フォトエッセイ:海外の牧場をめぐる風景【第5回】 ヒルトップファーム

本連載の第1回から第4回では、イングランドの観光牧場であるコッツウォルドファームパークを紹介しました。
今回は、同じくイングランド中央部のヨークシャーデイルズ国立公園内に位置するヒルトップファーム(Hill Top Farm)を紹介します。

動物たちとふれあいながら泊まることができる牧場

ヒルトップファームでは、いわゆるファームステイも受け入れており、コテージの1棟貸しを行っています。

宿泊は1週間単位、または3〜4日単位で利用できます。すぐ近くには素敵なパブがあるので、食事はパブで楽しむことも、自炊することもできます。

オーナーのニールさん、リーさん夫妻は、約1,200エーカーの広大な牧場(東京ドーム約100個分)で約40頭のベルテッドギャロウェイ種のウシと約80頭のスウェールデール種のヒツジ、そして数羽の鶏と数頭のボーダーコリーを飼育しています。ボーダーコリーはしっかりと訓練されており、ウシやヒツジの転牧(草を食べ終わった牧草地から次の牧草地への移動)にも活躍していました。

ベルテッドギャロウェイ種は、スコットランドのハイランドキャトルを祖先にもつギャロウェイ種をさらに改良した品種で、黒地に白いベルト状の毛色が特徴です。この独特の毛色は遠くからでも頭数を確認しやすいという実用的な理由で生み出されたものだそうです。

持続可能な牧場を目指して

夕食後、ニールさんと2時間ほど話す機会をいただきました。ヒルトップファームは彼らの代で4代目にあたり、環境への負荷を最小限に抑えるために、あえて飼育頭数を増やさない方針で、過去に比べてかなり頭数を減らしているとのことです(土地の面積に対して、飼育頭数はかなり少ないと言えます)。お話のなかでニールさんは、「サステイナブル」という言葉を繰り返し口にしていましたが、それは流行としてではなく、ヨークシャーデイルズ国立公園の自然環境を維持し、野生動物の生息地を守るための真剣な姿勢を表していました。また、放牧肥育(穀物を使わず、草だけでウシを肥育する方法)を実践し、肉はロンドンなどの高級店か村のファームショップでのみ販売し、安売りは絶対にしないと強調していたのが印象的でした。

【Hill Top Farm】
https://hilltopmalham.co.uk

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。