フォトエッセイ:海外の牧場をめぐる風景【第7回】農業ショー:スリー・カウンティーズ・ショー(イギリス・マルヴァーン)

日本ではあまり知られていませんが、イギリスでは「農業ショー(Agricultural Show)」と呼ばれる催しが、毎年各地で開かれます。

これらは初夏の風物詩ともいえるイベントで、畜産農家や農業関係者が出品する場であると同時に、一般の人々にとっても楽しめるお祭りのような存在です。家族連れや観光客が訪れ、動物にふれたり、美味しいものを味わったり、ショッピングやアトラクションを楽しんだりと、農業と地域文化が一体となったにぎやかな場になっています。日本でも牛を中心とした共進会が各地で開かれていますが、イギリスの農業ショーはもっと開かれた「お祭り」の雰囲気があるのが大きな違いです。

「スリー・カウンティーズ・ショー(Three Counties Show)」は、イングランド西部にあるマルヴァーンという町で、毎年6月に3日間開催される大規模な農業ショーです。ウスターシャー、ヘレフォードシャー、グロスターシャーの三つの州を代表するイベントとして知られ、約90エーカー(東京ドーム7〜8個分)の会場には毎年およそ9万人が訪れます。まさにこの地域の初夏を象徴する光景です。

会場の中心となるのは、牛や羊、馬、豚、ヤギ、さらにはニワトリやアヒルといった多彩な家畜たちの展示です(その年の疾病発生の状況で展示されない動物種もあります)。

サフォーク種の羊やヘレフォード種の牛といったイギリスを代表する品種だけでなく、国内でも数が少なくなった希少な在来品種が多数出展されるところが、このショーの大きな魅力です。動物たちは品種ごとに審査され、それぞれの部門で賞が決まっていきます。鮮やかなリボンを首にかけた家畜と、その横で誇らしげに立つ飼い主の姿は、この農業ショーならではの素敵な光景です。

もちろん、家畜の審査だけではありません。乗馬ショーや羊の毛刈りの実演、地元の農産物やチーズ、この地域特産のサイダーを味わえるフードマーケットも人気です。子どもが動物と触れ合えるエリアや移動式の遊園地、カントリーサイドで着る服を扱うテントもあり、誰もが楽しめる工夫がいっぱいです。また、BBCの番組でもおなじみのアダム・ヘンソン氏がトークショーに登場することもあり、地元メディアで大きく取り上げられるにぎわいをみせています。

スリー・カウンティーズ・ショーは、農業と畜産の伝統を守りながらも、地域の人々や観光客が一緒になって楽しめる「初夏の田園フェスティバル」として、多くの人々に親しまれています。

【文・写真】
伊藤秀一(いとう・しゅういち)
東海大学農学部動物科学科教授、家畜写真家。1972年東京都生まれ。麻布大学獣医学部環境畜産学科卒業後、麻布大学博士課程修了。北海農業研究センターなどの研究所での勤務を経て、現在は熊本県の東海大学農学部で農用動物と動物園動物の行動およびアニマルウェルフェアを研究している。2019年に1年間、スコットランド農業大学 動物行動学・福祉学チームへ留学。著書に『まきばなかま』(東海教育研究所)、『動物福祉学』(共著、昭和堂)、『動物行動図説』(共著、朝倉書店)、『畜産』(共著、実教出版)など。

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