フォトエッセイ 犬と人が織りなす文化の香り【第18回】ポルトガル(ナザレ)

首都リスボンからバスで1時間30分ほどのところにある、ポルトガル西部の町ナザレ。大西洋に面し、豊かな歴史をもつこの町は、新約聖書でイエス・キリストが少年時代を過ごしていた場所で、キリスト教巡礼の中心地として知られています。またサーファーが集まるサーフィンスポットとしても有名です。ナザレは小さい町ですが、高い崖によって地区がわかれています。海岸部であるプライア地区、丘陵にある旧市街のシティオ地区、さらに東側の丘陵にあるペデルネイラ地区という特徴的な地形で構成されています。

海の霧が漂う早朝。迷路のように細く長く続く路地に誘われ、行き先も決めずに歩き始めました。路地の狭いところでは、家と家のあいだが2メートル弱です。さわやかな洗剤の香りが周囲を包み込み、空に向かってはためく洗濯物があちらこちらに見られます。家の中からはラジオの音楽や掃除機の音、そして食器を片付ける音が流れてきます。その音に混じって、夫婦のちょっとした小競り合いも聞こえます。そんな生活音とともに、ナザレの人々と犬たちの1日が始まります。

最初に出会ったのは、玄関を掃除しながらボーダー・コリーと遊ぶ女性でした。

軽いあいさつを交わした後、真っ直ぐに伸びた路地を歩いていると、後ろから花束を持った男性が追い抜いていきました。道の先には大きな白い犬と、奥様と思われる女性。

素敵な光景だなと思いながら隣の路地に入っていくと、大きな緑色のドアからとぼとぼこちらに近づいてくる犬に出くわしました。しょんぼりとした表情をしていましたが、とても人懐っこい性格のようで、控えめにしっぽを振りながらあいさつに来てくれました。その後、近所のカフェで働くお姉さんに頭をポンポンとなでられたり、犬好きの人の後を追いかけたりしていました。

路地に入って30分ほどにもかかわらず、この町の日常生活を垣間見ることができました。次にどのような出会いが待っているのかを想像すると、わくわくが止まりませんでした。

朝食が終わるころ、近所の人々が集まって一服しているところに出くわしました。集まりの中心にいたのは1匹の犬。「オラ」とあいさつすると、「どちらから来たのですか?」と尋ねられました。「日本からです」と答えると、「1杯どうぞ」とコーヒーをいただきました。

異国から来た私たちにも気さくに声をかけ、自然に文化に迎え入れてくれるナザレの人々。同様に、ナザレの犬も自然体で人を受け入れます。これがナザレのスタイルなのかもしれません。

【写真・文】
蜂巣文香(はちす・あやこ)
写真家。犬、猫、コンパニオンバードなどのペット写真をはじめ、手仕事やライフスタイルなどさまざまな分野で“伝わる”写真を日々撮影している。広告や雑誌、書籍、WEBなど幅広く活躍中。欧米を中心とした海外での撮影経験も豊富。愛犬雑誌「Wan」(緑書房)でもおなじみのカメラマンで、柴犬をモチーフにしたカレンダーシリーズ「しばいぬ(卓上)」「日本の柴犬(壁掛け)」「黒柴(壁掛け)」(緑書房)も毎年好評を博している。
Instagram:dogtionary_hachi

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