フォトエッセイ:海外の牧場をめぐる風景【第6回】長い毛と角が美しいハイランドキャトル

本連載の第5回では、イングランド中央部・ヨークシャーデイルズ国立公園内の「ヒルトップファーム」を紹介しましたが、今回は舞台をイギリス北部のスコットランドへ移し、「ハイランドキャトル」の牧場をご紹介します。

スコットランドの文化に馴染む「ハイランダー」

ハイランドキャトルは、「スコティッシュハイランドキャトル」「ハイランドカウ」とも呼ばれ、親しみを込めて「ハイランダー」と略されることもあります。特徴的な長く美しい毛と大きな角は、見る人の心を惹きつけます。

スコットランドのお土産屋では、ぬいぐるみやイラストなど、ハイランドキャトルのグッズが必ずと言っていいほど並んでおり、それだけこのウシがスコットランドの文化や風景に根付いていることがわかります。

私が訪れたのは、スコットランドの自然豊かな丘陵地にある牧場です。ここでは約30頭のハイランドキャトルが飼育されており、すべての個体に名前がつけられています。牧場主のヒラリーさんはスコットランド・ハイランドキャトル協会の元会長であり、画家としても活動されています。

この牧場を訪ねるきっかけは、スコットランドの首都エジンバラ近郊で毎年開催される「ロイヤル・ハイランドショー」という大規模な農業イベントでした。このショーにはハイランドキャトル協会のブースが出展されており、そこで「牧場を見学させてほしい」とお願いしたところ、快く引き受けてくださいました。

ヒラリーさんは、それぞれのウシの性格や特性を把握して、それに合わせた飼育管理を実践されていました。
名前をつけ、個体の性格にまで配慮された飼育が行われているとはいえ、これらのウシも最終的には食肉として出荷されます。

「いただきますの心で命に感謝をする」という考え方は、とても大切だと思いますが、それだけでは動物の環境は変わりません。「感謝の気持ち」は、実際の飼育環境の改善が伴ってこそ意味を持つと私は思います。

ヒラリーさんの牧場では、生きている間の幸せを考え、できるだけストレスレベルに配慮するアニマルウェルフェアの理念を随所に感じました。

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。

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