とっても身近な七つ星
やわらかな春の陽ざしが野原を包み、足元の草花が一斉に芽吹くころ、赤い小さな宝石のような昆虫が姿を現します。ナナホシテントウです。手に乗せればゆっくりと指先まで歩き、やがてパッと翅を広げて飛び立ちます。

ナナホシテントウは体長5〜9ミリメートルほどの小型の甲虫で、丸みを帯びた半球状の体が特徴です。鮮やかな赤い前翅には、和名の由来となった左右合わせて7つの黒い斑点が並びます。
黒を基調とした頭部と前胸背板には白い斑紋が浮かび、まるで小さな目のような印象も与えます。脚も黒く、全体として赤と黒のコントラストが鮮やか。この配色は単なる美しさではなく、捕食者に対して「私は美味しくない」と視覚的にアピールするための警告色と考えられています。
実際に脅威を感じた時、ナナホシテントウは二つの防御策を繰り出します。一つは「擬死」。脚を折りたたんで動かなくなり、死んだふりをして敵の注意を逸らす行動です。もう一つが「反射出血」と呼ばれる化学防御です。脚の関節から黄色い液体を滲み出させます。この液体には「コシネリン」というアルカロイド系の物質が含まれており、強い苦味と不快な臭いがあります。鳥やトカゲなどの天敵は、この味と臭いを一度経験すると、以後ナナホシテントウを避けるようになるといわれています。このように見た目の警告色と化学的な拒絶反応を組み合わせた、命を守るための戦略をもっています。
小さなからだの大食漢
ナナホシテントウは成虫、幼虫ともにアブラムシを捕食することでよく知られており、成長時には蛹の時期がある「完全変態」の昆虫です。

越冬を終えた成虫が春に目覚めると、植物についたアブラムシを活発に捕食し、やがて交尾や産卵を始めます。卵は淡黄色の小さな粒で、長さ1ミリメートルほどの紡錘形(ぼうすいけい/つむがた)をしており、アブラムシの集まる植物の葉の裏に30個ほどまとめて産み付けられます。孵化までの日数は2~7日程度(平均的には約2~3日)で、気温が高いほど成長が早まります。

孵化した幼虫は、すぐに歩き回ってアブラムシを捕食します。幼虫は黒〜暗灰色の細長い姿に頑丈な脚をもち、全身にイボのような突起があります。背中側にはオレンジ~黄色の斑紋があり、よく目立ちます。

幼虫期間は2〜3週間で、この間に数百匹のアブラムシを捕食し、3回の脱皮を経て4齢幼虫になります。やがて十分に成長した幼虫は、日当たりのよい木の幹やコンクリート壁に体を固定して蛹になります。蛹は丸みをおびた形で、蛹化直後は鮮やかな黄色をしていますが、やがてオレンジ色に黒い斑点模様が浮かび上がり、日ごとに黒っぽくなっていきます。

蛹化から1週間ほどたつと、蛹の背中や頭部が割れ、そこから成虫が現れます(羽化)。羽化直後の成虫の翅は黄色くて柔らかいのですが、次第に硬まって赤くなり、7つの黒点をもつ見慣れたナナホシテントウの姿になります。

成虫は1日に100匹以上ものアブラムシを捕食するといわれており、春から初夏にかけては活発に活動・繁殖をして世代を重ねていきます。しかし、気温が30度を超えるような高温期に餌となるアブラムシが減少すると、「夏眠」と呼ばれる休眠期間に入ります。これはススキの根元や草の茂み、石の下などに小集団で潜み、呼吸量を減らしてエネルギーを節約するための生態で、秋になると夏眠から目覚め、活動・繁殖を再開します。
やがて冬の訪れとともに、ナナホシテントウは越冬に入ります。落ち葉の下や樹皮の隙間、石の陰、あるいは家の軒下など、比較的温暖な場所を選んで潜みます。よく似たナミテントウは時に数百匹規模の大集団で越冬しますが、ナナホシテントウは数匹程度の小集団、または単独でいることがほとんどです。ただし、真冬でも気温の上がる暖かな日には隠れ場所から姿を現し、日当たりの良い場所で日光浴をしながらゆっくりと活動している姿を見かけることもあります。そして、春の気温上昇とともに本格的に活動を再開し、次の世代へと命をつないでいきます。
馴染み深い昆虫にも多彩な生存戦略が
春の野原で、足元を歩く赤い虫を見つけたら、立ち止まってじっくり観察してみましょう。ナナホシテントウの四季を通じた姿や行動を実際に観察すると、身を守るためのさまざまな知恵や、餌の少ない時期をやり過ごす夏眠や冬眠、自然界における捕食者としての役割がぎゅっと詰まっており、その巧みな生態と生存戦略の面白さに夢中になってしまうかもしれません。この春は、ぜひ自分の目で彼らの小さな営みを確かめてみてください。
【写真・文】
尾園 暁(おぞの・あきら)
昆虫写真家。1976年大阪府生まれ。近畿大学農学部、琉球大学大学院で昆虫学を学んだのち、昆虫写真家に。日本自然科学写真協会(SSP)、日本トンボ学会に所属。著書に『くらべてわかる トンボ』(山と渓谷社)『ぜんぶわかる! トンボ』(ポプラ社)『ハムシハンドブック』(文一総合出版)『ネイチャーガイド 日本のトンボ』(同上・共著)など。
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ブログ:湘南むし日記
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