いざという時のための猫と人の防災

さて、いきなりの質問です!
災害時に避難する際、犬と猫ではどちらが大変でしょう?

答えは、「猫」です。
災害時に猫にふりかかる問題は犬と比べて深刻です。
犬とともに身近なペットの代表である猫の災害対策について、一緒に考えてみましょう。

猫の避難の課題と対策

同行避難しようにも、どこに隠れたのかわからなくなる

呼び寄せができる犬と違い、名前を呼んでも出てきてくれない、という経験はありませんか?
地震を経験した猫の飼い主さんを対象とした聞き取り調査でも、「隠れて見つからなかった」という回答が多く、「地震の揺れで開いた下駄箱に入り込み、余震で扉が閉まり、1日中みつからなかった」という事例もあります。

対策

あらかじめ、安全で隠れやすい場所(猫用室内シェルター)を家の中に何か所か用意しておきましょう。
普段からそこにキャリーバッグを置いて、寝床として慣らし、いざ避難という時に猫用室内シェルターから探すようにします。できれば、通院用とは別のキャリーバッグを用意できるとより良いです。
地震対策の場合、押し入れの下段に頑丈な家具を置いて固定し、その隙間にキャリーバッグやハウスを置いて、何かあったら逃げ込めるようにしておきます。飼い主が留守の時でも生き延びてくれる可能性が高まります。

長期間キャリーバッグの中だけで生活することが難しい

リードでつないでおくことができる犬と違い、猫は脱走対策をしなければいけません。開放的で混乱している避難所では、脱走の恐れからキャリーバッグの蓋を開けるのもためらわれるほどです。
キャリーバッグ内では、猫のトイレの設置が困難ですし、夏場に風通しが悪いキャリーバッグ内に長時間入れておくことは、苦痛を与えることになります。

対策

自宅が無事であれば、在宅避難をするか、猫を自宅に残してお世話に通うことが対策として挙げられます(火災に注意してください!)。親類・知人宅の他、行政や動物愛護団体の一時預かり支援などに預けることもできるでしょう。
持ち運びがしやすいソフトケージ(トイレなどが入る大きさ)を用意しておくことをおすすめします。

2016熊本地震の避難所内の様子

ケージ飼育が長期にわたるとストレスが大きくなる

シェルターでの猫の飼育環境は、ほとんどの場合がケージ飼育です。定期的な散歩や運動で気分転換をさせてあげられない猫たちは、長期間にわたる狭いケージ暮らしで、筋力の衰えやストレスなどの二次被害を受けることもあります。

2018西日本豪雨の巡回診療

対策

避難対策と同様、シェルター以外の預かり先をあらかじめ見つけておくことが大切です。できるだけ頻繁に面会に行き、逃げ出さないように施錠した室内で遊ばせて気分転換させましょう。
猫の異常にいち早く気づくために、注意深く観察してあげてください。

備えておく物の参考

餌や水

ローリングストック方式で最低1か月分は用意しましょう。

南海トラフ大地震のような大規模な災害が発生したら、支援が遅れる可能性があります。東日本大震災発生後、半年間一度もペットに関する支援物資が届かなかった避難所もありました。
最低1か月分のストックの他に、食欲減退対策に、大好物やウェットフードも用意しておくといいでしょう。

2016熊本地震避難所の様子(益城町総合体育館)

療法食や薬

メーカーごとに、代用できるフード名をかかりつけの動物病院で聞いておきましょう。自宅で点滴などをしている猫の場合、薬液や付属品は備蓄必須です。

※療法食は指定のフードが入手できなくなることもあります。

避難用品

キャリーバッグは必須です。手提げ、ショルダー、リュック、カートとタイプは様々ですので、ニーズに合わせて用意してください。
多頭飼育の場合には、運ぶ方法も検討しておきましょう。

飼育用品

特に、猫砂は重たいので保管場所に工夫をしてください。
なければ新聞紙を細く裂くか、砂を代用した事例もあります。

3.避難生活の応用編

その他、猫との避難生活を快適に送るためのアイディアです。参考にしてみてください。

・飼い主さんと一緒に過ごせるように、屋内に設置できる簡易テントを用意する。

・段ボールで簡易ハウスを作る。
※寒さ対策には、大中小の段ボール箱を重ねて空気の層を作り、入口を小さくすると保温効果が上がります。

2004新潟中越大震災での小千谷避難所の様子

・屋外での巡回診療や脱走防止に、目の粗い洗濯ネットを用意する。

洗濯ネットで猫の避難をしている様子

・経年劣化したキャリーバッグが崩れないようひとくくりしたり、包んで視界や音を遮るようにコントロールをしたりするために荷造り紐・風呂敷を用意する。

・車内で避難させるときにはリードは使わない。
※車内を動き回る猫は、リードが絡んで首が締まってしまうことがあります。また、冬でも日差しや車内温度に注意が必要です。熱中症は猫の命にかかわります。長時間、放置せずこまめに様子を見ましょう。

4.まとめ

最初の質問の答えのとおり、猫の避難は犬よりも大変です。

自宅の耐震対策を講じ、猫のための備蓄をし、在宅避難ができるように備えておくのは必要な災害対策です。避難所生活やケージ生活がストレスになる猫にとって、避難所より自宅の方が過ごしやすいことは当然です。飼い主であるあなたの留守中に災害が発生したとしても、生き延びてくれる可能性を高めるために、まずは住まいの対策から見直してはいかがでしょうか?
猫にとって安全な場所はあなたや家族にとっても安全な場所なのですから。

【執筆】
平井潤子(ひらい・じゅんこ)
NPO法人アナイス理事長。2000年に発生した三宅島噴火災害による被災動物保護シェルターでの活動をきっかけにNPO法人アナイスを立ち上げ、自治体や環境省が行うペット災害対策の助言やマニュアル、訓練事業などを監修。東京都獣医師会 顧問、日本獣医師会 危機管理室 統轄補佐、「人とペットの災害対策ガイドライン」、「人とペットの災害対策ガイドライン・ボランティアの活動と規範」編集委員、東京都防災会議専門委員(2023~2024年)などを務める。