前回に引き続き、カンボジア・シェムリアップの旅、後編です。
この地を再訪した理由は、「ベンメリア遺跡」にどうしても行きたかったからでした。森に包まれたこの遺跡は、雨が降ると苔の緑がひときわ美しくなると聞いていました。旅先ではたいてい「晴れますように」と願うものですが、この時ばかりは「どうか雨が降りますように」と願わずにはいられませんでした。乾季にそんな都合のいい願いが叶うはずはない……。そう思っていた矢先、なんと、ぽつりぽつりと雨が降り始めたのです。崩れた石と絡み合う木々、そこにしっとり濡れた緑が鮮やかに浮かび上がる光景があまりに神秘的で、物語の世界に入り込んだように感じました。

カンボジアは仏教国で、多くの寺院が点在しています。そこでは、僧侶とともに猫や犬が暮らしていることもあります。

カンボジアで信仰されているのは「上座部仏教」と呼ばれる仏教です。僧侶たちはオレンジ色の袈裟を纏っています。

ある寺院では、僧侶のもとに猫たちが集まっていました。どうやらご飯の時間だったようです。「見ていきますか?」と声をかけていただき、猫たちの食事風景を見学させてもらいました。

猫たちは、缶詰を開ける僧侶の手元をじっと見つめながら、行儀よく待っていました。食事を終えると、それぞれのお気に入りの場所へと戻っていきました。

寺院にはところどころに金色の装飾が施されていて、柱に寄りかかって毛づくろいをする猫がいました。どこか気品を感じるその姿も、寺院ならではの光景です。

ある日の早朝、本堂からお経を唱える声が聞こえてきました。一匹の猫が、その響きに歩調を合わせるようにゆっくりと歩いていました。不思議と心が落ち着く光景でした。

そして、今回も猫に会えるフルーツ料理店「Fresh Fruit Factory」でひと休み。マンゴーパスタの美味しさにとても驚かされました! カンボジアは胡椒が有名な国でもあります。フルーティーな胡椒と甘いマンゴーがよく合い、これまでにない味わいに感動しました。

マイペースにくつろぐ猫たちを見ながら、糖分補給。歩き回って疲れた心も身体も癒やされ、その後も思う存分旅を楽しむことができました。

初めて訪れる場所への旅はワクワクの連続ですが、再訪の旅にはまた違った楽しみがあります。知っている風景の中に新しい発見があったり、懐かしい顔ぶれに会えると安心感があったりします。次に訪れるときにはどんな出会いがあるだろう。次の訪問が決まっているわけでもないのに、もう楽しみにしている自分がいます。
【文・写真】
町田奈穂(まちだ・なほ)
猫写真家。水中写真家・鍵井靖章氏との出会いをきっかけにカメラを始める。「猫×彩×旅」をテーマに、世界中を旅しながら各地で出会った猫たちを撮影。これまでに35ヶ国以上を訪れ、2023年には念願の世界一周を果たす。2023年、2024年に富士フォトギャラリー銀座にて個展を開催。その他企画展やSNS等を通じて作品を発表している。
Instagram:cat_serenade
X:naho_umineko
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