前編では、犬と猫に共通する栄養の基本から、シニア期に起こる体の変化について解説しました。
後編では、シニア期になるとよく耳にする「シニア用フード」や「療法食」について解説します。

シニア用フード(総合栄養食)とは
フードには総合栄養食と一般食があります。総合栄養食とは、AAFCO(Association of American Feed Control Officials、米国飼料検査官協会)が定めた栄養基準を満たしたフードであり、健康な犬や猫が日常的に食べ続けることを前提に設計されたフードです。
一般食は、AAFCOが定めた栄養基準を満たしてはいないが、嗜好性などを上げるために総合栄養食に加えるものや、おやつのようなフードです。その違いも認識しながらシニア用フードを選んでください。
注意点としては、シニア用フード=病気の治療目的のフードではないということです。病気になってしまった場合は、獣医師に相談のうえ、療法食への切り替えが必要になることがあります。
一般的なシニア期向けのフードとは
一般的に、シニア期に適したフードは以下の2点が当てはまることが多いです。
1.消化しやすい原材料を使用している
2.適度なカロリー設計がなされている
これらに加えて、近年では機能性により他社製品との差別化をするフード会社が多くあります。最も多いものは、関節などの抗炎症の目的で抗酸化成分を配合しているものです。

シニア期向けフードに多く含まれる機能性原料とその目的
日本国内で一般的に販売されているシニア期向けドッグフードや、関連サプリ・機能性食品において、よく使用されている抗酸化作用や健康維持を目的とした機能性原料を紹介します。
抗酸化ビタミン類
・例:ビタミンE・Cなど
・目的:体内の活性酸素の除去、細胞の酸化ストレス軽減、免疫機能サポート
多くのシニアフードに配合され、抗酸化機能を強化するためにビタミンEが高めに配合されています。
天然ポリフェノール類
・例:松樹皮エキス、ブルーベリー、カテキン、クランベリーなど
・目的:強い抗酸化作用で細胞の酸化を抑制
機能性として、抗酸化、免疫サポート、尿路・血管の健康維持などが明記されます。
必須脂肪酸
・例:魚油などが持つEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、緑イ貝に含まれるETA(エイコサテトラエン酸)などのオメガ3脂肪酸
・目的:炎症抑制、皮膚・被毛の健康維持、脳・神経機能サポート
緑イ貝や魚油由来のEPA/DHAは、シニアフードでよく採用されている必須脂肪酸で、抗酸化と炎症抑制に寄与します。オメガ3脂肪酸やオメガ6脂肪酸(リノール酸とアラキドン酸など)のバランス設計は、シニアフードでもよくみられます。
関節・運動機能サポート成分
・例:グルコサミン/MSM(メチルスルフォニルメタン)/コンドロイチン/緑イ貝エキス(グルコサミノグリカン)
・目的:関節(軟骨)の健康維持、炎症の緩和補助
関節の炎症を緩和する成分ですが、シニア期の運動機能維持に寄与します。
乳酸菌(消化・腸内環境サポート)
・例:プレバイオティクス(イヌリン、オリゴ糖など)、プロバイオティクスまたはポストバイオティクス(乳酸菌、ビフィズス菌など)
・目的:消化吸収のサポート、腸内環境の改善
消化機能が落ちやすいシニアフードでは、プレバイオティクスやプロバイオティクスが配合*されることがあります。
*プレバイオティクスとプロバイオティクスの配合をシンバイオティクスと呼ぶ
その他配合されることのある機能性原料
・タウリン
・目的:特に猫の心臓機能・網膜機能の維持
猫では必須アミノ酸であり、シニアフードでも通常多く配合される成分です。高齢期の心機能や目の健康維持の助けになります。
・L-カルニチン
・目的:脂質代謝の効率化、エネルギー利用のサポート
L-カルニチンは、アミノ酸由来のビタミン様物質で、代謝が落ちてきた場合、脂質利用の効率を上げるために配合されることがあります。
・コエンザイムQ10
・目的:細胞レベルでのエネルギー代謝と抗酸化作用
体内のエネルギー生産に関わる補酵素で、抗酸化にも寄与しうる成分としてサポートフードやサプリメント系でみられます。

フードを切り替える目安
成犬・成猫用フードからシニア用フードに切り替えるタイミングは、年齢だけではなく、以下の変化のある場合に検討します(病気の場合は除外)。
・体重や体型の変化
・食後の様子や便の変化
・被毛/皮膚の状態の変化
切り替えは、7~10日ほどかけて徐々に行うことが基本です。

よく耳にする「療法食」とは
先ほど解説した機能性原料が入っているからといって、それが病気用のフードになるということはありません。機能性のあるシニアフードは療法食ではなく、あくまで総合栄養食、または一般食です。
療法食とは、獣医師から病気の診断をされた犬や猫が、獣医師の指示のもと、薬と同じように処方されるものであり、「食事療法」としての治療で用いられる一般食です。腎臓病や心臓病、尿路疾患、消化器疾患、食物アレルギー性疾患など、特定の疾患を管理するために栄養成分が調整され、一部機能性原料が加えられている食事です。特に、たんぱく質やミネラル、ナトリウムなどを意図的に制限・調整しています。
具体的には以下のような種類があります。
腎臓病用療法食
・主な目的:腎臓への負担軽減、尿毒素産生の抑制、進行速度の緩和など。
・対象:犬と猫の慢性腎臓病/急性腎障害回復期など。特に猫で使用頻度が高い
・主な栄養設計:質を保ちながらたんぱく質を制限し、リンとナトリウムが制限される。オメガ3脂肪酸を補強されることが多い。
心臓病用療法食
・主な目的:心臓/血管系への負荷軽減、体液貯留(浮腫・腹水)の抑制など
・対象:主に犬で、小型犬に多い僧帽弁閉鎖不全症などが多い。猫では限定的
・主な栄養設計:ナトリウムを制限。カルニチン・タウリンは補強される場合があり、エネルギー密度を調整する。
尿路疾患用療法食(結石症・猫下部尿路疾患など)
・主な目的:結石の溶解/再発予防、尿pHの調整、尿量増加など
・対象:犬と猫だが、特に猫の尿石症や特発性膀胱炎などで使用頻度が高い
・主な栄養設計:結石の主成分であるミネラル(マグネシウム、カルシウムなど)と、飲水量増加を目的にナトリウムが調整される。尿pHを酸性または中性に誘導(結石の種類により誘導の違いあり)するように設計される。
消化器疾患用療法食
・主な目的:消化管への刺激軽減、消化吸収の改善、膵炎や慢性腸症の管理
・対象:犬と猫の慢性腸症、膵炎回復期など
・主な栄養設計:高消化性のたんぱく質や、プレ・プロバイオティクス成分を配合し、食物繊維量が調整される。特に膵炎では低脂肪に設計される。
食物アレルギー/食事反応性腸症用療法食
・主な目的:アレルゲン除去、皮膚症状・消化器症状の改善
・対象:犬と猫だが、特に犬では食物アレルギーが多い
・主な栄養設計:原材料を限定するとともに、たんぱく質を加水分解たんぱく質(アレルギーを発現させにくくなるまで分解したたんぱく質)、または単一たんぱく源(今まで食べたことのない新奇たんぱく質を与える方法)へ変更する。プレ・プロバイオティクス成分を配合し、保存料・着色料を極力排除する。
肥満・体重管理用療法食
・主な目的:体脂肪減少、筋肉量維持
・対象:犬と猫どちらでも同じくらい使用される
・主な栄養設計:低カロリー、高たんぱく、高食物繊維による、満腹感を得やすい設計に調整される。
糖尿病用療法食
・主な目的:血糖値の安定、インスリン治療の補助
・対象:犬と猫だが、特に猫で重要性が高い
・主な栄養設計:炭水化物量/質の調整をした、低GI設計(食後高血糖になりにくい設計)にする。特に猫では、高たんぱくに設計される。
肝臓病用療法食
・主な目的:肝臓の解毒負担軽減、肝性脳症の予防
・対象:犬と猫どちらでも同じくらい使用される
・主な栄養設計:銅を制限し、たんぱく質の量と質を調整する。抗酸化栄養素が補強されることが多い。
皮膚疾患用療法食
・主な目的:アトピー性皮膚炎の補助
・対象:犬と猫だが、犬で顕著
・主な栄養設計:オメガ3脂肪酸やセラミドなどによる、抗酸化/皮膚バリア強化栄養素を補強し、特定のたんぱく質を制限する。

【TOPIC!】 獣医師からの一言
前述しましたが、機能性のあるシニア用総合栄養食は、あくまでも補助的な作用を求めているものであり、療法食ではありません。また、療法食は「体にやさしい食事」ではなく、「治療の一部」です。必ず獣医師の診断とセットで使うべきものです。獣医師の診断がないのに自己判断でシニアの犬や猫に食べさせてしまうことは、リスクを伴います。
その理由の1つは、健康な犬や猫は本来総合栄養食で必要な栄養を補いますが、診断を受けずに特定の栄養素が制限されている療法食を与え続けると、本来必要な栄養素が不足するリスクがあるためです。

おわりに―シニア期でも変わらない「健康の土台」
犬や猫の体は、年齢に関係なく五大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物・ビタミン・ミネラル)と水によって支えられています。シニアだからといって、基本となる栄養素の重要性が下がるわけではありません。前編の内容も踏まえて、以下の5点を特に気を付けてください。
1.筋肉や皮膚・被毛の材料であるたんぱく質は、安易に減らさず質を高める
2.エネルギー源で皮膚・被毛の健康に欠かせない脂質は、「適量とバランス」がカギ
3.犬ではエネルギー源として活用できる炭水化物は、猫では必須ではなく、フード設計上使われている栄養素
4.水は最も重要で、最も不足しやすいため、水分不足への意識を欠かさない
5.若い時期に比べて消化・吸収力や、活動量、エネルギー量が低下するため、フードの与え方、種類に気を配る
6.動きが鈍い、疲れやすい、飲水量や尿量が増えたなどの変化が継続する場合は、早めに動物病院を受診する
シニア期の食事で大切なのは、年齢だけで一律に減らすことではありません。その子の体調、活動量、変化を見極めながら、必要な栄養を適切に満たすことが重要です。本記事が、皆さまと愛するペットの健やかなシニアライフにつながることを願っています。
ペットサプリメントの詳細に興味のある方は、いきもののわ「ペット用サプリメントのトリセツ」の連載を参考にしてください。
[参考文献]
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https://www.avma.org/resources-tools/pet-owners/petcare/senior-pets
・American Kennel Club:How to Calculate Dog Years to Human Years.
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https://books.google.com.cu/books?id=hd4CRyaDkKoC&printsec=frontcover&utm_source=chatgpt.com#v=onepage&q&f=false
・“Nutrient Requirements of Dogs and Cats”, National Research Council. National Academies Press, Chapter 3ENERGY-9WATER, pp28-251, 2006.
https://www.nationalacademies.org/read/10668/chapter/1
・Fascetti AJ, Delaney SJ et al. “Applied Veterinary Clinical Nutrition”, Wiley-Blackwell, 2012.
https://www.wiley-vch.de/de?isbn=9781119375142&option=com_eshop&view=product&utm_source=chatgpt.com
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https://link.springer.com/article/10.1186/s40104-022-00827-8?utm_source=chatgpt.com
・IRIS, IRIS Guidelines on Kidney Disease
https://todaysveterinarypractice.com/wp-content/uploads/sites/4/2017/01/TVP-2017-0102_FEATURE_CE_IRIS-CKD_AUTHORPDF.pdf
【執筆者】
小沼 守(おぬま・まもる)
獣医師、博士(獣医学)。千葉科学大学特担教授、大相模動物クリニック(埼玉県越谷市)名誉院長。日本サプリメント協会ペット栄養部会長、日本ペット栄養学会動物用サプリメント研究推進委員会委員、獣医アトピー・アレルギー・免疫学会編集委員、日本機能性香料医学会理事・編集委員他。20年以上にわたりペットサプリメントを含む機能性食品の研究と開発に携わっている。
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