ペット用以外にも、動物園・水族館にいる動物用ミルクの製造・販売をしている森乳サンワールドの社員さんが、ミルクを使用している全国の動物園・水族館のスタッフにお話しを聞く本企画。
今回は、アドベンチャーワールドに所属する獣医師の尾﨑さんと飼育スタッフの真柴さんへのインタビュー後編です。前編と共にお楽しみください。
前編:https://midori-ikimono.com/2025/05/29/withmorinyumilk1/
大変なこともありますが、愛情をもって接しています

―飼育中に発生する課題はどのように解決していますか?

―パンダの場合、飼育で一番大変なことは竹の確保です。竹にも種類がたくさんありますし、個体や季節によって食べる竹の種類が全く異なります。例年パターンは決まっていますが、そのパターンとパンダがそのときにどのような竹を食べているのかを目視で確認して、それに近い竹を京都と大阪の2か所をメインに仕入れています。
業者さんとも連携を取りながら、試行錯誤を繰り返して食べてくれる竹を手配することが大変です。

―2か所から分けて仕入れているのですね。

―様々な種類の竹を仕入れることで、パンダが選択できるようしています。場合によっては仕入れたものを食べないこともあるので、パーク内にある竹林から切ってくることもあります。
食べる量が少なくなってくると、パンダはお腹を壊してしまいます。「お腹がすいたのなら食べればいいのに……」と思いながら別の竹を与えていますが、気に入らないと投げ捨てて暴れまわります。

―パンダはグルメなんですね。

―1日に与える竹の量が決まっているのですが、お気に入りの竹を先に与えてしまうと後から与えた竹を食べなくなってしまいます。そのため、パンダにとっておいしいと感じるランクの低い竹から順番に与えるようにしています。
他にも、飼育スタッフが近くで見ていると食べなかったり、わがままを言った後にもっと良い竹をあげると学習して、その後もわがままを言ってさらにおいしい竹を求めてくるので気をつけています。こういった心理戦も可愛らしくて面白いところではあります。


―特に心に残っている動物とのエピソードはありますか?

―彩浜(さいひん)が生まれたときです。パンダは約100~200グラムと小さな状態で生まれてくるのですが、彩浜は75グラムと非常に小さな状態で生まれてきました。まるで、干からびたように骨と皮の状態で、健康な証拠のムチムチ感がなく、しわしわでした。
今では元気に育っていますが、当時は本当に死んでしまうのではないかと思いました。



―2020年に楓浜(ふうひん)が生まれたときのことも印象深いです。コロナの影響で中国から研究員が来られず、生まれて1週間~10日間は日本人のスタッフだけで対応しました。2003年に生まれた双子の隆浜(りゅうひん)、秋浜(しゅうひん)のときにも同じようなことがあったそうなのですが、楓浜のときは若いスタッフが多くて凄く不安でした。
また、最初に生まれた赤ちゃんを母親から預かったときに、すごく緊張したことを覚えています。生まれる前に、人形で「この角度からアプローチしよう」といったシミュレーションをしました。中国から電話でサポートを受けながら対応しましたが、とても印象に残っています。

今後は園館と各動物に寄り添ったアップデートを?

―森乳サンワールドに今後期待することや要望はありますか?

―これまでに、パンダミルクの開発者である高津さんに海獣ミルクを作っていただきましたが、様々な動物の母乳成分が研究段階なので、海獣の括りではなく、各動物に合ったミルクを開発していただけるとありがたいです。

―アザラシの場合には、海獣ミルクに別のミルクを混ぜて油分を増やすと聞いたことがありますが、最初から適したものがあると良いということでしょうか?

―そうです。需要は少ないかもしれませんが、その動物に合ったものがあれば助かりますし、そのほうが安定した人工哺育ができます。

―哺乳器についてはいかがでしょうか?

―今は牛用のものを代用しています。大きなサイズのものがあると嬉しいです。

―ナマケモノに人工乳を与える際に、乳首の形状に苦労しました。様々な哺乳器を試しましたが、与える動物に近い形のものがあればもっとスムーズに進むと思います。少しの違いで飲まなくなってしまうこともあります。

―ミルク以外のフードについてはいかがですか?

―パンダの主食としても与えられるビスケットのようなものがあるといいなと思っています。時期と個体によって竹の好みが異なりますし、夏場などは採食量がガクンと減ります。これらを気にせずに食べてくれるものがあると助かります。

―なるほど。いつでも食べてくれるものですね。

―ただし、パンダの性格上、嗜好性が強すぎると竹を食べてくれなくなってしまいますし、パンダが竹ではなくてビスケットばかり食べていたら、お客さんに竹を食べるパンダのイメージとのギャップができてしまうと思います。
一方で、高齢になると歯が悪くなり、硬い竹が食べづらくなっていきます。中国では、粉末状にした竹の葉っぱを団子にして食べさせています。当パークでも試したことがありますが、人力だと量も作れず、結局食べてくれませんでした。簡単に食べられるビスケットのようなものがあると凄くありがたいですね。

―ミルクを哺乳以外の体調管理や栄養補給に使うことはありますか?

―イルカやアシカには、寒天やゼリーのようにして与えています。

―痩せている動物に対して、栄養補給として餌にまぶして与えることもあります。サル類には、ミルクではなくチューブ・ダイエットを与えています。

―猫科のチーターやライオン、トラにも与えていますね。


―レッサーパンダにもパンダミルクを与えたことはありますか?

―2018年に補助として赤ちゃんに与えていました。


―哺乳期だけではなく、成獣からシニアまで一生涯与えることは難しいですか?

―パンダは、母乳を飲んでいた子どもから成獣になるにつれて竹を吸収するように変化するので、脂肪分の多いミルクは与えられません。

―年齢を問わず与えるとしたら、肉食の動物とサル類かなと思います。

―パンダの給餌について、年齢やライフイベントごとに配慮していることはありますか?

―明確なプログラムとして持っているわけではありませんが、成獣は竹が不足するとお腹を壊してしまうので、基本的には竹をたくさん食べさせています。便の量でどのくらい食べたのかを把握しています。10キログラムを下回ると少ないので、質のいい竹を常に確保するように努力しています。
赤ちゃんの食事が少しずつ竹に切り替わっていく段階で、人工乳と併用しながら竹を食べさせるようにしています。最初は柔らかい葉を中心に与えます。腸が成熟していない若いうちに硬い竹を与えてしまうと、腸内で詰まったり、傷ついたりする可能性があるので、少しずつ移行していきます。
年をとって竹の硬い部分が食べづらくなったときには、可能な限り葉を中心に食べさせます。しかし、嗜好性が下がると食べなくなってしまうので、幹を細かく割いて食べやすくしています。

おわりに
今回はパンダミルクを使用していたアドベンチャーワールドさんにお邪魔しました! 尾﨑さんと真柴さんからは、パンダをはじめとして動物飼育の難しさや大変だったことなどを聞くことができ、動物たちへの深い愛情を感じました。
ミルクをはじめとしたフードや哺乳器についても多くの要望があることが分かり、今後に繋げていきたいところです。
本企画では、全国の動物園・水族館へ足を運び、ミルクの使用の実情や飼育についてお話を伺っていきます。次回もお楽しみに!

【森乳サンワールド】
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◎森乳サンワールドのミルクに関するの過去の記事はこちらから