はっけん!日本の爬虫類・両生類【第16回】リュウキュウヤマガメ

Geoemyda japonica (Fan, 1931)

世界遺産に登録されている沖縄本島北部のやんばるの森は、生き物の気配があちこちから伝わるため、胸の高まりが抑えられない場所の一つです。爬虫類や両生類の多様度も高く、2メートルを超えるハブから2センチメートルほどのヒメアマガエルまでみられます。また、ここでしかみられない種も多く、小さな地域にこれほど高密度で生きものを観察できる場所は日本にそう多くはないでしょう。

やんばるの森の隠れ名”亀”?

そのような自然豊かな森に、ある亀が暮らしています。「リュウキュウヤマガメ」です。

リュウキュウヤマガメの正面顔

沖縄本島北部と久米島、渡嘉敷島で確認されており、川の近くで見かけることも多いですが、水にはほとんど入らないと考えられています。

早朝のやんばるの森を車で走っていると、道を横切るリュウキュウヤマガメを見かけることが多いです。夜間に見かけることはほとんどありませんが、物陰で寝ているのでしょうか? 早朝と夕方は盛んに活動しており、雨上がりに路上に現れるミミズやカタツムリを捕食する姿をよく見かけます。捕食に役立つ鳥の嘴のような口は、木の実を摘んだり、ミミズを咥えたり、カタツムリの殻を破るのに適した形をしています。

リュウキュウヤマガメの横顔

甲羅は平たくて黄褐色や緑色、赤褐色などが入り混じった色をしており、鮮やかな森の色に溶け込みやすくなっています。落ち葉の上にいる個体を見つけることは至難の業ですが、すぐにがさごそ動き出すので見つけられてしまいます。繁殖期のオスに出会えると非常にラッキーで、真っ赤な顔に変貌していて見応えがあります。

オスのリュウキュウヤマガメ

沖縄本島南部では、「ヤンバルガーミー」という地方名で呼ばれており、「ガーミー」は亀を意味していて、とても親しみ易い名前です。

いきものを観察するということ

このような愛嬌のある亀ですが、悲しいことに交通事故に合ったり、側溝に落ちて死んでいる個体をよく見かけます。
彼らの生息区域に入るのであれば、車の運転には細心の注意を払い、ゆっくりと自然観察を楽しんでもらいたいです。

側溝に落ちたリュウキュウヤマガメ

もしリュウキュウヤマガメに出会えたら、そっと近寄り(触ってはいけません。天然記念物ですので罰せられます。)同じ目線になって観察してみてください。危害を加えないことがわかれば、ほとんど逃げません。観察すればするほどこの亀の魅力がわかります。

やんばるの森に行きたくなってきました。リュウキュウヤマガメに今年も出会えるかな!

【文・写真】
関 慎太郎(せき・しんたろう)
1972年兵庫県生まれ。自然写真家、びわこベース代表、日本両棲類研究所展示飼育部長。身近な生きものの生態写真撮影がライフワーク。滋賀県や京都府内の水族館立ち上げに関わる。『日本のいきものビジュアルガイド はっけん!』シリーズ(田んぼのいきもの、カナヘビ、小型サンショウウオ、ニホンイシガメ、ニホンヤモリ、トカゲ、イモリ、ニホンアマガエル、オタマジャクシ、オオサンショウウオ)、『野外観察のための日本産両生類図鑑 第3版』『同 爬虫類図鑑 第3版』、『世界 温帯域の淡水魚図鑑』、『日本産 淡水性・汽水性エビ・カニ図鑑』(いずれも緑書房)、『うまれたよ! イモリ』(岩崎書店)、『日本サンショウウオ探検記 減り続ければいなくなる!?』(少年写真新聞社)など著書多数。