約3,000年の歴史があるとされています。本書のなかにもありますが、毎年の営農によって、いきものにとって予測可能な環境変動が起こるため、田んぼを重要な生活の場として利用するいきものが数多くいます。人が農業のためにつくった人工的な環境であるにもかかわらず、生物多様性が非常に高い、奥深い世界です。
テーマは盛りだくさん!
本書は、田んぼとそこにくらすいきものについて、コーナーごとにいろいろな切り口で紹介します。編著者の大塚泰介さんがもっとも力を注いだ「四季の田んぼ図鑑」では、田んぼで見られる代表的な106種のいきものの生態について、田んぼとのかかわりを交えながら解説しています。また、田んぼという環境の現状や農家さんの仕事について知りたい人、田んぼで野外観察・採集や自由研究に取り組んでみたい人も、楽しみながら学んでいただけると思います。
以下に、各コーナーの内容を一部簡単に紹介します。
●いきものが生活を営む田んぼの風景を、大きな写真で紹介した「巻頭ビジュアル」。
●一年の田んぼの風景を紹介し、そこにくらす代表的ないきものを季節ごとに並べた「四季の田んぼ図鑑」。
●田んぼで野外観察と採集をする際の注意点やコツを解説した「田んぼの野外観察と採集」。
●田んぼとそこすむいきものについての素朴な疑問に答えた「田んぼのいきものQ&A」。
●田んぼとそこにすむいきものの現状について研究者が解説した「今、起こっていること」。
●弥生時代から続く稲作にまつわるいろいろなトピックを紹介した「田んぼの歴史・文化」。
●田んぼのいきものを研究している研究者が若い読者に贈る「研究者からのメッセージ」。
●初学者でも取り組める自由研究の手法を紹介した「自由研究のすすめ」。
●田んぼの展示がある水族館や博物館を紹介した「田んぼの展示がある施設」。
●田んぼの研究を行っている大学研究室を紹介した「田んぼを研究する大学」。
効率的な農業を目指すため、圃場整備(ほじょうせいび:農地を整理し、用水路や農道などを整備すること)が各地ですすみ、昔ながらの田んぼが減りつつあります。そのため、昔ながらの田んぼに長期間かけて順応し、生活してきたいきものたちの生活の場が失われつつあります。一方で、効率的な米の生産は、私たちが食べていくために大切なことです。私たちの「食」と、いきもののたちの「環境」の両方を守ることはできるのでしょうか? 本書では、そのような課題にも触れているので、考えるきっかけにしてみてください。
【主要目次】
巻頭ビジュアル いきもののいる田んぼの風景
・田んぼの中を移動するニホンイシガメ
・代かき作業のそばにユリカモメ
・田んぼの底をはうマルタニシ
・ニホンアマガエルと夕日
・田んぼを泳ぐトノサマガエル
・畔で日光浴をするアオダイショウ
・冬眠するヤマトサンショウウオ
日本の田んぼ/田んぼの生態系
四季の田んぼ図鑑
田起こし/代かき/田植え/中干し/機械で稲刈り/手作業で稲刈り/刈り取ったイネを脱穀する/脱穀米…他
ミニコラム
①イネは在来種? 外来種?
②冬期湛水といきものとのかかわり
春に見られるいきもの
ドジョウ/ナマズ/ミナミメダカ/ニホンアマガエル/トノサマガエル/アカハライモリ/シマゲンゴロウ/チビゲンゴロウ/ガムシ/タガメ/タイコウチ/ホルバートケシカタビロアメンボ/ハラビロトンボ/アジアイトトンボ/ケラ/ホウネンエビ/カイエビ/マルタニシ/ドブシジミ/シャジクモ/ゲンゲ(レンゲ)/スズメノテッポウ…他
夏に見られるいきもの
ニホンイシガメ/クサガメ/ニホンマムシ/シマヘビ/ヤマカガシ/ギンヤンマ/ウスバキトンボ/ノシメトンボ/タンボコオロギ/セスジビル/キクヅキコモリグモ/クサネム/コナギ/クログワイ/イヌホタルイ/タイヌビエ…他
秋に見られるいきもの
ナゴヤダルマガエル/アキアカネ/クモヘリカメムシ/コバネイナゴ/ハネナガイナゴ/ウスイロササキリ/オオカマキリ/ヒメミズワラビ/ヒガンバナ/アゼナ/ミゾハコベ/ミゾカクシ/ミゾソバ/ヤナギタデ…他
冬に見られるいきもの
ニホンアカガエル/ヤマアカガエル/ヤマトサンショウウオ/セリ/ナズナ/ハハコグサ/コオニタビラコ…他
田んぼの野外観察と採集
①田んぼでの注意点とマナー
②準備するもの
③いきものを見つけるコツと観察ポイント
④採集の方法と注意点
田んぼのいきものQ&A
今、起こっていること
・圃場整備と乾田化のいきものへの影響
・農薬が田んぼの生態系に与える影響
・農事暦の変化の影響
・いきものどうしのつながりをまるごと守る
・水田を脅かす外来水生植物
田んぼの文化・歴史
田んぼのはじまりは弥生時代/田んぼを見守る神様たち/カカシは田んぼの神様/田んぼの働き者、牛と馬/田んぼの副産品、イナゴ/田んぼを利用して子育てするツバメ/アイガモと一緒にお米づくり!/田んぼですごす楽しい時間/田んぼから飛び出したいきものたち/田んぼを学ぶ・楽しむ本
研究者からのメッセージ
①タガメの研究が保全活動につながる
②田んぼの普通種を研究することの意味
③気がつけばマッド・サイエンティスト
④“好き”をつきつめるということ
⑤田んぼという深遠な小宇宙に魅せられて
自由研究のすすめ
①本格的な調査ってどうやるの?
②田んぼの昆虫を調べてみよう!
③カエルの鳴き声調査をやってみよう!
④市民活動による調査への参加は自分なりの研究テーマ探しにもつながる
田んぼの展示がある施設
①姫路市立水族館
②魚津水族館
③滋賀県立琵琶湖博物館
④アクアマリンふくしま
田んぼを探究する大学
①宇都宮大学
②滋賀県立大学
③岡山大学
④長崎大学
【写真】
関 慎太郎(せき しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家。日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生き物の生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府の水族館立ち上げに関わる。本書のシリーズ『日本のいきものビジュアルガイド はっけん! ニホンヤモリ』『同 ニホンイシガメ』『同 オオサンショウウオ』『同 ニホンアマガエル』『同 オタマジャクシ』『同 イモリ』『同 トカゲ』『同 小型サンショウウオ』『同 カナヘビ』や『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ!田んぼのいきもの』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。
【編著】
大塚泰介(おおつか たいすけ)
滋賀県立琵琶湖博物館総括学芸員。1967年富山県生まれ。京都大学農学部水産学科卒業後、同大学院農学研究科熱帯農学専攻修士課程修了、同博士課程修了。博士(農学)。専門は微生物学。島根大学汽水域研究センター研究員を経て2000年から滋賀県立琵琶湖博物館学芸員、現在に至る。主な著書に、『なぜ田んぼには多様な生き物がすむのか』(編著、京都大学学術出版会)、『にぎやかな田んぼ』(共著、京都通信社)など。
※略歴は出版時の情報です。
【本書概要】
・書名:日本のいきものビジュアルガイド はっけん! 田んぼのいきもの
・写真:関 慎太郎
・編著:大塚泰介
・発行:緑書房
・体裁:A5判 160頁 オールカラー
・定価:2,310円 (本体2,100円)
・発売日:2024年11月22日
・ISBN978-4-86811-011-8
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